氷の世界
劉備の笑みが止んだ。彼は眼を見開いて、全ての力を剣を持つ手に込めると、そのまま夏候惇に向かって走った。
「滅・仏陀斬り」
劉備の剣がバチバチと電撃のようなものを放ちながら、夏候惇の鳩尾を横一閃、薙ぎ払った。
「ああ・・・・」
夏候惇は手を放して刀を放り投げると、そのまま曹操の目の前にあるフェンスに背中から激突した。その場にいた曹操以外の生徒達は、あまりの驚きに、一斉に後ろに下がってしまった。
「が・・・・は・・・・」
夏候惇の身に着けている鉄のブラにひびが入った。
「惜しいぜ。もう少しで素っ裸にできたのに」
劉備は舌打ちをしながら悔しそうに指を鳴らした。
「な、何が起きたんだ・・・・?」
フェンスの反対側にいる生徒達は一斉にざわつき始めた。それは成都高校も許昌高校も関係無かった。誰もが、劉備の放った謎の一撃を恐れ、思い思いの感想を言い合っていた。ただ一人、関羽だけは静かに試合を見守っていた。
「貴様、今の技は・・・・」
「へへ、滅・仏陀斬りよ。刀に目一杯の気を詰め込んで、相手を斬る。まあ、どっちかと言うと、殴るって言った方が正解かもな」
「なるほど、だがその剣は、今の攻撃に耐えられなかったようだぞ」
夏候惇が言うと同時に、劉備の持っていた剣の刃が根元から真っ二つになってしまった。
「にゃ、にゃに~」
劉備はナイフほどの短さになった剣を見ながら、顔を青くしていた。
「部長、劉備さん負けちゃいますよ」
「いや負けないさ。確かに刀が短くなったのは痛いが、リーチの問題だ。しかし面白い技だ。前に使った真・仏陀斬りは、用法としては斬に近い。武器に気を込めて切れ味を上げ、相手の衣服だけを切り裂いた。今回の滅・仏陀斬りは用法としては撃に近い。純粋に武器を強化して、力押しで放った技だ。それゆえ、武器の方が参ってしまったようだが、この高校であの攻撃を受け止められるのは、私と趙雲ぐらいだろう」
夏候惇は眼帯に手を掛けると、曹操の方を一瞥した。曹操は静かに頷いている。
「使います。アレを・・・・」
夏候惇は眼帯を手で引き裂くと、青く澄んだ瞳を露わにした。
「な、何だよ。結膜炎じゃねーじゃん」
「行くぞ劉備」
夏候惇の瞳が光った。そして剣を振り上げた。
「氷刹雷」
夏候惇は刀を思い切り振り降ろした。同時に青い斬撃が、劉備の肩から肋骨の辺りにまで深く炸裂した。
「ぐ・・・・」
劉備は剣を手放すと、そのまま直立不動のまま静かに佇んでいた。
「て、テメー、何しやがった・・・・?」
劉備の体は震えていた。それは恐怖からではない。明らかに生理的な現象によるものだった。
「これこそが我が必殺技。氷刹雷。斬った部分から体温を奪い、瞬時に凍らせる。今震えているのは寒さのためよ。自分の体を見るといい」
劉備は夏候惇の言うとおりに斬られた箇所を見た。そこには血こそ一滴も流れていなかったが、冷蔵庫に入れた肉のように、白い冷気を放ちながら、冷たく鈍器のように固くなっていた。




