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広がる友達の輪

 午後三時になり、六人はロビーで休憩する事にした。


 奥の方に六人が座れそうな場所を見付けた健太が、有馬と向かっていたので、康平と亜樹もそれについて行った。四人はそこに座った。


 他の何組かのグループも、偶然同時に休憩に出たのもあってロビーが少し混んだ。


 図書室を遅れて出た綾香と白鳥は、入口に近いソファーに座った。綾香が亜樹に小さく謝るポーズをすると、亜樹は微笑んで右手を小さく手を振った。


 

「六人一緒に座れなくなったけど、かえって都合がいいのかもな」

 そう呟いた有馬が亜樹を見た。


「……俺と康平と健太、そして白鳥は友達だ。だから、その友達の山口や内海にも白鳥の友達になって貰いたいから聞いて欲しいんだけど、いいか?」

 

 大事な話だと察した亜樹は黙って頷いた。


 有馬は、

「康平と健太は一度聞いた話だけど、これから白鳥の事情を話すからな」

と言って話し始めた。


 白鳥の父親が彼の幼い頃に他界し、母親が病弱で経済的に苦しかった事。白鳥の二人の兄は、弟だけでも高校に行かせようと、中卒で働き始めた事。隣の県から来た白鳥は、今親戚の家に下宿していて、休みの日は、気を遣って親戚の店の手伝いをしている事を話した。


 康平と健太は、一度聞いた話だったが真面目に聞いていた。亜樹も有馬から視線を逸らさずに聞いた。


「ここからは白鳥自身の事情なんだけど、アイツは今日、自信無さげに康平と健太を友達だと思うって言ってただろ」


「……あぁ、そうだったったな」健太が言うと、康平も頷いた。


「アイツ、怖かったんだよ。お前らに自分の家の事情を知られているから、引かれてるか、心の中で馬鹿にされてるかも知れないってな。だからアイツは、自分の事を話したがらないのさ」


「そんな事考えたことも無いよ」康平の声が少し大きくなった。


「康平の気持ちは分かるよ。……ただ白鳥は、いつも同じ服だったり、靴や家がボロボロでずっと馬鹿にされてきたんだ。アイツ、笑い慣れていないから笑うのも下手だし、心の奥で他人を怖がっているからすぐドモるしさ」


 有馬は話を続けた。

「白鳥は今、月の小遣い二千円だから。そこの事情も理解してくれると助かるからさ」


「親戚の家でも苦労してるの?」

「いや、あの人達は白鳥の事を気に入ってた筈だよ」

 亜樹が心配そうな顔で訊くと康平が答えた。


 有馬が再び話し始めた。

「白鳥の叔父さん達から聞いた話だと、兄貴達から下宿代と小遣い分を貰ってるから、五千円を渡そうとすると、頑なに二千円しか受け取らないらしいんだよ。残りの三千円は節約している兄さん達に返してあげて下さいってな」


 亜樹が口を開いた。

「改めて訊くけど、今の白鳥君は酷い状態じゃないのね。……お小遣い二千円は少ないと思うけど、自分が残りのお金の受け取りを拒否してるわけだし」


「……まぁ、そういう事にはなるな」


「私も白鳥君と友達になりたいと思うから、同情はしないよ。……同情してたら、きっと友達じゃなくなってしまう気がするしね」

 

「山口の言いたい事は分かるけど、結構ドライなんだな」


「俺から言わせるとな、亜樹は超人なんだよ」


 健太がそう言うと、有馬が吹き出した。

 

「健太はなんて事言うのよ! 有馬君も笑わなくていいでしょ! 私だって白鳥君と友達となりたいから言ってるんだし」


「康平達から聞いてたけど、やっぱ山口はいい奴なんだな。ヤケに男気もあるし」


「男気って何よ! ……健太もニヤニヤしないの!」


「俺がニヤついているのは、亜樹じゃなくて康平にだよ」


 亜樹が康平を見ると、満面の笑みになっている康平がいた。


「困っている女の子を見て満面の笑みって、どんだけヒトデナシなのよ!」


「ち、違うよ。有馬も亜樹の事を分かってくれて嬉しかったんだよ」


「亜樹に会う前も、亜樹の事を有馬がいい奴なんだろうなって言ったら、康平は凄く嬉しそうだったしな」


「……友達として嬉しいのね。だったら許してあげる。……そろそろ戻ろっか。図書館のオバサンに怒られるかも知れないし」


 亜樹が綾香達の方へ行くと、白鳥と綾香は意外な程話が弾んでいた。



 図書室のテーブルに着いた時、亜樹が話し掛けた。

「今度は康平が隣になって欲しいから、席を替えたいんだけど、どうしようか?」


「綾香は亜樹と隣がいいだろうし、俺が替わろうか?」

 健太がそう言った時、亜樹もそれがいいと思った。


「いいよ、私が替わってあげるよ」

 綾香が立ち上がって荷物をしまい始めた。


 健太と亜樹が意外そうな顔をしたが、綾香がもう移動する準備をしていたので、彼女と康平が席を交換する事になった。


「康平の数学は暫く見れなかったから、小テスト作ってあげたんだけど、ちょっとやってみて」


「今回も助かるよ。ありがとな」


 康平が亜樹から紙を貰った時、有馬と白鳥が「え!」と驚きの声を挙げた。


「そ、そんな事もしてあげてるの?」

「亜樹はたまに作ってるよ。康平の数学だけだけど」

 白鳥に訊かれて、綾香は何の疑いもなく答えた。


「康平の数学は壊滅的なんだから、友達として当然でしょ? 平日は六時で閉館だから、勉強に集中するわよ」

 亜樹に言われて、他のメンバーも勉強に取り掛かった。


 

