負けられない
かくして、張飛と許緒の試合は、許緒の勝利に終わった。張飛は関羽と趙雲に両脇から抱えられると、そのまま病院に連れて行かれた。華佗という腕利きの医者がいる総合病院に張飛を診せに行ったのだ。部長の関羽と副部長の趙雲を欠いた中で、果たしてこれからどうするのか、始まってしまった試合は停めるわけにはいかない。成都高校からは馬超が出ることとなった。
「じゃあ、僕行って来るね」
馬超は劉備ら、残されたメンバーにそう言うと、自身の獲物である槍を持って、そのままグラウンドまでスタスタと歩いて行った。すでに試合開始5分前だというのに、許昌高校からは誰もグラウンドに姿を見せていなかった。
「おいおい、ひょっとして、このまま待ってれば、不戦勝で勝てるんじゃねえ?」
劉備は小声で諸葛亮に不謹慎なことを呟いた。諸葛亮は聞こえないふりをすると、ベンチの方からようやく姿を現した。黒いショートヘヤーの女子生徒を発見して驚いた。
「え、どうした?」
劉備には諸葛亮の驚いている理由が分からない。現れた女子生徒は槍を持っており、黒く短い髪を手で撫でながら、ゆっくりとグラウンドに上がった。どうやら次の相手は彼女らしい。碧眼をした涼やかな少女で、何処か、冷酷そうな印象を受ける。
「うひょー、美人」
劉備は身を乗り出して少女のことをじっと観察した。少女は色白の肌をしており、鼻は高く、鼻筋は通っている。およそ、同じ高校生とは思えないほどに大人びている見た目をしていて、体付きも中肉中背で、細すぎず、太過ぎずという、丁度良い体型を維持しているにも関わらず、色気というものが一切感じられなかった。
「おい、諸葛ちゃん。何をびっくりしてたんだ?」
「彼女は于禁という3年生です。許昌高校のレギュラーですが、この試合より前の、益州高校との闘いで敗北しています。実力主義、敗者切捨て主義の許昌高校が、一度敗れた生徒を再び同じ大会で使うなどあり得ません」
「ほ、ほう・・・・。人手が足りないんじゃね?」
「いえ、あそこは人材の宝庫です。彼女以外にも代わりと言うか、十分に活躍できる人物はいます」
諸葛亮の疑問を晴らすかのように、曹操が姿を現すと、そっと于禁の肩を叩いた。
「勝ちなさい。もし、この試合に負ければ、あなたに次はない」
「はい」
于禁は能面のような顔で返事をすると、馬超と正面で対峙した。いよいよ副将戦が始まろうとしていた。
「部長」
「ん?」
曹操の背後から、許昌高校のマネージャー、その名も郭嘉が声を掛けた。
「僕が決めた人選と違うのですが」
郭嘉はまだ一年生だったが、その高いマネージメント能力を買われて、マネージャーとして抜擢された美少年だった。彼は綺麗に整った顔を少しだけ歪ませると、不機嫌そうにしていた。
「あなたに教えてあげる。于禁という女はね、プレッシャーを感じると強くなるの。人間には二種類のタイプがいるわ。一つはプレッシャーに押しつぶされるタイプ。これは緊張したり追い詰められると、普段の実力が出せない困った人間だわ。そしてもう一つがプレッシャーを力に変換するタイプ。これが彼女よ。彼女は一度負けている。本来ならばレギュラーから外されて、応援に回っているはずよね。でも、敢えて試合に出す。彼女は今度こそ負けられない。この試合に負けたら、退部するという誓約書まで書かせたんですから」
郭嘉は曹操の考えを聞いて寒気を覚えた。とても敵わないと悟ったからである。




