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有馬の友達と白鳥の事情


 八月になり、石山と兵藤は、インターハイ全国大会に向けて最後の調整に入っていた。


 練習も早く切り上げているようで、更衣室でも一年生達と会う事はなかった。


 康平と健太には期待している事があった。


 二人の先輩の試合には、梅田と飯島が一緒に行く予定になっていた。その為、部活が休みになるかも知れないのだ。



 この日の練習には、なぜか二人の見学者がいた。


 一人は色が白く鋭い目付きの男で、ガッシリした体型である。


 もう一人はスリムな体型で、小麦色の肌に大きな目の男だ。共に短髪である。


 梅田が二人を紹介した。


「今日見学に来ている二人は、お前らの先輩だ。色の白い方が山本賢治。黒い方が内海俊也だ。この二人は今も大学でボクシングをやっていて、リーグ戦にも出ているベテランだ」



 色の白い山本が梅田に言った。


「色々忙しくて、石山と兵藤のスパーの相手をしてやれなかったのが残念ですね」


 続いて、色の黒い内海が口を開いた。


「先生! 俺達を色が白い黒いで紹介しないで下さいよ」



 梅田は、苦笑いをしながら言い返した。


「お前らにお世辞を言ってもしょうがねぇだろ。まぁ許せ」


 梅田も卒業生には多少甘いようである。



 二人の見学者の前で練習する一年生達は、緊張しながら練習を始めた。


 飯島が笑って言った。

「二人はお前らが下手なのは知ってっから、そんなに硬くなんなよ」


 四人は少し緊張が解れたようで、練習メニューを進めていった。




 練習が終わり、梅田は見学していた二人に言った。


「こんな感じだが、来週からやれそうか?」


「まぁ、大丈夫だとは思います」


「何とかなると思います。でも俺達が一年の時より、上手いんじゃないッスか?」

 山本に続いて内海が言った。


 二人の話を聞いた梅田が一年生達に言った。


「この二人は、大学のリーグ戦も終わって今は落ち着いているから、来週から練習に参加してくれる。楽しみにしとけ」


 康平達は複雑な表情になった。期待していた休みが無くなりそうだからだ。


 飯島が笑いながら話した。

「おいおい、お前らの練習に付き合ってくれるんだから挨拶位しとけよ」


「よ、よろしくお願いします!」

 一年生達は慌てて頭を下げた。



 練習が終わった帰り道、四人の一年生は駅に向かっていた。


 有馬が康平と健太に訊いた。

「明日は、やっと休みだけどよ。お前ら何か予定あんの?」


「特にねぇけど……康平、お前は?」


「……俺もないかな?」


「康平は、山口亜樹と図書館デートってか?」


「え? あ、いや」


 慌てる康平に有馬が笑った。


「お前らの事は健太から聞いてっぞ」


「デ、デートってわけじゃないけど……」


「カラカウつもりねぇから安心しろって。山口は、見た目よりいい奴なんだってなぁ」


 有馬が話を続けた。


「学年二位から教わると、やっぱ勉強もはかどるんか?」


「学年二位?」


「あれ、康平は何も知らねぇんだな。あいつ、中間と期末も二番だぜ」


 健太が笑って言った。


「康平は、噂とか流行りには昔っから鈍感だったからな」


「亜樹とは、その……何だろ」



「別に答えなくてイイって! 山口は美人だけど、俺のタイプじゃねぇしな。……それに、俺は二番よりも上の一番から教わってるからよ。テスト前だけだけどな」


「よ、よせよ」


 白鳥が有馬に言った。学年一番は白鳥である。


「別にいいじゃねぇか。俺は中間テストん時、赤点とらなきゃイイって勉強しなかったんだけど、そしたら点数がマジヤバくてな。期末ん時、白鳥から教えて貰ってたんだよな。まぁ、おかげで追試は免れたってわけさ。教える奴が男ってのは残念だけどな」


