第11話:ナーヤム・チェン・モーンダイジィー・ナハタカ
今日は日曜日♪ ……商売は土日こそが忙しいんですけれどね。
まぁ、今の仕事は楽しいので前の仕事と違って心地よい忙しさで好ましく思っております。
具体的には時間の経過を早く感じるところを。
ここは辺境の街アイバスの冒険者ギルド。そこでは今日も頭を抱える一人のギルドマスターがいた。
「さて、どうしたものか……」
ため息混じりに頭を悩ませているこの男はギルドマスターのチェン。おっさんだ。
何を悩んでいるのかというと、
つい先日、最近の悩みの種であるハタカ少年とジュリアのコンビが連れ帰ったモンスター、“触手獣”キャロッシェルの扱いについて悩んでいるのだ。
「いや、正確にはキャロッシェル愛護団体などが出来たことで悩んでいるのだが……」
そう、街の人気者のハタカが、触手液の美味しさと、よく見れば愛嬌のあるキャロッシェルの魅力を街の住人に語ったところ、遠く離れた王都の王族から貴族まで幅広い客層から触手液の注文が殺到したのだ。
キャロッシェル自体が辺境であるアイバスの街の周辺にしか見られないのもあるが、ハタカが手早く牧場を始めて飼育に乗り出したことが原因だろう。
彼は魔法使いであるため資材さえ揃えれば建築魔法で、牧場でも家でもあっという間に建てられる。
この資材も、アイバスの街でコツコツと下積みの雑用依頼を沢山受けて得てきた人間関係の恩恵なのだから、牧場経営は街全体で取り組んでいる一大事業と言っても過言ではないだろう。
材木屋や木こりたちも、誰もがハタカのためならば、と上等な木材を無償で用意していた。
勿論、ハタカはその恩に対して牧場経営で得た収入のほぼ全てを還元している。彼は冒険者であるため、牧場で儲ける必要はないからだ。
本人曰く、「有り余る財は人と分かち合うことで幸福を作り出せる」とのこと。
これが典型的な貴族なり商人ならば、金は幾らあっても困らないなどと言うのだろうが、ハタカは謙虚であり、己の中に確固たる信念を持っている。
少しでも自分を自分で許せなくなるような――堕落に繋がる行為は他の誰が許しても自分で許せないのだろう。
とまぁ、こんな経緯で現在アイバスの街は観光地として王都の旅行雑誌にも載るほど大きく取り扱われている。
おかげでチェンは、ギルドマスターとしての職務以上に、観光や商談にやって来るお偉いさんを相手に外交面での仕事が増えていた。
領主のハーバルも同様に忙しくしているだろうが、チェンの場合は他にも困ったことがある。
「……Cランク昇級試験の対象モンスターに、家畜としての価値が生まれたことで、次のCランクの登竜門的なモンスターに困ったな」
そう、問題はそこなのだ。
キャロッシェルはそこそこに強く、こちらが逃げれば追ってこないのでCランク昇級試験にちょうど良いためによく狩られていたモンスターだったが、冒険者以外は見たことがない者も多いのだ。
実際にハタカが連れ帰ったキャロッシェルを見て、自宅の庭でペットとして飼育する者も出てきている。(牛くらいにデカいのだが)
そしてキャロッシェルの愛好家たちは愛護団体を組織し、あれよあれよという間にキャロッシェル牧場はアイバスの街の特産品として知られるようになったのだ。
それ自体は悪いことではない。
実際、ハタカに感謝する声は冒険者から一般市民まで幅広く多い。
チェンもハタカのことは、とても可愛らしい少年だと思っているが、それとギルドマスターとしての考え方は両立しにくいものである。
可愛いが厄介の種。ならば秘密裏に暗殺でもするか?
いいや、それは出来ない。ハタカ自身が強いこともあるが、ランクS冒険者のタロウを筆頭に、ランクA冒険者たちまでもハタカの味方だからだ。
ついでに領主の懐刀のポプリまでもが彼のことを気に入っている。
冒険者として現役時代には、かなり腕を鳴らしていたチェンといえど、ギルドに所属する冒険者全員――いや、街の住民全てを敵に回して勝てるものではない。
そもそも冒険者たちにストライキでも起こされようものなら、強大な野生のモンスターたちの宝庫である辺境の街アイバスは、あっという間に蹂躙されるだろう。
冒険者たちは本人の自由意思のもとに強さを探求しているのだから。
「ギルドマスター! 次にハタカくんが受けた依頼は孤児院の改修工事です!」
ハタカ専属監視役のギルド職員がチェンの部屋に情報報告に来る。ちなみにノックはしない。
「……分かった。問題があれば大きくなる前に出張ってくれ」
そしてチェンが出来ることといえば、こうしてギルド受付にてハタカが受けた依頼を逐一チェックして、監視を付ける程度のことだ。
幸いにもハタカは実力はあるが、人を疑うことを知らない。
悪意を持っていなければ、こっそり後をつけて、そのことに気づかれていても誤魔化せる!
そうして今日もハタカくんは周囲の思惑などどこ吹く風で、Cランクに昇格してからも街中の雑用依頼で住民たちとの絆を深めていくのであった。
……ギルドマスターの悩みの種として。
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