第5話:くっころ♪ くっころ♪
んちゃ砲、的な? ラブ突然。
辺境の街アイバスから南に数時間ほどの距離にあるユーン草原。
背の低い多種多様な植物が生育し、中には有用な薬草もあるが毒草も多くあるため、新人冒険者の定番以来である「薬草採取」には適さない場所だ。
しかし樹木は少なく、足元の草は視界を遮らない場所なのだ。出てくる魔物も群れで出てくるが個々の驚異は低いため中堅冒険者へのステップアップとして利用される狩場でもある。
時刻は昼過ぎ。この場所には一人の冒険者の姿があった。
「やぁッ!」
艶のある金髪をシュシュでまとめた女性冒険者。彼女の長大な剣のひと振りによって一匹の魔物が上半身と下半身が分断される。
その剣筋からして中級者としてもかなりのものだろう。だが一人だ。
「ブキーブキー」
「ブモホホホ」
「ブフフフフ」
対して女性冒険者を襲っているのは醜悪な面構えをした豚のような魔物。オークだ。
腰布程度しか纏っていないが、背は高く分厚い脂肪と重厚な筋肉の鎧は並みの攻撃を無効化する。
そして怪力から繰り出される棍棒の一撃は新人潰しの異名を持つほどに強力な魔物。
一匹は先程倒されたが、それでもまだ三匹も女性冒険者を囲んでいるのだ。
「まさか、いつまで経っても私を新人扱いする周囲を見返すためにちょっとレベルの高い依頼を受けたらオークの群れに出くわすとは……不覚!」
自嘲めいて己の不覚を嘆きつつ、それでも華麗にオーク達の攻撃を避ける。
だがオークというのはタイマンであっても彼女個人を僅かに上回る強敵。
大剣使いということもあってオークの連携に後手に回り、徐々に追い詰められていく。
彼女とて、先ほど一撃でオークの一匹を斬り殺したように並み以上には強いが、それでも数の驚異を覆せるほどではない。
鎧の一部は砕かれ、自慢の大剣は空を切るばかり。
そうこうしていると、ついにオーク達の一匹が振りかぶった棍棒の一撃が腹に直撃してしまった。
「うぐっ、ん、ぼぇぇぇ……」
胃の内容物を吐き散らかし、それでも吐瀉物にまみれた口元を素早く拭って立ち上がろうとするが容赦のないオークの連続攻撃が決まる。
倒れた彼女の腹を執拗に蹴り続け、それでも殺さないように加減をしている。
オークというのは新人潰しの異名と同時に、人間の女性を攫って犯して孕ませるという醜悪な性欲の権化とも言える魔物。
その欲望に忠実に行動しようとしてのことだろう。
歪む視界で、それでも必死に立とうとして尻餅をついて。そんな彼女を嘲笑うようにオーク共は嬲る。
「くっ……、殺せ!」
言葉は通じないだろうが、それでも己の誇りを優先しようと口にした女性冒険者だが、殺すつもりがあるのならオークたちは嬲るような真似はしないだろう。
これから犯す、そう確固たる意思の下に女性を抵抗できなくなるまで嬲っていたのだ。
彼女の鎧は大破し、大剣は遠くに吹き飛ばされ、四肢の骨を砕かれた満身創痍の状態。
何たることか! 自殺も出来ない彼女は死よりも耐え難い屈辱を受けるのか、と思われたがそんなことはなかった。
だが、神は見ている。ここで死ぬ定めではないのであれば、必ず助けは訪れる。
千里眼を持ち、神速の移動力を持ち、なによりも強い少年というの助けが!
「女性に乱暴することは、この僕が許さない!」
突如としてその場に響いた声は上空からのものだった。
鳥か!? 飛行機か!? いいや、違う。鳥も飛行機も喋ったりはしない。
声の主は女性冒険者の折れた心に希望の火を灯し、オーク達には絶望の闇となるだろう。
空に浮かぶのは小柄ないがぐり頭の少年だった。
「たぁっ!」
まずは一匹。オークが爆発四散した。
魔法でも体術でもなく、先ほどの「たぁっ!」掛け声を音の大砲として叩きつけただけ。
魔法使いらしからぬ驚異の肺活量だからこその実力。それだけで木っ端微塵に吹っ飛んだのだ。
「いっくよー! これでどうだ!」
続く掛け声は連鎖するように残る二匹のオークを爆発四散せしめた。
そうして何事もなかったかのように、倒れた女性冒険者に近寄ると治癒魔法を施したのだった。
「間に合って良かったです。
僕の名前はハタカ。
今日から冒険者をすることになったので、ランクFです」
「あ、あぁ。ありがとう。助かった。
私はジュリア。
ランクはCよ」
色々と聞きたいこともあったが、ジュリアはひと目で自分を助けてくれた少年に心惹かれた。
真っ直ぐに自分を見つめてくるキラキラと輝く瞳。
幼く見えても決意に溢れた圧倒的強者――高ランク冒険者のようなオーラをまとった不思議な少年。
そんな一回りも年下の少年に胸の高鳴りを覚えたのだ。
「(……これが恋?)」
自分の心に問うと、はっきりと分かった。
ジュリアは、生まれて初めての恋を、今まさに経験しているのだ。
「さぁ、街へと戻りましょう♪」
何の照らいもなくジュリアの手を引いて立たせるハタカ。
身長の関係から、おんぶが出来なかったのだろうが、お姫様抱っこで空を飛びながらアイバスの街へと戻るのだった。
ハタカの腕に抱かれたジュリアは、先ほどまで感じていた恐怖を凌駕する圧倒的な安心感にときめいた。
少年の胸に頬を擦り付け、目を閉じると幸せな眠りへと落ちたのだった。
なぜアイバスの街にいたはずのハタカくんがやって来たかというと、冒険者登録してすぐに、たまたま千里眼を持っていたため騒動を感知出来たのです。
そしてこの世界では魔法使いは詠唱破棄は出来ない設定ですが、いちいち呪文詠唱だなんてめんど……もとい、小っ恥ずかしいことを書いて文字数増やすのもなんなので、
戦闘描写をカットしたいがためにギャグ好きでチート主人公という作者の好みを優先したバトル展開となります。
冒険者ランクの一番下は、モンスターファームをリスペクトしてEからにしようと思ったのですが、なぜかFから。
理由は忘れましたが、考えて書いていないのでたぶん、ノリか、その時の何かに影響を受けたのでしょう。
はて、Fから始まる作品なりキャラなり見たかな?
お読みいただき、ありがとうございます。