青峰 理香
残りの黒スーツ男たち3人はエー君の反射だけで撃退できた。
自分では無意識に身体が動いているだけな感覚なので、気が付いたら黒スーツの男どもがお腹やら顔やら抑えて倒れているのだが。
周囲の人達も、もはやパフォーマンスだと思っているのかスゲェーとか叫んで騒ぎにはなっていない。
いやしかし、反射だけで撃退できてしまうエー君はホント強いな。
本人に記憶が戻ってまともに格闘術なんか使わせたら敵なしなんじゃないか?
「ともかく、一旦ここから離れよう。事情はそこで聞くから」
「え…でも…」
「今更迷惑とか考えるなよ?乗りかかった船って言ってな、最後まで付き合うさ」
「の、のり…?」
「…ともかく、遠慮なんかせず頼れって事だ」
女の子に手を差出して、手を預けてくれるのを待つ。
オレとしては最後まで手助けしてやりたいが…あまりにも一方的に手を差し伸べるのもよくない。
十分一方的な気がしないでもないが、あくまで自分がオレに頼っているという事をしっかり意識してほしい。
じゃないと遠慮して、しっかりと事情を説明してくれないかもしれない。
それにオレのはお節介というのはよく分かっている。
だから、オレお節介を受け入れるって決意表明も込めてオレの手を握ってほしい。
…子供にゃ難しくてそこまで考えないかもしれないけどさ、こっちの気分的問題として!
「…よ、よろしくお願い、します…」
「おぅ。お願いされた」
女の子はためらいがちに。おずおずとしながらもオレに手を預けてきた。
オレは、女の子の手をしっかりと握りビーチから離れる。
行く場所は…そうだな。旅館の敷地っぽいが、そこの庭が姿を隠しながら話しが聞けそうな場所がある。
道路側からは見えづらく壁で騒音が少しシャットされていそうで、いざ黒スーツが囲んできても物音を気づきやすそうだ。
今の時間ならビーチから離れて庭を見ながら休憩している兄妹のように見られて怪しまれないだろうし。
黒スーツ達の行動と同じく、堂々としていれば怪しまれないはずだ。
「あそこで休もう。その前に飲み物を…何かリクエストあるか?」
「え、えっと…。オレンジジュース、お願い…します」
「それなら…Kooがあるな」
近くの自販機で女の子にオレンジジュースのKoo。オレはレモンティーを買う。
…しまった。ついオレの好みで買ったがエー君がレモンを毛嫌いしててオレにも影響してるんだった。
エー君、我慢していてくれ。オレ自身はレモンティー好きなはずだから耐えられるはずだ。
「あり、がとう…ございます…」
「あぁ。…うぐっ」
「………?」
「あ、いや気にしないでくれ」
旅館の庭にある適当な石に並んで座った。
緑が茂り、池もある感じの庭だがオレ達の座った石は苔とかもついていないし、かなりの大きさだったので問題なく座れる。
問題だったのはやはりレモンティーで、美味い不味い以前にエー君が頭痛で拒否反応を訴えてくる。
その頭痛攻撃はあかみんの専売特許だと思っていたのにな。
「さて、自己紹介からしておくか。オレの名前は篠崎。まぁ適当に好きに呼んでくれ」
「あ…。えと、私…は、その…」
「焦らせないから、落ち着いて。ゆっくり自分のペースでイイから」
「………。…あ、おみね。青峰、理香…ですっ!」
あおみねりか。青峰 里香か。
最近出会った人の中では珍しくあだ名があまり付きそうにないな。
子供たちの間ではリ○ちゃん人形とか言われそうだが。
…そうだな、タイミングがあれば『りーちゃん』とか呼んでやろう。
「さて、りーちゃん。何があったのか教えてくれるかな?」
「り、りーちゃっ?」
「おぅ!?思考が漏れた!ごめんな青峰ちゃん!」
今の…オレだけのせいじゃないな!?あかみんやエー君もそれぞれ『りーちゃんか。悪くないんじゃないか?』とか、『安直すぎない?でもエー君の呼び方もそんな感じかぁ』みたいな事を考えて、自分たちは喋らないからって『りーちゃん、りーちゃん』って脳内で繰り返しただろ!?
そんな事ないわねーよ!人のせいにしやがりんだから!
落ち着け、脳内がパンクする!
「…いや、本当にごめんな青峰ちゃん」
「い、いえ…。そ、その…」
「改めて事情を説明してくれるか?」
「ま、待って…。待ってくださ、い…っ!」
見るからに喋るのが苦手な、りーちゃんが…。また口に出るから青峰ちゃんだ!
青峰ちゃんで思考を統一!そもそもしのやんが誰にでもあだ名つけるのがくぁwせdrftgyふじこlp!
…ぜぇぜぇ、脳内の…煩い連中を、抑えるのがこんなに大変だとは…。
…抑え方?大量の雑念を思いっきりぶちこんでやったら静かになったよ。
なんかあかみんもエー君も頭押さえて悶えるイメージが目に見えるワケではないが、想像できる。
けどオレの頭も頭痛が酷いから諸刃の刃っぽいが。
ともかく、喋るのが苦手そうなりーちゃんが…。
………もういいよ。オレが口にする時に気を付ける…。
りーちゃんが、一生懸命に話そうとしているのでオレは静かに聞く。
脳内はとんでもなく忙しかったが。無意味にスローモーション化がおきてたんじゃないか…?
「あ、の…りーちゃん、で。い、いいです…」
「…へ?」
「わた、し…あだ、名。初めて…で。嬉しいで、す…」
「…そうか。でも初対面のオレだと馴れ馴れしいだろ?」
「お兄さん、なら…。私、その…」
「分かった。じゃぁよろしくなりーちゃん」
相変わらず言葉に詰まりながらだけど、りーちゃんは嬉しそうに微笑んでいた。
…あまり友達いないのかな?けど、妹ができたみたいで何だか楽しい。
ついついりーちゃんの頭に手を乗せて撫でてしまうが、恥ずかしそうにしながらも拒まない。
…現実の姉弟はすぐに怒って関節技を決めてくる凶暴な姉しかいないワケだが。