 有馬は更に話を続けた。


「お前ら明日予定がねえんだったら、うちの方へ遊び来いよ。……オンボロなゲーセンがあってさ、ゲームも古いけど十円や三十円で遊べるんだぜ」


 健太が食い付いた。

「安いな。古いのって、最近あまり見ないからな。康平も行くだろ?」


「行くけど、白鳥は?」


「ん……ちょっと……」


 もじもじする白鳥の代わりに有馬が言った。


「俺がさっき白鳥に聞いたら用事があるってさ。……白鳥、お前そろそろモジモジは卒業した方がいいぞ」



 家に着いた康平は、メモ用紙を取り出した。亜樹の携帯電話の番号が書いてある用紙だ。


 明日図書館に行く約束はしてない。彼は連絡した方がいいのか散々迷ったが、思い切って電話をすることにした。


 直接話すのと違って電話だと緊張する人間がいる。康平もその一人だった。


 メモを見ながら電話を掛けた。


【はい!】


 康平は緊張のあまり、思わずいつもの電話の台詞を言ってしまった。

【山口さんのお宅でしょうか?】


 亜樹が電話越しに吹き出した。

【ぷっ。もしかして康平? 携帯にお宅でしょうかは無いんじゃないの】


【携帯に電話すんの慣れてないんだよ。明日、用事が……いや、ボクシング部の奴らと遊びに行くからさ。図書館は行かないって一応連絡しといた方がいいと思ってさ】


【アハハ、わざわざ理由を言わなくてもいいよ。私も、夏休みの日曜日は勉強休む事にしてるのよね。それに明日は図書館休みだよ】



 翌日の日曜日。電車に乗った康平と健太は、有馬と待ち合わせの駅に向かっている。


 康平が健太に言った。

「有馬の家って、確か学校の駅から七駅目だったよな。何で三駅目で待ち合わせなんだ?」


「まぁいいんじゃねぇか! 金も安くなるんだしさ」


「そうだな」


 有馬の家は学校から下りで七駅目である。七駅分の往復の出費を覚悟していたが、三駅分に減ったのだから康平も深く考える気はないようだ。


 待ち合わせの駅に着いた二人は有馬を探そうとしたが、本人が改札口のそばにいた為その必要はなかった。


 改札口を出た二人に有馬が言った。


「よう。これから行くのは、やっぱゲーセンて言えねぇかもよ。俺とダチだけが知ってる場所なんだから、誰にも言うなよ」


 康平と健太は、駅からすぐ小道に入って有馬についていくが、右に曲がった後左へ曲がり、突き当たりを更に左に行き……、有馬がいなければ、二度と行けないような入り組んだ道である。



