張飛と関羽
張飛は木牛を担いで、学校の裏山を登っていた。許昌高校の試合で痛めた腕はヒリヒリと熱を帯びているが、それに甘えてはいられない。そんな彼女の努力を見透かしたかのように、彼女の前に関羽が立ちはだかった。
「ちょい、練習の邪魔だよ。退いた退いた」
「悪いな張飛、お前を次の試合に出すことはできない」
「はあ。今なんて?」
張飛はわざと聞こえないふりをした。
「分かっているはずよね。許緒との試合で、お前は入院するほどの怪我を負った。次の試合に出ても、皆の足手纏いになるだけだ」
「あたしの代わりなんているの?」
関羽としては辛い質問である。いると答えれば、張飛のプライドはズタズタだし、いないと答えれば、彼女はより一層無茶をするだろう。張飛との付き合いが最も長い関羽は、彼女の全てを知り尽くした上で答えた。
「いる」
「・・・・」
張飛は木牛を地面に落とした。透明なガラス玉のような瞳が関羽を見ている。そしてそのまま、後ずさると、無言で反対方向に走り去ってしまった。関羽はそれを見て舌打ちをした。張飛の性格からいって、周りに八つ当たりするに違いない。昔から彼女の身勝手さは知っていた。
「黄忠、いるんでしょ。出て来い」
関羽の背後にある大木の裏から、自分よりも大きな弓を持った黄忠が現れた。彼女は豊満な胸を揺らしながら額の汗を拭うと、弓を気に立て掛けた。
「張飛には悪いけど、私はラッキーだわ。彼女が怪我しなければ、私は試合に出れなかったもの」
「あくまでも臨時レギュラーだ。全国大会は張飛と一緒に闘う」
「でも、私のアピールしだいによっては変わるわよね」
「ふっ、そうだな。知っているよ。お前が陰で一人で練習していたのを。どれほどの強さか後で見せてもらう」
関羽はニコッと爽やかな笑みを黄忠に向けた。
山を降った張飛はどうしたか。短気な彼女は教室に戻ると、殴り書きの字で退部届けを書くと、それをクシャクシャに掴んだまま、諸葛亮のいる部室に乗り込んだ。丁度、彼女は部員のユニフォームを洗濯していたところだった。
「あ、張飛さん。もうすぐで洗濯が終わりますからね」
「もう良いよ。あたしには必要無い。それよりもこれ・・・・」
張飛は手の中で皺だらけになった封筒を一枚、諸葛亮に手渡した。
「ちょっと、冗談ですよね。部長でも喧嘩でもしたんですか。これからという時に・・・・」
「ふん、関羽部長はあたしを見限ったようだよ。姉妹の契りを交わした仲だというのに、あたしを正から外すって。試合には出さないって」
「それは、張飛さんを心配したからですよ」
諸葛亮は知っていた。というよりも、諸葛亮から関羽に進言したのだ。張飛の怪我の具合を見て、彼女を試合に出すのは危険だと訴えた。最も、関羽も同じことを考えていたので、張飛の代わりに黄忠をレギュラーにすることにしたのだ。
「あんたまで関羽の味方か。あたしは辞めるよ。部活も武芸もね」
張飛が去ろうとしたタイミングで、今度は趙雲が慌てて部室に入って来た。彼女は落ち込んでいる張飛も見えないような様子で、息を荒げていた。
「大変よ。さっき、全国大会の組み合わせが発表されたわ。これを見て」
趙雲はポケットから一枚の紙切れを出すと、それをテーブルに叩き付けた。諸葛亮と張飛は慌ててそれに眼を通した。
「これは・・・・」
「おいおい、マジかよ」
張飛と諸葛亮は喧嘩も忘れて目を丸くした。成都高校の第一回戦の相手が、いきなり洛陽学園だったというのだから、彼女らが驚くのは当然かも知れない。
「もう一つ、びっくりしたのが、許昌高校の第一回戦の相手が冀州大付属なのよ。いきなり強豪校同士の潰し合いって、穏やかじゃないわね」
趙雲は紙を掴むと、今度は関羽のいる裏山に向かって走って行った。




