光川
平和だ。
そう思ったオレだったが…あかみんやエー君と一緒にいる事を選らんだオレにはどうしても平和とは程遠い事柄を抱え込んでいるのだ。
あかみん達を追い込んだ死の実験。それが何故、オレに伝わっているかは分からないが初の成功例として。
連中に知られたらまず、オレたちはまた行く宛てもない逃走劇をしなくてはいけない。
…いや、家族や友人がいる分(もしくはあかみん達と違って記憶している分)守りたい物、大切な物がある分だけ大変な戦闘になったりしていくだろう。
それを覚悟で、ヤツ等の実験成果。オレたちの間では『三位一体』といつの間にか自然と表現しているが、それを使っていろいろ行動しているのだが。
けど、オレの問題は何も黒スーツや博士の連中だけじゃない。
普通に生きているだけでも問題は起きる。
この問題も、元はあかみん達が関係しているが…オレの日常に関する問題。
「…こんな、所で何をしてるんだ篠崎」
「光川…」
「何をしているんだって聞いてるんだよ篠崎!?」
光川はオレと同じ…オレが所属していたサッカー部の同級生だ。
特別は親しいワケじゃないが、部員としての仲は良好だったと思う。
オレとニナとりーちゃんはオレの頭痛が収まる頃に海で遊ぶ事にした。(今回は頭痛が収まると同時に髪は黒に戻り、ニナは何を警戒したのかパーカーを脱がずに遊んだが…)
その後、ホテルに戻り着替えた所でホテルの食事がオレたちとりーちゃんでは予約の関係もありバラバラになりそうだったので外でとる事に。
りーちゃんは相も変わらず言葉が途切れがちだが、自分でも治したいと思っているクセのようで人柄としては明るく人懐っこく、オレとニナによく懐いてくれた。
りーちゃんを真ん中にして3人で手を繋ぎながら、外の飲食店を探していると…光川に会った。
「見ての通り…旅行だ」
「部活を辞めてまでか!?お前が突然いなくなるもんだからコウさんは…サッカー部は無茶苦茶だぞ!?
オレ一人が抜けただけで、そんなに影響するもんなのか?と思うが、実際にコウさんを困らせてしまったのは本当だしな。
部活が無茶苦茶ってのは流石に八つ当たりだろうが…。
「お前はな、コウさんが引退してからの次期キャプテンってハナシがお前に内緒で部活内で進行していたんだ!そだから経験を積ませようとできるだけ試合に出したり大会前にレギュラー入りさせたのによぉ!」
「………!」
信頼されている。だから信頼に答えたい。
そう思っていたが…そこまで信頼されていたとは思わなかった。
…けど、後悔はできない、しない。後悔したらオレを助けてくれているあかみんやエー君の気持ちを否定する事になるんだから。
3人一緒にいたいという気持ちを、否定する事にもなるんだから。
「光川、オレは…」
「喋るな!こんな所で女の子2人と仲良く歩いてよぉ…マジでなにやってんだ!」
「だから、光川!オレは…!」
「喋んなって言ってるだろうが!!!」
聞いてきているくせに喋るなという。
けれどそれだけオレを信頼していてくれた分の…パニックなのだろう。
元々何を言うつもりだったか分からないが、オレは完全に口を開けなくなってしまう。
そんなオレたちの会話を見てニナは何か言葉をかけたそうにするが、言葉につまり出そうで出ない。オロオロという擬音が聞こえてきそうなくらいで、ニナにしては珍しい態度だった。
いつもオレには言いたい事を何でも言っているのにな。
こんな状況で口を開いたのは…なんといつも言葉を詰まらせているりーちゃんだった。
「光川…さん?勝手な事ばかり言って、お兄さんを…篠崎さんを、困らせないで…ください…!」
「…なんだと!?」
「篠崎さん、が…理由もなく、部活を…辞めると思っているんですか…!?自分より、他人を…誰か、を大切にしてばかりの…人、が…!」
