楊松の不気味
楊松は立ち上がると、よろよろと張飛の元に近付いて来た。
「信じられない。うちの張飛の一撃を喰らって、無事だなんて 」
関羽は眼を見開いて言った。
「お前、化け物かよ」
「あはは、これでも乙女よ。おちびさん」
「テメー」
張飛は蛇矛を回転させると、そこから真空波を発生させて、楊松に向かって放った。
「喰らえ、渾身の怒砲」
怒砲は張飛の必殺技である。回転させた矛が強烈な遠心力により、力強い真空波を発生させて、それを敵に向ける。範囲もさることながら、その威力も絶大な攻撃である。
楊松は防御する余裕も無く、真空に呑まれて行くと、そのまま体を回転させながら、地面に頭から突っ込んで行った。
「よっしゃああ、あたしの勝ち」
張飛は小躍りすると、蛇矛を納めようとした。しかし、グラウンドを包む不穏な空気は消えない。それどころか、より不気味さを増しているようにも見えた。
「何だよ、これ」
「へへへ、今のが必殺技?」
既に楊松はカムバックしている。武器を杖代わりに立ち上がると、張飛に向かって斬り掛かった。
「ちっ」
受けて立つ張飛。しかし、今日はいつもと勝手が違っていた。
「ごふ」
張飛は矛で腹を殴られると、そのまま後ろに倒れた。楊松は決して強くない。普段の彼女ならば、いとも簡単に避けていたであろう攻撃である。
「やったあ、クリティカルヒットだわ」
「何がどうなって」
張飛は蛇矛を構えると、震える両足をそれで叩いて、楊松の方をじっと睨み付けた。
試合の様子を見て、馬超が不安そうに関羽を見た。
「なあ部長、あたし思ったんだけど、あれって妖術じゃないのか。聖・五米学院の奴ら、ずっと外で呪文みたいなもん、唱えてるし」
「馬超、怒るぞ。妖術なんて迷信だ。張飛は場の空気に呑まれているだけだ」
関羽は言いながら、何かを閃いたのか、突然手を叩くと、フェンス越しに、張飛に向かって叫んだ。
「分かったぞ張飛、これは心理トリックだ」
関羽は馬超の方を振り向くと、彼女を讃えるように肩を叩いた。
「そうだったんだ。この大勢の観客も呪文も、私達を惑わす心理的なトリックだったんだ。私達をアウェイな気分にさせて、実力を発揮できないようにしていたんだ」
張飛は関羽の言葉を聞いて開眼した。
「そうか。だから必殺の怒砲も威力が半減していたんだ。そうだよな、あたしの技を喰らって立てるわけないもを」
張飛は急にいつもの調子に戻ると、ニカッと歯を見せて笑った。怯える楊松に、蛇矛の刃が光った。




