可愛いのちぇいんあたっく
自己紹介で時間をくってしまった。
いや、りーちゃんと自己紹介して呼び方を決めただけでそんなに時間はかかっていないな。
オレとあかみんとエー君の脳内痴話喧嘩がかなり長く感じただけだ。
今更だが、思考したりあかみんやエー君を意識しているとスローモーションほどではなくとも体感時間が長く感じるんだよなぁ…。
あ、そういえばりーちゃんにオレはしのやんって呼ばれてるからそう呼んでもいいぞ?と言ったんだが、例によっての詰まりながらの言葉で恥ずかしいと言われて『お兄さん』呼ばわりが定着。
…ニナも『あんた』としか呼ばないから、最近オレの名前を呼びすらしないヤツ増えてきたなー。まぁイイけど。
「私の、お父さんと…お母さん。あの人達に…連れていかれちゃって…」
「…うん」
「私も…連れていかれそうに、なった。けど、お母さんが…逃がして、くれて」
「…そうか。どこに連れていかれたか分かるか?」
「ビーチにある、ボート。…そこから、連れていく…って」
「道路からでも見えるか?見えたら指差してくれ」
旅館の庭から一旦離れてビーチを見渡せる場所に移動する。
見える場所にあったらしく、りーちゃんが指を差したのだが…。
…普通に停泊しているな。
いくつかのボートが停まっているため、どれを指差されたか分からないが平然と停まっている。
ニナを誘拐しようとした時は凄く隠密なイメージがあったのだが今回は大胆すぎて怪しまれないって作戦をとってやがるな。
…ともあれ、どのボートか分からないにしてもだいたいの場所は分かった。
できるだけオレの存在を知られずに行動したいが、さっきの黒スーツ連中にはあかみんの魔法を頭にぶち込んでいないから今更だろう。
あくまで、正義感の強い一般人として助けるか。
詳しく調べられたら誘拐に失敗した黒井家との関係やただの男子高校生が黒スーツ顔負けの武術を使う事に怪しまれそうだが、怪しいだけで誤魔化せる事を祈ろう。
今回はあかみんやエー君の名前も出ていないし、それほど怪しまれる要素はないはずだ。
「ハァハァ…見つけ、たぁ!あんた、連絡もなしに…どこ行ってんのよぉ!」
「………!」
「あれ?ニナじゃねーか。よくここが分かったな」
「よくここが分かったな、じゃないわよ!全然連絡も取れないし、心配…して…。ゲホゲホッ!」
「悪い悪い。またメールとか電話に気が付かなかったわ。心配してくれてありがとな」
水着の上にパーカーを着て前を閉じているからニナがどんな水着を着ているのか分からないが…。下が何も履いてないないみたいで、こういうの何かエロイよな。
自称インドアで運動が苦手なニナだが、オレを心配して走って探してくれていたらしい。
いつぞや見た感じに汗だくで息を切らしながら立っている。
ほら、これでも飲めとレモンティーを手渡す。
ついこの間誘拐云々があって事件に巻き込まれたばかりだからな。心配する方が無理ってハナシか。
オレももうちょいスマホを確認するクセとかつけないとな。
着信音が煩いの嫌いだから静かめに設定しているのも悪いところだ。
「そ、れ…。関節、キス…!」
「ぶーーーっ!!!」
「うわっ、汚ねぇっ!たかが関節ごときそんなに嫌か!?」
「嫌とかじゃなくて…!ゲホッ、ゲホッ!」
「まったく…なにやってんだよ」
レモンティーを盛大に吹き出して喉を詰まらせているニナの背中を摩ってやる。
…女の子に関節キスはダメだから注意してよねしのやん!
そうか、ダメなのか。以後気を付ける。
「ゲホッ。…そろそろ、大丈夫…」
「…そうか?無理させたのも吹いたのもオレのせいみたいだし無茶すんな」
「大丈夫だから…。それより、この子は…?」
まだ少し苦しそうにしながらニナはりーちゃんを見る。
人見知りの気があるりーちゃんはビクッ!と身体を震わせるとオレの後ろに回ってニナから隠れるように動く。
…なにこの小動物。凄く可愛いんだけど。
「りーちゃん…。青峰 理香ちゃんだ。ちょっといろいろあってな…」
「ふぅん…」
「ま、丁度良かった。りーちゃん連れてホテルで隠れててくれ」
「分かった…。…って、何でよ!?」
「りーちゃん、コイツはオレのツレだから安心してくれ。勢いが凄くて荒っぽいが、オレなんかより底なしに優しくて頼りになるヤツだ」
「え…?で、でも…」
「ちょ、何が何なのよ!?説明くらいしなさ…!」
「そうだ、財布とスマホも預かっておいてくれ。落としたりして無暗にオレの身元がバレてもタイヘンかもしれん」
「何で、あずか…っ!…!…!!…っ!………また、なの?」
「おぅ、流石はニナ。そういうワケだからよろしく」
流石の観察力でニナは状況を察してくれたらしい。
オレに怒鳴っていた態度から一遍して、心配そうな表情でオレを見てくる。
けれど止めても無駄だと思っているのか止めろ、とか行くな、とかは言わない。
「あんたはいつもそうやって…今回も無事でいられるとは限らないでしょ?」
「それでも、りーちゃんを助けるって決めたからな。そもそも初対面の相手でも優しくするようになったのはお前がきっかけかもしれないぜ?」
「…なに言ってんのよバカ。私がきっかけでも元々あんたがお人好しじゃなかったらこんな事にはならないわよ」
そう言うとニナはため息をつき…膝を落として視線に合わせてから、オレの後ろに隠れるりーちゃんに声をかける。
「理香ちゃん…だっけ?この馬鹿は放っておいて安全な場所に行きましょ?」
「け、けど…お兄さん、一人じゃ…」
「大丈夫、この馬鹿は一人なんかじゃないから」
オレの呼び方が『あんた』から『馬鹿』に変わったぞ。
それでいてニナの表情ははじめてオレに会った時みたいに凄く優しい。
…この扱いの差はなんなんだ。
「おい、流石に馬鹿呼ばわりするのは止めろ」
「はいはい、止めてほしかったら…」
戸惑っているりーちゃんの手を握ってオレの後ろから引っ張りだす。
相変わらずの勢いで、しかし優しくりーちゃんの手をしっかり握る。
その後は立ち上がってオレの視線に合わせると…。
「連れていかれた人共々ちゃんと無事に帰ってきなさいよね。今度は信じて待っててあげるから」
ニナはそう言って左目を瞑り可愛らしくウインクをする。
…え、なにこの可愛い仕草。オレの前だといつも怒ってるニナっぽくない。
さっきはりーちゃんが小動物っぽくオレを頼ってきて可愛かったし、オレの周囲はどうなっている。