「やっと着いたぜ」


 有馬に言われ、康平達は周囲を見回した。だが、ゲームセンターしい派手な建物は見当たらなかった。


「お前らどこ見てんだよ、あそこだ」


 二人が有馬の指差した方向を見ると、小さい看板に『ゲーム』とマジックで書かれている古い木造の家があった。


 中に入ってみると、昔の機械的な音のするゲームが十台あり、十円ゲームが三台で他の七台は三十円だった。


 そして、奥にはファミコンルームと襖にマジックで書かれた部屋があった。


 二畳のタタミの部屋にファミコンがあり、傍に『楽しんだ方はお気持ちを入れて下さい』と書かれたお賽銭箱がある。


 有馬の話によると、「ファミコンは、畳の上でやらなきゃいかん」というのが、オーナーのポリシーらしかった。


 また、貼り紙で『ランチメニュー』が書いてあり、醤油・味噌・塩ラーメンの三種類があってどれも二百円だ。


「安いな」


 健太が言うと有馬が説明した。


「インスタントラーメンを作っただけなんだけどな。ただ、今日は日曜日だから十二時十五分過ぎには注文するなよ」


「なんで?」


 康平が有馬に訊くと、その時間からテレビの歌番組が始まるので、その時に注文するとオーナーの機嫌が悪くなるようである。


 また、平日の十二時四十五分からは注文出来ないらしい。


 有馬がその時間に注文した時、テレビで見逃せないシーンだったらしく、オーナーから台所に呼ばれて自分でラーメンを作らされたという話だ。


 昼時に注文できないランチメニュー……。何ともフザケタ感じだが、オーナーは年金で暮らせる年配の人で、ゲームセンターは趣味でやってるようだ。



 オーナーらしき年配の女性が店に入った。白髪にピンクの派手な眼鏡を掛けていた。


「おや、お前にしてはマトモな連れだねぇ」


 オーナーに言われて有馬が答えた。


「何言ってんだよ。俺の連れはみんなマトモだぜ」


「まぁそういう事にしといてやるが、私から見るとマトモじゃない連れも来たようだけどねぇ」


 オーナーにつられて三人が外を見ると、百メートル先からもヤンキーと分かる柄の悪い連中が店に向かって歩いていた。


 康平と健太にとって、あまり関わりたくない人種だ。


 不安な顔をする康平と健太に有馬が言った。


「心配すんな。顔と柄は悪いが、根はいい連中だからよ」



「おいタケ、みんな聞こえてるぞ!」


「タケにしてはマトモな連れだな」


 有馬は名前をタケルというが、友達からはタケと呼ばれていた。有馬が言い返す。


「ッセーよ。それ婆ちゃんにも言われたんだよ。……コイツらボクシング部の同期だから、ヨロシクな」



 柄の悪い五人の中に、金髪でサングラスしている者と、タトゥーの入っている者がいた。この二人は高校に通っていない。


 金髪でサングラスをかけた男が康平に話し掛ける。


「タケは、真面目にボクシングやってんのか?」


「あ……あぁ、有馬も頑張ってるよ」


 続いて腕にタトゥーの入った男が健太に訊いた。


「ヘタレのコイツが、どこまで続くか賭けをしてたんだが、九月まで持ちそうなんだな?」


「今やっと練習が面白くなってきたから、俺達ずっと続けると思うけど……」



 タトゥーの男がワザとらしく嘆く。

「あーあ! タケ、お前の一人勝ちだな」


 別の男が康平達に説明をした。

「俺達、賭けをしてたんだよ。タケがいつ部活を辞めるかってな。タケ以外は、九月まで辞める方に賭けてたんだけどな」


 康平と健太は返答に困って沈黙した。


「あんまり余計な事言うなよな。それに、コイツらゲームしに来たんだからよ」

 有馬の一言で、それぞれテーブルについてゲームを始めた。


 だが、康平と健太以外は、三十円のゲーム台にしか座っていなかった。


 不思議に思って健太が訊いた。


「有馬、十円ゲームも楽しめそうだけど、何か問題あんの?」


「言ってなかったけど、十円ゲームには地雷があるからな」


「地雷?」


 金髪サングラスの男が笑いながら言った。

「やってしまうと逆にイラつくぜ。……まぁ十円を捨てるつもりで一回位はやっていいかもな」


 好奇心旺盛な健太が十円をゲーム機に入れた。


 昔流行ったシューティングゲームだった。


 三面目までクリアし、健太もエンジンがかかったらしく、気合いを入れ直した途端画面がプツッと消えてしまった。


 不思議な顔をした康平と健太に、タトゥーの男が話し掛ける。


「それなぁ、ある程度やると電源が落ちるんだよ。こんなゲーム機おいてるなんて、ヒデェ店だろ」


 オーナーが言い返した。

「うるさいねぇ。これでも十円以上は楽しませてやってんだからね」


 有馬が康平と健太に言った。


「他の十円ゲームも同じだから気をつけろよ。……それに、ファミコンルームはもっと勧められねぇけどな」


「え、何で?」康平が訊いた。


「あそこにはロープレしかねぇんだよ。ロープレって、始めたら最低二時間はやるだろ? 終わった時、お賽銭箱に入れないと婆ちゃんのイヤミがあっからよ。相場は一時間百円だな」


