うっかりマネージャー登場
成都高校、そこは全寮制の学校である。生徒数は少ないが、誰もが個性に溢れており、ある意味では理想の学園とも言える。
「あ~あ、かったるいな。武芸は楽しいけどよ。学校の授業はつまらないからな」
劉備はフラフラと廊下を歩いていた。前方からは、両手に一杯の弁当箱を抱えた少女が近付いて来ている。
「あ~あ、部屋に戻りたいな」
「あ、危ないです」
「え?」
突然、劉備の視界が真っ暗になった。四角く固い入れ物が、雨のように彼の頭上に降り注いだからである。そして眼を開けると、目の前には尻もちを突いた少女がいた。
「おい、大丈夫かよ」
「は、はい、大丈夫ですぅ。それよりも、大事なお弁当が」
「おっと、悪い」
劉備は床に落ちた弁当箱を全て拾い上げると、そのうちの半分を持ってやることにした。
「あの、ありがとうなのです」
「気にすんなよ。それより、君可愛いね」
「あの、私、一年生の武芸部マネージャーですけど」
「え、マジで?」
影が薄くて気が付かなかったなどとは口が裂けても言えない。少女は黒いロングヘヤーをしており、左目の下に泣きぼくろがあった。黒髪のロングと言えば、関羽が思い浮かぶところだが、彼女は体付きが華奢であったし、自身無さそうな表情をしていたので、似ていると言っても、関羽とは全く違うタイプに見えた。
「この弁当は?」
「部の人達を元気付けたいと思いまして」
「へえ、じゃあ俺ももらえるのかな?」
「は、はいもちろん」
先程まで暗かった少女の顔がパッと明るくなった。
「おい、その弁当気を付けろよ。毒が入っているかも知れないぜ」
突然、劉備の肩を叩きながら、一人の男子生徒が現れた。彼は少女を見下ろしながら、意地悪そうに弁当箱を足で蹴った。
弁当箱はフタが取れて、床の上に中身がぶちまけられてしまった。
「あ・・・・」
少女は慌てて弁当箱の方に駆け寄るが、それよりも早く、その男子生徒は弁当箱を足で踏み付けた。
「けけ、こんなもん持って来てんじゃねえ・・・・ぐはあ」
語尾がおかしかったのは、劉備の拳が男子生徒の口に炸裂したからである。
「おい、こら、ウチの仲間に何してくれてんだ?」
「テ、テメーのために言ってやったんだぞ」
「どういうことだ?」
「孔明の罠だよ。こいつはな、頭が良いから、きっと弁当箱にも何かを入れているに違いねえ」
「あのな、脳みそが馬鹿か。仲間に毒を盛る奴がいるか」
劉備は男性生徒の胸倉を掴むと、強引に自分の方に顔を引き寄せた。
「おい、テメー名前は?」
「ほ、法正だ。二組の・・・・」
「そうかい」
劉備は法正の顔面を思い切り殴り飛ばすと、床に落ちたエビフライは一本取って、自分の口に放り込んだ。
「美味いじゃねーか」
劉備は倒れた法正を蹴ると、そのまま落ちた弁当箱を拾って、教室に戻ってしまった。
「劉備さん・・・・」
少女は劉備の後ろ姿をいつまでも見つめていた。
屋上
劉備は屋上で弁当箱を開けると、一緒に入っていた割り箸を割って、一人で黙々と食べ始めた。
「美味いな。うんうん」
「おい、劉備」
「ああ?」
劉備の隣に関羽が現れた。彼女は凛とした切れ長の目で劉備を見つめている。
「何すか?」
「その弁当はどうした?」
「ああ、さっき下にいたマネージャーからもらったんすよ」
劉備の言葉に、関羽は眼を閉じて溜息を吐いた。
「劉備、それは食べない方が良い」
「んだと、お前まで、そんなこと言うのかよ」
「違う、それは諸葛亮の作った弁当だろう。止めておけ」
「見損なったぜ、あんたまで孔明の罠だなんて言うのか」
「罠じゃない。それは天然だ」
「わけ分かんねえよ」
関羽は興奮している劉備にゆっくりと事情を説明した。
「諸葛亮の部を思う気持ちは本物だ。しかしだ。彼女は料理が致命的に下手なのだ」
「美味いけど?」
「そうか、なら良かった。しかし後で腹が緩くなっても、彼女を恨むなよ」
「ああ、もち・・・・」
言い掛けたところで、劉備の顔が真っ青になった。そして割り箸を手から落とすと、フラフラと立ち上がった。
「何処へ行く?」
「少し、トイレに・・・・」
「飯の途中にトイレとはけしからんな」
「いや、急ぎだから・・・・」
「急ぎだと。それならばどうして歩いているんだ?」
「こ、これはだなあ。走ったら漏れてしまうんだよ」
「ほほう」
劉備は勢いで取った行動を深く反省した。