ずっと誤魔化してばかりで
…とりあえず、ニナをオレの家に招待した。
襲ってきた黒スーツのヤツらもオレに顔を見られないように…それでいてオレの顔も見ずに襲ってきていたから顔バレしてないと思うので大丈夫だろう。
ニナはいつものような勢いも無くし、静かにオレの家についてきた。
家族に彼女と二人でいたいから近寄んな、と脅した時に後ろから足を蹴ってはきたが。
オレの部屋に案内し、飲み物を持ってきた所で…。
「…流石に、事情を聞いてもいいわよね?普段は深入りしない私でも、流石に無理」
「まぁ…そうだよな。けどオレも当事者ではないから詳しい事は知らないんだ」
どう説明したらいいか分からなかったが…あかみんとエー君。
オレの知り合いが人の命を何とも思っていない実験の素材として使われていた事を話した。
けど、知り合いといってもネットの知り合いみたいに顔を直接合わせた事はない。
武術もエー君に通信空手感覚で習った物で適当にしか頭に入っていない、と。
「…今までみたいな嘘、じゃないみたいね」
「………」
「けど、全部が本当の事を喋ってるワケでもない」
…ホント、鋭すぎるよニナは。
下手に誤魔化すと墓穴を掘りそうだ。
「…けど、さっきも言ったがオレは当事者ではないってのは本当だ。あかみんとエー君が実験に巻き込まれたのは知っているがオレの知らない場所でおきた事でさ…」
「じゃぁ…誤魔化してるのは明美ちゃんと…エー君?その人達との個人的な関係ってだけでイイの?」
「あぁ。一言じゃ語れなくて…どう説明したらイイか分からないんだ」
「そっか…」
話せる事は全部話した。
後はふざけんな!とニナがパニックになって暴れても大丈夫なように覚悟するだけだった。
親が、美菜子さんがそんな危険な実験のために連れ去られ、おそらく父親も。
そして側にいるのは誤魔化したり嘘ばかり言う男。
オレだったら…絶対にオレをぶん殴ってる。
…けれど、ニナはオレじゃない。
「ねぇ、もう一度聞くけど明美ちゃんは無事なんだよね?」
「………!」
改めてあかみんの事情を知り、自分や家族の事よりもあかみんを…いや、『明美ちゃん』の事を気にかけてくれていた。
ニナは…こんな状況でも優しかった。
なのにオレは明美の事を未だに上手く話せないのが…もどかしい。
「あぁ…明美は無事だ。それに関しては心配するな」
「心配するなって…この状況で?」
「明美だけは絶対に、大丈夫だから」
オレはずっとニナの目を見て話せなかった。
嘘をついたり誤魔化すのに、ニナの顔を見て話す事ができなかったのだ。
いや、明美になっている時からオレはニナの顔を見ていたのかも怪しかった。
一日、泊まった時にビール飲んでゲームして遊んで。
次の日に一緒にバイトする際にニナが「明美ちゃんもニナって呼んでね」と言ってくれて着なれないメイド服を着る手伝いもしてくれて。
いきなりのバイトで戸惑ってるオレを何度もフォローしてくれた、なんて事があったけどオレはずっとニナの顔を見れなかった。
ニナは優しくて、とことん優しくて。
明美になって接している事も…なんだかまやかしで嘘みたいに感じてしまったのかニナの顔が見れなかった。
だけど、今だけは…。
ニナの顔をしっかりと見ながら明美は無事だと伝えた。
「…そっか。信じる」
「………」
ニナもオレを見つめ返して、信じると言ってくれた。
これがオレとニナの初めての会話。そう感じた瞬間だった。
「…さて、これからどうしらイイのかしらね!?私は表歩くと危険みたいだけど、お母さんとお父さんも助けないと!」
「とりあえず、ニナはオレの家にいれば大丈夫だと思うが…早く行動しないと美菜子さん達が危ないな」
早く行動するにしても情報も、戦力も足りていない。
ぶっちゃけ今の状況じゃ、アイツらが危険な実験をしている事以外は何も分からず…エー君ならどこぞにスパイしてたいから詳しいんじゃないかと思うが、頭に入ってこない。
思考にエー君が紛れるとはいえ、脳はあくまでオレのもの。
オレの脳にない記憶まで知る事はできないし…エー君が何か教えてくれるのを待つしかない。
けど、全くエー君は情報をくれない。ついでにあかみんも。
もったいぶってる時間もないし、さっさと教えてくれよと思うが…。
「…もしかして、記憶がない?」
そういえば、今更だがオレはエー君やあかみんの事を何も知らない。
趣味や、以前は何をしていたのかさえ。
もしくは、オレがあかみんの思考に紛れていた時みたいに夢気分で、無意識の事しか伝えられないのかもしれない。
夢の中じゃオレの趣味は○○で、何をしている人だ!なんて言わないし…。
今までもエー君たちはそう言った事を、何気ない事でさえ一度も教えてくれなかった。




