奪われた感覚
黄忠の姿を見て、関羽は訝しそうに何かを考えていた。同じように、近くで見ていた趙雲も思うところがあるらしい。しきりに関羽の方をチラチラと見ている。
「黄忠はどうしたんだろう?」
関羽がボソッと呟くと、趙雲も同じように顎に手を当て考えていた。
一方、黄忠はふらつきながら、右手に掴んだ大弓の行方を捜していた。それは、周りから見れば滑稽で、ふざけているようにしか見えなかったが、同時に、言葉にはできない不気味さも孕んでいた。
「あたしの槍に斬られた部分は、しばらくの間、消失する。しかしそれは本当に消えたわけじゃない。脳が消えたと錯覚するんだ。黄忠、あんたの脳は、自分の右腕が無くなったと認識している」
「どういうことよ?」
「言った通りだ。悪いがあたしの勝ちだね。この技を五感奪取と名付けている」
華雄は槍を振り回すと、もっぱら白兵戦を黄忠に挑んできた。
黄忠はいつの間にか、大弓を地面に落としていた。華雄は槍の先端を黄忠に向けると、今度は右の頬をそれで斬りつけた。
「あう」
黄忠の頬から血が顎に掛けて流れ出た。彼女はそのまま尻もちを突くと、落ちている槍を発見し、それを左手に掴んで立ち上がった。
「まだやるつもり?」
「はあ・・・・はあ・・・・」
黄忠は矢を三本放った。矢は華雄を避けると、そのまま静止することなくフェンスにぶつかって折れた。
「な・・・・に・・・・?」
「ほほほ、あんたの必殺技も封じたわけだ。これはいよいよあたしの勝ちだね」
「うふふふふ、それはどうかしらね」
黄忠は突然笑い始めた。この状況で何が可笑しいのか、不気味に思った華雄は一歩だけ後ろに下がり、槍をしっかりと持ち直した。
「ハッタリは止めな。そうやってあたしを心理的に揺さぶる気だろ」
「違うわ。あなたは知らないようだけど、武芸にはあなたのまだ知らない不思議な力が存在している」
黄忠は関羽の方を振り返ると、得意げにニコッと微笑んだ。その瞬間、彼女の体を金色の光が包んだ。
「あ、あれは・・・・」
関羽と趙雲は互いに目を丸くした。
「な、何があったんですか?」
諸葛亮が状況が呑み込めず、慌てていたが、それを抑えつけるように劉備が欠伸交じりに答えた。
「あれは、「気」だな。ほら、前に関羽部長が言っていた力だ。どうやら俺にも使えるらしいが、まさか先輩がね・・・・」
劉備の言葉に関羽は頷いた。
「そうだ。気とは肉体に眠る潜在能力。それを体に纏えば、筋力を増強したり、自然治癒力を高めたりできる。また物質に気を込めることも可能で、物体を頑丈にしたり強くできる。驚いたよ。普通は一つの学校で一人使い手がいれば凄い方なのに、うちの学校では、私と趙雲、そして劉備と黄忠が使える。馬超も完全ではないが、この前、その片鱗を見せた」
黄忠の弓を持つ手に力が入る。彼女は弓を構えると、金色の気に包まれた矢を一本、華雄目掛けて放った。