「お前ら営業妨害甚だしいね」


「婆ちゃん、営業だったらゲーム機はちゃんと治そうぜ」


「たかが十円ゲームに修理代なんか払ってらんないよ」


 午後一時近くまでゲームを楽しんでいたが、有馬が康平達に話し掛ける。

「俺からゲームに誘っておいてなんだが、今から俺に付き合わないか?」


「どうしたんだ?」康平が言った。


「理由は後で話すからよ」


「ゲームはここにくれば出来るからな。……康平、有馬に付き合おうぜ」


「そうだな、有馬に付き合うよ」



 金髪サングラスの男が三人に言った。

「なんだお前ら帰るのか? もうすぐ歌番組が終わっから、ラーメン頼めるのによ」


「ワリィな、今日はチョット用事があっからよ」


 タトゥーの男が健太に訊いた。


「そう言えば、タケは最近夜十時には寝てるんだよな。お前らもそうなん?」


「まぁ、俺らも疲れて同じ位の時間に寝てるけどね」


「そうそう、俺もだよ」康平も頷いた。


「そんなもんなんか? まぁ俺達、部活ってもんに程遠い人種だからよ」


 金髪サングラスの男に続いて、タトゥーの男が言った。

「まぁ、タケのダチは俺達のダチってわけだから、試合の時は応援行くから頑張れよ」


 有馬の友達と別れ、三人はゲームセンターを後にした。


 有馬の後を康平達はついていった。


 歩きながら健太が言った。

「有馬、どんな用事なのか少しでもいいから教えてくんねぇか?」


「まぁ、深刻な事じゃねぇのは確かだよ。行きゃ分かるからさ」


 二人は有馬に言われるまま、しばらく複雑な道を歩いたが、有馬の足がようやく止まった。どうやら目的地に着いたようだ。


「ここで昼メシ買おうぜ」


 有馬が指差した先は、『スーパーまるちゃん』と大きな看板のあるスーパーだった。


 そこへ入っていく有馬にそのままついてゆく二人だったが、惣菜コーナーから聞き覚えのある声が聞こえていた。



「今日は揚げたてのクリームコロッケですよー! お昼がまだだったら、今お買い得ですよー!」


 白鳥の声だった。


 彼は高いテンションで、もともと赤い顔を更に真っ赤に染めながら、学校でも聞いた事のない大声を出していた。


 康平が小声で有馬に訊いた。

「あいつ、バイトでもしてんの?」


「事情は後から話すからさ、コロッケ買いに行こうぜ。……一人一個ずつな」


 有馬は勝手に決め付け、後ろから大きな声で白鳥へ言った。


「店員さん、コロッケ三つ欲しいな」


 振り向いた白鳥は、

「はい、どうもアリガ……とうございました」

と動揺しながらも、三つのコロッケを慣れた手つきでパックに詰めていた。


 有馬の注文のせいで、三人は、一パック二百八十円の大きなクリームコロッケを買う事になった。それに小さなお握りを一つ加えたアンバランスな昼食になってしまった。


 スーパーの隣にある小さな公園のベンチに座り、三人は主食(?)のクリームコロッケを食べていた。


「有馬、今度クリームコロッケを買う時は値段を見てから買おうぜ」


 健太がそう言うと有馬は素直に謝った。

「ワリィワリィ。あんなに高いとは思わなくてさ」


「ところで白鳥は何であそこで働いてんの?」


 康平の質問に有馬は答えた。

「白鳥は隣の県からこっちに来て、叔父さんの家から学校に通ってるのは知ってるよな?」


「あぁ」


「あのスーパーは、その叔父さんが経営してるんだよ」


 有馬が大きく深呼吸し、続けて話す。

「いいか! 今からイッキに話すからな。日曜日の白鳥は、午後二時まであのスーパーでタダで働いているんだ。それも自分からすすんでだぜ。いつもお世話になってる叔父さんに、少しでもお礼がしたいんだってさ。それに……!」


 有馬の視線と表情が変わったので、康平と健太はそれに釣られて後ろを振り向くと、スーパーの服を着た五十代位の男がいた。眼鏡を掛けて穏やかそうな人だ。


「俺がその叔父さんだよ。……俺は手伝わなくていいって、翔(白鳥)に何度も言ったんだけどな。……確か君はボクシング部の有馬君だっけ?」


「あ、はい。前にお店でお会いしました。……今日はボクシング部の奴を連れてきたんです」


「そうかそうか、それでどっちが高田君と片桐君かな?」


 康平は驚き、健太が訊いた。


「何で俺達の事を知ってるですか? あ……、俺が片桐ですけど」


「じゃあ、そっちが高田君だね。翔は俺の家でも大人しいコでな。まぁ遠慮してるのもあると思うが、ボクシング部の事だけは楽しそうに話すんだよ。……それで、会った事がない君達の名前を知ってしまった訳だ」


 叔父さんの話は更に続いた。


「有馬君は翔から聞いているみたいだし、片桐君と高田君も翔が信用してるみたいだから教えるが、翔は小さい頃お父さんを亡くしているんだ。その上、お母さんは体が弱い。それで経済的に苦しくてな、三年位前までは本当に大変そうだった。……俺は婿養子だから、あの家族に何もしてやれなくて俺も辛かったんだがな。ただ翔には二人の兄貴がいて、中卒だが働き始めたら少しは楽になったようだ。……二人の兄さんは、翔だけでも高校に行かせたいって、頑張って働いてお金を貯めていたんだよ」


