生まれ変わった黄忠
華雄の右肩に矢が突き刺さった。彼女は低く唸ると、その場に崩れ落ちた。そして倒れたままベンチで見ている呂布と目が合って、慌てて立ち上がると、3分経過による休憩の銅鑼が叩かれた。武芸のルールとして、1ラウンドは3分と決まっている。果たして、このルールによって救われたのはどちらなのか、少なくとも、華雄はこのラウンド中。生きた心地がしなかった。
「ほら、先輩」
劉備はベンチに帰還した黄忠にペッドボトルに入った水を渡した。そしてニヤリと嫌らしい笑みを浮かべた。
「試合中、黄忠先輩のパイオツがぶるんぶるん揺れてましたよ。目の保養になりました。ありがとうございます」
「あら、うふふ、誰もあなたのためにしたわけじゃないのよ。それよりも、この試合で勝ったら、私、レギュラーに上がれるかしら。張飛に勝ってるかしら」
「ええもう、実力もおっぱいもずっと上ですよ」
他愛のない会話をしながらも、黄忠の眼は向かい側のベンチにいる華雄をじっと見ていた。水を一杯飲むと、あっという間に試合再開の銅鑼が叩かれた。
「悪いけど、さっさと終わらせたいの。さっきから、私を嫌らしい眼で見て来る後輩がいるのでね」
「ふん、それはこっちのセリフだ」
華雄は槍を構えると、黄忠に向かって斬り掛かった。黄忠は再び矢を放つと、華雄の脇腹にそれを命中させた。華雄は一瞬だけ、体をくの字に曲げたが、そのまま立ち止まることなく、走り続け、一気に黄忠の目の前にまで到達していた。
「しまった・・・・」
弓は遠距離から攻撃できる便利な武器ではあるが、武芸においては、他の武器よりも威力が低いという難点がある。張飛や馬超、そして関羽が持っているような必殺力は、弓には存在しないのだ。だからこそ、遠くから何度もダメージを与える必要があった。しかし、華雄はそれを見抜いたのか、攻撃を避けることを諦めて、攻撃を喰らいながらも、相手に向かって行くという作戦に切り替えた。
「はああああ」
「うう・・・・」
黄忠の頬を、眩い銀色の刃が掠めた。瞬間、黄忠は右目を押さえて仰け反った。
「やった。右目を奪った」
華雄は舌なめずりすると、そのまま黄忠の鳩尾を足で蹴って、彼女を転ばせた。
「ふん、華雄の勝ちだな」
ベンチで見ていた呂布が不敵な笑みを浮かべた。華雄の能力は相手の感覚を奪うことだが、それは言葉で説明できるほどのシンプルな技ではない。眼に攻撃を受ければ視力を。耳に受ければ聴力を、それぞれ一時的に奪うことができる。今、黄忠は、弓使いとしては命とも言える視力を一時的に失ってしまったのだ。
「ああ・・・・」
黄忠は弓を投げ出して、地面の上に蹲ると、必死に手探りで弓を探した。
「もう手遅れだ」
華雄は足元に転がって来た弓を遠くに蹴ると、槍を黄忠の額に合わせた。
「これで止め」
もう駄目だと、劉備を含め、誰もが眼を閉じた。しかし、部長の関羽だけは違った。フェンスに両手を叩き付けると、黄忠に向かって叫んだ。
「黄忠、心の眼で見ろ。気を使うんだ。気の力で相手の位置を見つけ出せ」
今しがた、気の使い方を習得したばかりの黄忠には酷な提案だった。しかし、この状況で、黄忠も生まれ変わろうとしていた。つまり、彼女の手には何も握られていなかったが、掌には金色の光が集まっていた。彼女はそれを無意識に振り絞ると、華雄の額に向かって飛ばした。
「え・・・・あ・・・・?」
華雄の額を光の矢が砕いた。彼女はそのまま仰向けに倒れると、思わず持っていた槍を手放してしまった。
「い、今何が・・・・」
洛陽学園の生徒達は、一斉に呂布に視線を合わせた。呂布は腕を組んだまま眼を閉じていた。
「アレは、気の基本的な用法の一つ、「斬」だ。何かを飛ばしたように見えるが、あれは自分の指の爪の斬れ味を、気で強化したんだ。気には全部で四つの基本的な用法がある。一つは、物体や体の一部に気を込めることで、頑丈にしたり、威力を高めたりできる「撃」そして、今登場した「斬」、他にも、全身を気で覆って、敵からの攻撃を防御する「陽」や、体内の気を消すことによって、姿を隠す「陰」がある。まさか、今、気の力に目覚めた黄忠ごときが、それを使うなんて」
呂布は敵ながら見事と溜息交じりに言った。




