第7話:ランクC-ジャッジメント-
うふふひひひ~♪ 第七話ですの。
ランクC……冒険者にとって区切りとなるランクでもある。
ほとんどの冒険者がランクD以下で燻っているが、ひと握りの者たちだけがこのランクに上がることができる。
だが、受けられる依頼の内容もランクDまでとは比べ物にならないほど難易度が上がるため、ランクCに上がってすぐに命を落とす冒険者も珍しくはない。
それが――ランクC。
「……ランクCになるための試験ですか。
僕のような新人がもう受けられるだなんて、良いのでしょうか?」
ギルドのカウンター席で受付のナタリーに説明を受けるハタカ。
彼を見つめるナタリーの目は慈愛に満ちており、ハタカの隣の席に座るジュリアは嫉妬混じりの視線を向けているがナタリーは気にしていない。
これが大人の余裕なのだろうか、……いや、ハタカの発する黄金の慈悲の精神を、ナタリーの方がより真摯に受け止めたからだろう。
ハタカは誰に対しても自分と同じように思いながら接している。だからと言ってその心の円さが周りの者にすぐに理解されるというわけではないのだ。
怒りや憎しみなど、負の感情に囚われてもっと美しい感情を忘れるのは愚かしいことであるが、そうでもなければ低ランクの冒険者たちは燻ってなどいない。
ジュリアとて、そんな冒険者たちの中からようやくランクCに上がったばかり。精神面では他の中年冒険者よりも未熟なのだ。
そんな海千山千の冒険者たちを相手取るギルド受付嬢のナタリーが、ジュリアよりも精神的に優位なのは当然と言えるだろう。
ハタカの影響力は、一緒に過ごした時間よりも、どれだけ真摯に受け止められるかで変わってくるのだから。
とは言うものの、ナタリーの余裕に関してはハタカと向き合って話をするだけで十分に幸せを感じているのだから、ジュリアの嫉妬視線など気づいてすらいないのかもしれないが。
「ところで、確かジュリアさんもランクCでしたよね?」
急にハタカに声をかけられたことで、そのキラキラ輝く目を直視してしまい真っ赤になるジュリア。
しどろもどろにながらも、愛するハタカが自分を見ているのだから不甲斐ない姿はみせたくないのが乙女の本能というもの。
すぐさまキリッとCランクらしさを発揮する。
「あ、あと……、うん。私もランクCよ。
まぁ、上がってすぐの依頼でオークの群れに殺されそうだったけどね」
「ですが、それが僕とジュリアさんの出会いのきっかけです。
ジュリアさんにとってはバツが悪いかもしれませんが、僕とパーティを組む縁となったのなら悪くないですよ。
ジュリアさん、もっと笑ったほうが可愛らしいですよ♪」
「あ、あうあぅ~~……」
「ふふっ、ジュリアのランクCの試験の時は、討伐対象とは相性が良かったのよね。
それでも片腕を持って行かれていたけど♪」
「う、うるさいわね、ナタリー!
人の失敗を笑うなんて最低よ!!」
とまぁ、ジュリアのランクC昇格試験は割と散々な出来でギリッギリの合格だったのだとか。
あと、強い魔物が多いアイバスの街周辺では手足がなくなるのは日常茶飯事である。
「回復魔法があるから何も問題はないけれど、かなり痛いからハタカ君も気をつけてね♪」
「ご心配いただき、ありがとうございます。ナタリーさん。
僕自身も魔法使いですので回復魔法は使えますが、死なないように頑張ります!」
「あ~ん♪ 本当にハタカ君は可愛いわねぇ~♪
どう? 本気でお姉さんの恋人にならない?」
「おいこら私のハタカに手を出さないでよ!」
ナタリーの軽いジャブに猛反撃に出るジュリアだが、肝心のハタカはまるで気にした風ではない。
「僕は未だ修業中の身です。
できる限りの人助けは誰に対してもしますが、恋人という特別な関係に誰かとなれるほどの人間ではありません。
いつの日か、僕がナタリーさんの愛を受け止めるに足る自信が出来たら、その時にお願いします」
「えぇ!? ナタリーだけ!? 私は!?」
「ジュリアさんにも同じです。
僕が一人前になったその時には、僕の側にいてほしいと思っています」
この言葉だけで、だらしなく頬を緩めるジュリア。
そんなやり取りを見て微笑ましく思うナタリーだが、彼女の心は本気なのだ。
ハタカは遠からずランクSの領域に足を踏み入れるだろう。いや、実力だけならばすでにランクSすら凌駕している。
それでもハタカは自分は未熟だと言い切っているのだ。
彼が目指す高みが何処にあるのかは、同じだけの才能も目標もないナタリーには分からないが、
それでもそんな彼の隣で同じものを見ていきたいと願うのであった。
「ナタリーさん、受諾のサイン確認をお願いします」
「はい……、うん。
それじゃあハタカ君。ランクC昇級試験、頑張ってきてね♪」
冒険者を始めて最初の壁であるランクC。ハタカはついにその依頼を受けるのだった。
お読みいただき、ありがとうございます。