 康平と健太は返す言葉が見つからず、黙って聞いていた。


「それに、翔には学校の先生になりたいっていう気持ちがあってね。それには大学を卒業しなければならないから、翔も諦めていたんだが、翔の中学の担任……確か加納先生と言ったな。その加納先生の薦めで、永山高校に入学したんだ」


 健太が叔父さんに訊いた。

「白鳥は他の県から来ましたよね。地元の高校だと、何か不都合でもあったんですか?」


「翔の地元だと進学校は、近くにもあったが私立だったんだ。少し離れた所にも公立の進学校はあったが、ここにはいつも全国レベルが出てる強いボクシング部がある」


 今度は康平が訊いた。

「ボクシング部って、何か大学と関係あるんですか?」


「ハハハ。君は何にも知らないんだな。ボクシングの全国大会でいい成績を残すと、大学推薦の道があるんだよ。それもいい条件でな。去年の夏に翔の二人の兄貴と加納先生が、翔が永山高校に入ったら、ここに下宿させて下さいってワザワザお願いしにきて今の話を教えてくれたんだよ。……もっとも俺も知ったのはその時だから、偉そうな事は言えないけどな」


「けどボクシングの推薦じゃなくてもいいような気がするんですが……。あいつは頭もいいですから」


 健太の質問に叔父さんは答えた。

「それは翔の希望だよ。ああ見えて、翔はボクシングが大好きみたいだ。理由は知らないがな」


「俺はてっきり、イジメか何かで隣の県から来たと思ってたんですよ」


 康平の話に有馬が笑った。

「アハハ、俺も最初は思ったけど、アイツ金がネェからカツアゲされる心配もねぇしな」


「そう言えば、有馬君と翔が店で話しているのを見たうちの店員が、『翔君が、目付きの悪いコに絡まれてる』って、血相変えて報告しにきた時は、俺もビックリして駆け付けたんだよ」


 有馬が苦笑しながら言った。

「そん時ヒデェんだぜ。『翔にカツアゲしても何もないから帰ってくれ』だってさ……」


「ごめんな! あの時は初対面だったからな。君達も頑張っていると思うが、翔も頑張ってるよ。学校から帰ってからはすぐに勉強するし、休みの日にはお店を手伝ってくれるしさ。うちの女房も、翔の事は気に入ってるみたいだしな。それに最近は朝五時に起きて……」


「叔父さん!」健太が話を遮った。


「ん?」


「糸屑があると思ったら、俺の見間違いでした」


「……! ああそうか。走ってる事は、誰にも言わないようにしてるんだったな」


 康平と健太、そして有馬は絶句した。


 スーパーの入口から誰かが呼んでいた。

「あんたぁ、レジが混んで大変だよ。翔君があがれないじゃないか」


「お、こりゃまずいな。……そうだ! 俺のオゴリで君達にジュースとお握り一つずつ持って来たんだ。さっき翔が、二百八十円のクリームコロッケを三つも買ったって心配していたようだからな」


「有難うございます」


 白鳥の叔父さんは、入口にいる奥さんらしい人に急かされ、急いでレジに向かっていった。


 有馬が二人に話す。

「俺がお前らをここに誘ったのは、白鳥の事情を知って欲しくてさ。アイツ、モジモジだろ? このままだと、お前らも知らないで三年間終わりそうだったからさ。……迷惑だったか?」


「いや、そんな事ないよ」

 康平に続いて健太が言った。

「そうそう、迷惑なのは有馬が頼んだクリームコロッケくらいなもんだよ」


「しつけぇぞ! 白鳥は、自分の事が話題になるのを嫌がるから、トットとゲーセンに戻ろうぜ」


「白鳥を待たなくていいのかよ? アイツ、俺達がいたから不思議がってるぜ」


 康平に訊かれて有馬は言った。

「構わねぇよ。明日白鳥に聞かれたら、ここのクリームコロッケが食べたかったって言えばいいしさ」


「どっちがしつけぇんだよ、まったく!」


 健太が飽きれ顔で言った。


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