 小テストの採点をした亜樹は、驚いていた。

「結構、正解が多いわね。この分だと今回は大丈夫そうだし、前の中間で出た所を勉強しよっか」


「ん? でも何で?」


 不思議そうな顔をする康平に、亜樹が教科書を開きながら答えた。

「中間の時、康平の数学見れなかったでしょ?  どれだけ理解してるか把握したいのよ。明日テストだけど、弥生ちゃんが来ると見れなくなるからさ」


「そうか。じゃあ、やってみるよ」



 驚いた顔で亜樹を見る白鳥に、隣に座っている綾香が言った。

「白鳥君、此処教えてくれるかな?」


「え、あっ、うん」


 ドモりながら説明を続けた白鳥に、綾香が「ストップ!」と言って中断させた。


「少し教えたら、一旦止めて相手に理解させる時間を与えた方がいいと思うよ。その時は相手が本当に理解しているか、観察しながらね。……亜樹はそうやって教えてくれたから、やってみて」


「う、内海さん、あ、有難う」


 再び説明を始めた白鳥だったが、しばらくして、また綾香が彼の説明を止めた。

「ここが特に大切なんだけど、一番重要な所はすぐに答えを教えないで、相手に考えさせて自分で解かせるようにするのが亜樹は上手いのよ。教えて貰った方は、理解は深まっていると思うよ」


「や、やっぱり、や、山口さんは凄いね」


「ね、そうでしょ! 白鳥君も頑張って」

 綾香は上機嫌だった。


「綾香もそうだけど、白鳥君も過大評価は恥ずかしいからやめてね」

 亜樹の顔が赤くなった。



 夕方六時、図書館は閉館になり、六人は入口にいた。

 有馬が健太に笑って言った。

「結局山口がスパルタだったのは健太だけだったな」


「健太は楽して覚えようとしてるのが、ミエミエだったからよ。……それはそうと、君達は今日スパーリングだったんでしょ? 康平にも言ったんだけど、殴り合った後なのに、よく普通に話せるわね」


「女の子がよく言う、ご飯とデザートは別腹って感じかも知れないし、……まぁ、これはやった奴しか分からない事かもよ」


 有馬に続いて康平も話し始めた。

「今日は健太に打たれたけど、カチンとくるより、上手くやられたって気持ちだったんだよな」


「……まぁ、言いにくいんだけど、康平は分かり易いんだよ。……もう少し、狡さとか抜け目ない所があればいいような気はするかな。……偉そうな事は言えないけど」


「それは嫌よ。狡くて抜け目のない康平なんて想像もしたくないわ」


 

「……話は変わるけど、小テストを作る事までして、友達に教えるのは聞いた事ないぞ」


 有馬の話を聞いた白鳥も、頷きながら言った。

「お、俺もこんなに、ね、熱心に教える人は、は、初めて見たよ」


「亜樹が康平に小テストを作ったのは結構見てるから感覚がマヒしちゃってるけど、考えてみたら凄い事してるのよね」


「……綾香も、みんなも考え過ぎだよ。私が教えると康平が頑張って覚えようとしてくれるから、友達としてテストを作ってあげてるだけなんだからさ」


「自分の勉強時間を削ってまでか? 山口と康平はホントは付き合って……」

「有馬ストップ!」有馬の話を健太が止めた。


「俺は康平と長い付き合いだから分かるが、康平が亜樹を友達として接しているのは本当だ。亜樹の言う事も本当だと思う。だからこそ、有馬と白鳥には、生温かい目で見守る……っていうスキルをこれから磨いて欲しいんだよ」


 白鳥は分かっていないようだが、有馬は「なるほどな」と言ってニヤリとした。


「……最後、健太に物凄く侮辱された気がするんだけど、私の気のせいかしら?」


「気のせいだよ。俺は康平より少し敏感だから分かるけど、今のままでいいと思うよ。なにせ相手は、不器用で気が利かなくて、でも友達の事は大切に思ってくれる鈍感大魔王様なんだからさ」


 亜樹がクスっと笑った。

「何の事か分からないけど、大魔王様との付き合いの長い君のアドバイスは憶えといてあげるね」



 別れ際、亜樹が有馬と白鳥に言った。

「有馬君と白鳥君は、私達とも親しくなったんだから、これからは私と綾香を名前で呼んでね」


 有馬が大きく息を吸った。

「……悪いけど、俺、中学の時から付き合っている彼女がいるから、女の子を名前で呼ぶのはアイツだけにしてんだ。……気分を悪くしたなら謝るからさ」


「有馬君は、彼女の為にケジメをつけれるんだね」 

「そういう理由だったら、私と綾香は全然構わないよ」

 彼女達は笑顔でそう答えた。



「お、俺は、女の人とあんまり話した事ないし、みょ、苗字でお願いします。……それに、山口さんは、す、凄い人だと思っているから、名前でなんて呼べないよ」


「……し、白鳥君にも無理強いは出来ないんだけど、話の後半は、少し考え直した方がいいと思うな」


「亜樹、大目に見てあげて! 白鳥君は、亜樹の凄さを共感出来る貴重な人なんだからね、ね」


「私は綾香に弱いから我慢するけど、私は凄くも何ともないんだからね」


「有馬、俺は我慢出来ねえぞ。お前は同志だと思ってたのに。……白鳥、有馬に彼女がいる事は知ってたのか?」

 

「え、うん。前に聞いてたよ。健太は知らなかったの?」


「有馬は白鳥に心を開いても、俺にはまだ開いてなかったんだな」


 亜樹が小さく笑って言った。

「健太が取り乱しているのもあるし、明日に備えて、みんな帰ろっか?」



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