こんなにも辛いのに夢で
今日も部活が終わり、家に帰って姉とチャンネル権戦争。
オレはNBE56の出る歌番組が見たい。姉はあいーん動物園という動物番組が見たい。
両方とも録画してはあるがすぐにでも見たかった。
しかし合間をとって親父がトツヤで借りてきたDVDを見ると言い出して、しかも間違えてAVを放映してしまったので親父と母親で姉弟の戦争とはレベルの違う核戦争に勃発。
勿論、核という名の罵声を放つ母親のワンマンゲームで被爆した親父は一方的に縮こまるしかなかった。
そんなこんなで夜。そして睡眠。またあかみんになった。
…今回はなんだかヤバいぞ。
夜。どこかの大きな道路っぽい場所の真ん中であかみんは黒スーツの連中に囲まれている。
盗んだ。けども相棒と言いたくなるほどに愛着が湧いてきていてた『オレ達』のバイクは横倒しになり火と煙を立ち上げている。
あかみんの買ったばかりのノースリーブな紫パーカーは傷だらけだし、綺麗な生足も血を流して痛々しい。
左腕もかなり痛い。骨折だか打撲もしてるかもしれない。
そしてあかみんは「遅いよ、しのやん」と呟いた。
オレがあかさかあけみに『あかみん』とあだ名を付けたようにあかみんも篠崎というオレに『しのやん』とあだ名をつけたっぽかった。
あぁ…今日であかみんの夢は終わるんだなと夢独特のぼーっとした思考の中で理解した。
今日ふくめて二日か。オレとエージェントとあかみんで。
夢の中でだけの付き合いで、短い付き合い。
なのに泣きたいくらい寂しくなった。
だけど…涙が出そうになって気が付いた。
オレはあかみんに何をしてやれたんだ?という疑問に。
オレはあかみんと違って魔法なんか使えない。
エージェントと違って肉弾戦もできない。
ただ…見てるだけ。
夢だもん。見てるだけだ。
夢だからあかみんはオレのはずだ、エージェントもオレのはずだ。
けれども何もできない。オレはただの高校生で無力だ。
何故だ?夢なんだからご都合主義にオレ最強にな「うるさいぞ、しのやん」。
あかみんが再び呟く。オレの意志じゃない。あかみんの意志で、思考で。
「私たちは3人だから一緒になれたんだよ。確かにエー君はバイクの操縦、体術を使えるようにしてくれたのに対してしのやんは私にカロリーしか与えなかったけども」
エー君…。スパイなエージェントだからエー君か。
てか、なんだよ。本気でオレ役にたってないじゃん。
「違う。多分しのやんがいるから私たちは思考を一緒にできた。何故ただの学生で、実験と関係がないしのやんの脳波が私たちに影響しているのか分からないけど…しのやんがいる時しかエー君も私たちの思考に入ってこないんだよ?」
オレが夢を見ている間だけ、オレ達はしのやんで、あかみんで、エー君だった。
理由は分からない。分かるはずもない。もしかしてオレも魔法だか超能力が使える?お前みたいな一般人にそれはないぞ馬鹿馬鹿しい。あ、エー君今オレの思考に入ったな分かりづらいし変に毒舌だぞこのやろー。
「さて…もっと話したかったけどもう終わりっぽいなー」
あかみんは何でもなさげに言うが、周囲を見渡してみれば黒スーツ共の間合いが詰められて来た。
どうやらヤツ等はあかみんを捕まえてここでは殺すつもりはないみたいだが…結局実験で殺されてしまうだろう。
どう転んでも絶望しかなかった。
「このまま実験で死ぬのもなんだし、もしかしたら私の脳波からしのやんに辿りつかれるかもしれない。そうなると…コレしかないか」
あかみんは動く右手で魔法矢を作り出す。
昨日みたいに短剣のように持ってこめかみに当てて――――。
…待て、止めろ!確かに殺される可能性が高いからって自分からそんな事…!
「いいのいいの。コレが私にできるせいぜいの抗い。だからさ、しのやん」
私たちの分も幸せに平穏な生活送ってね。
そう呟いて魔法矢と頭に突き刺した。
いっそ黒スーツでもイイから間に合えよ、止めろよ!と思ったが全然間に合わない。
しかもエー君にまで「あばよ」なんて言われた気がした。
コレは夢なのに思い通りにならない。
あかみんとエー君の繋がりも夢でしかない。
だから、夢から覚めればオレたちの関係は終わる。
――――嫌だ、夢なんかで終わらせたくない!
ホントに夢でしかないのかコレは!?
違う、オレ達の繋がりは短い間だっけど夢じゃない!けれども夢だ!
ダメだ、脳から、頭に突き刺さった魔法矢の痛みが酷くで何も考えられなくなってきた。
感じるのは痛い、熱い、ただそれだけ。
頭が、思考が真っ白になっていく。身体が熱い。
ぐちゃぐちゃの思考で頭がいっぱいいっぱいだ。