レギュラー争奪戦
成都高校は全寮制である。そのため、家の無い劉備も部屋を借りることができ、とりあえずは寝床を確保することができた。
「早速、休みますかね」
劉備は自分の部屋に戻ると、鞄を放って、冷たいフローリングの床に寝転がった。全く怒涛の勢いで終わった一日であるが、思えば、こんなにも汗を掻いて、燥いだのは何年振りだろうか。劉備は元の世界のことを考えながら、眼を閉じた。すると、彼の部屋のドアをドンドンと慌ただしく叩く音が聞こえて来た。
「は~い」
劉備が間の抜けた返事で答えると、勝手にドアが開き、一人の女性が部屋に入って来た。
「あら、御免下さい」
「ちょ・・・・」
部屋の中に艶めかしいバラの香りが漂う。そこには、赤いチャイナドレスを着た妖艶な雰囲気の美女がいた。桃色の肩まで伸びた髪に、関羽をも超えるであろう豊満な胸、キュッと引き締まった腰元。漫画であれば鼻血を噴出しているところだった。
「うおお」
チャイナドレスは胸元の部分が裂けており、谷間を強調するようになっている。少し運動したら、ボタンがはち切れてしまいそうにも見える。劉備は思わず生唾を呑んだ。
「何、見ているのかしら?」
「いやあ、そんな格好されたら、誰だって見ますよ」
「ふうん。あなた、童貞でしょ?」
「はあ?」
「童貞って、本当に女の胸が好きなのよね」
「童貞じゃなくとも、女の胸は好きだろ。常識的に考えて」
女性は勝手に台所に行くと、冷蔵庫からオレンジジュースの缶を出して、グイッと飲んだ。
「私の名前は黄忠。武芸部3年よ」
「ああ、どうりで見たことあると思ったら、今日いましたよね?」
「ええ、あなたの戦いぶりは見ていたわ、凄く興奮した。私もあんな風にされたら、どうなっちゃうのかしたってね」
「は、はあ・・・・」
「あなたって、勝負の時は凄い勝気だけど、勝負が終わると、萎んだ風船みたいに弱そうなのね」
黄忠は床に座ると、飲み終えたオレンジジュースの缶を劉備に手渡した。
「ねえ、取引しない?」
「取引?」
「ええ、実は明日、今年の武芸部レギュラーを決める選抜大会をするのよ。私達、3年生は今年で最後、だから絶対にレギュラーになりたいの」
「は、はあ・・・・」
「それでね、あなたと私、明日に戦うことになっているのよ。だから・・・・」
「まさか、俺に負けろと」
「正解」
黄忠は指を鳴らした。
「それって良くないですよね」
「もちろん、タダとは言わないわ」
黄忠は立ち上がると、突然着ているチャイナドレスを脱ごうとした。
「ちょ、ちょっと待て」
劉備は慌ててそれを止めた。
「何よ。取引でしょ?」
「待って下さいよ。劉備シンキングタイムなんで」
劉備は黄忠に背を向けると、ぶつぶつと何かを一人で呟き始めた。
「もしここで、この人の取引に応じれば、俺は脱童貞だ。しかしだ。しかし、ここからが肝心だ。俺がここでレギュラーを諦めたら、次に女の子の裸を見るのに、一年の時間を要することになる。勝負に勝てば女の子を好きなようにできるから、後から見れば、レギュラーになった方が得だ。それに張飛を倒した手前、いきなり負けるというのもどうだかな」
劉備シンキングタイム終了。劉備は立ち上がると、黄忠の方を向いてニヤリと笑みを浮かべた。
「悪いですね。その求めには応じられません。そもそも、明日に俺が勝てば、あなたを思い通りにできる」
「ふうん、あなた、私に勝つ気なんだ。せっかく感じさせてあげようと思ったのに、残念ね」
黄忠はそのまま踵を返して部屋から出て行った。劉備はその様子をじっと見つめていた。
次の日
早朝から武芸部員が集結していた。大会は今日の朝と昼、そして放課後に行う。それでも終わらなかった場合は、次の日に持ち越しとなる。
「さて、今日からレギュラー決定戦を始める。まず最初は、劉備と黄忠だ。両者とも校庭に出ろ」
「はい」
「ええ」
劉備と黄忠が校庭に出た。腰には昨日もらったボロの剣を帯刀している。黄忠は巨大な弓矢を持っている。
「物騒な弓だな」
「うふふ、感じさせてあげるわ」
「両者、勝負開始」
関羽の号令とともに、試合が始まった。