りーちゃんは光川に睨まれても怖気づかなかった。
言葉に詰まる喋り方はいつも通りだが、目には力が宿り光川を見据えている。
オレやニナより…凄く小さく、魔法こそ使えるが戦う力がほとんどないのに…力強く。
「篠崎さん、とは…今日会ったばかり…ですけ、ど…。何か、事情があるって…何で気づいて、あげられ…ないんですか…!友達なら…ちゃんと、気づいて…あげて、ください…!」
「…っ!知るかよ!?勝手に部活を辞めるようなヤツの事なん…」
「そんな、一方的になるなら…篠崎さん、を………苦しめないで、ください!」
喋り方はあまり変わらないが、りーちゃんにしては十分言葉に力を入れながらオレを庇ってくれる。
りーちゃんは…本当に、強いな。
言葉に詰まりながら…喋るのが苦手なのがよく伝わってくるのに目が涙目にすらなっていない。
どこまでも力強さを感じる瞳で…言葉より何より、その目にオレは元気付けられた。
「…光川、本当にすまないな。事情は説明できないけどオレには…」
「喋るなって言っただろ!?お前の言葉なんか…」
「オレには!部活より!大切な物ができちまったんだ!勝手に辞めたのも、信頼に答えられなかったのも謝る!どれだけオレを恨んでも構わない!」
「っ!っ!!!」
コウさんと話をした時みたいに、勢いで押し切る。
今回はりーちゃんの力強さの後押しもあって。
オレの選択は…あかみんやエー君だけでなく、選んだ物にニナやりーちゃんも含まれる。
だから、ここまで後押しされたら…自分に、問題に負けるワケにはいかない。伝えたい事を伝えてみせる。
「…オレさ、試合には出なかったけど見学はしてたんだぜ?」
「…っ!だったら何で試合に出なかった!?」
「オレがサッカーを辞める理由が…出る出ないの問題より、続けられない事にあるからだ。実際、見学はしたが試合に出られる状況じゃなかったしな」
「意味わかんねーよ!?説明しろよ!?」
「だから、説明できないんだってば」
オレが伝えないのは、こんな言い訳っぽい事ではない。
光川が…オレのいたサッカー部のために伝えたい事がある。
「コウさんの不調は…オレのせいだ。けどさ、何でお前らコウさんが不調って気づいてやれないんだよ。何で支えてやらないんだよ。コウさんにだけ責任もチームも預けて、コウさん一人が不調なだけでずるずる負けやがって…。そんなんで勝ち残るつもりだったのかよ!?」
「…お前だったら、どうにかなったっていうのかよ!?」
「分からん!けど、少なくともオレなら気が付けた!あんなあからさまに元気のないコウさんを見て、何で気が付かない!」
ウチのサッカー部は、完全にキャプテンに頼りきりの物だった。
オレは違うとは言い切れない。コウさんに頼りきりだったかもしれない。
けれど、自分の事を棚に上げてでも言わないといけない。
そうじゃないとサッカー部は変わらないし…今回の件じゃなくても新たな部活の中心人物が不調になるだけで今回のようになってしまうだろう。
「けど、確かに今回はオレのせいだ。だからオレはどんなに恨まれても受け入れる。…すまなかった」
「………っ!!!」
「…っ!?」
「篠崎さん!?」
光川に殴られた。ニナに殴られるような弱いパンチとはけた違いの痛さのパンチで。
痛みより何より心に響くぜ。
「オレは…オレたちは絶対に許さないからな!」
「あぁ…許さなくてイイさ。むしろ簡単に許されちゃ…お前らのサッカーはそんなもんだったのかって軽蔑するところだ」
…なんか、自分でもキザっぽいと思うよ。
けど、サッカー部の事を思えばどうという事もない。
正直、恨まれる事が辛くないはずないけど…恨まれている分、それだけ皆がサッカーに本気なんだと伝わってきて、嬉しくある。




