誘拐
「ぜぇ、ぜぇ…吐くかと思った…」
「…確かに早く走ったかもしれないが、そこまでだったか?」
「私は!インドアなの!お金があれば映画やDVD見て外にでないし、動くとしても可愛い制服やメイド服着てバイトくらいしかしないの!」
「まぁ、元気出たみたいでなにより」
やけくそで叫んだらしく、また咳き込んだが水を飲んだら落ち着いた。
まだ肩で息をしているが気分は落ち着いてきたようだ。
「で、アイツらなんだったの?」
「いや…ホントに知らん。最初はちょっと因縁のあるヤツらかと思ったけど違うみたいだし」
「…これとは別件にあんたはあんたで面倒に巻き込まれてるってワケ?」
「オレが直接、ではないけどな。今のところ」
会話しながら、ニナの呼吸も落ち着いてきた。
髪が乱れたからかツインテールを解いて、今度は顔から水を浴びて手串で少しは整える。
オレもニナも手ぶらだからしっかり髪を整える事もできず、そのまま髪を下したまままにした。
「ところであんた、私の事をニナって呼んだわよね。嘘つきのくせに馴れ馴れしい」
「えーっと…あかみんも急いでたからお前の名前をニナとしか聞いてなくてな!」
「はい、それも嘘。さっきまでよりは顔に出てないけどあんたの嘘に慣れてきたから分かるわよ」
「…ほんと、観察力凄いな」
けど、何で嘘をつくかとかまでは聞いてこない優しさがニナらしい。
追われる前にあかみんの話しをしていた時も、嘘ってのを見破っただけで根掘り葉掘り聞いてこなかったしな。
…そういえば、オレの名前を名乗っていなかったので自己紹介する。
もうクセでニナって名前が頭に張り付いてしまったから、ニナもオレの事しのやんって呼んでいいぞと言ったが断固として拒否された。
けど、馴れ馴れしいとか嫌そうな顔をされたが、オレがニナって呼ぶのを止めろとまでは言ってこなかった。
「とりあえず、黒スーツの連中の事もあってすぐに動けないかもだけど、お母さんに連絡するくらいイイよね?」
「てか、逃げるので精一杯だったから気づかなかったけど警察への連絡もイイよな。警察にはオレが連絡しとくから美菜子さんによろしく」
…あれ、ふと思ったがあかみんの時はなんで警察にいかなかったんだ?
服とか買ったり食事したりと平穏装ってたけど、あの時もパニックだったのか…。
まぁ、それはさておき今警察に連絡するのは悪い事では…。
「…誰よ、あんた!?」
オレが自分のスマホで連絡しようとしたら、ニナの叫びに遮られた。
ニナは顔が真っ青で、手にしたピンク色のカバーがしてあるスマホが凄く寄れている。
『ふふん、誰だろうね~。あ、お母さんが心配なら警察には連絡するなよ?…なんて、一度言ってみたかったんだよねぇ』
「………!」
機械越しだが、聞き覚えのある声と口調だった。
一度しか聞いた事ないので確証が取りづらいし夢気分だったが間違いなく…エー君を実験台にしていた怪しい博士風の男…!
『誰が一緒にいるのか知らないけど、まさか組織の人間から逃げ切るなんてねぇ。一緒にいた男の顔も分からないって言うもんだから役に立たない連中だよ』
「お母さんはどうしたのよ!?」
『あ、君のお母さん?実験のために誘拐させてもらったよ。私達の実験は危険だからそのための素材が簡単には確保できなくて…』
「…それで、引っ越ししたばかりで住民登録とかがの安定してない黒井親子を狙ったのか」
『おや!もしかして私達の事を知ってる!?つくづく一緒にいた男は一般人じゃないみたいだね!』
エー君とあかみんにした実験は人を簡単に殺す実験だった。
人を殺す、と簡単に言うが実際に簡単な事ではない。
行方不明でも捜索が出て大騒ぎになるんだから、できるだけ事件性を薄くして人を誘拐し…。
「もしかして近頃の火災もか…!?」
『…む?それに今気が付くって事はヤツらじゃないって事かな?まぁ火災の半分は私たちが起こしてるワケじゃないのだけど』
残りの半分、というのはおそらくあかみんが逃げる時に施設を襲った連中がやった事だろう。
何が起きているのか正直さっぱりなのだが…
『おや、ついつい喋りすきてしまったね。考えてる事を何でも口にしてしまうのが私の…』
プツン。と怪しい博士との通信が途絶える。
オレがスマホの画面を押して通話を切ったからだ。
「ちょっと、何してるのよ!?よく分かんないけど、私のお母さんが…!」
「逆探知、されてる可能性がある。これ以上の通話は危険だ。スマホもここに捨ててこの場から離れた方がイイ」
これ以上の通話は念のためを考えると危険だ。
それにヤツらは大手アパートのイルピンの地下に平然と実験施設を作っている辺り、国の深い部分と繋がっている可能性もある。
もし警察にもコネがあっても事件性がないとすぐには動けないが、スマホの機能についてるGPSとかを探知される可能性もあるから捨てた方がイイ。
「…なんなのよ、なんなのよ!?」
正直、思考ばっかり無意識に動いてワケが分からなかったからオレも叫びたかったよ。




