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性格的なもの

 週が変わって火曜日。永山高校は期末テスト二日目を迎えていた。


 朝のホームルームが始まる前、康平の前の席にいた亜樹が後ろを振り向いた。

「康平は、部活が終わったら図書館来れる?」


「だ、大丈夫だよ。……あ、明日は数学のテストだし。あ、有難う」


 亜樹が吹き出しそうになるのを堪えた。

「いくら数学が苦手だからって、緊張し過ぎだよ」


「……ち、違うんだ。今日は健太とスパーリングだからさ」


「……そうだったんだね。……図書館に行けない位疲れてた時は、スマホで教えてね」


 康平が亜樹に「有難う」と言った時、担任教師が教室に入った。



 この日のテストが終わり、テスト休みが無いボクシング部員だけが学校に残った。

 火曜日は一年生同士のスパーリングである。


 シャドーボクシングが終わり、最初に有馬と白鳥がリングに入った。


 二人は先週のスパーリングの時以上にパンチを多く出した。先輩の大崎とやる時よりも手数が多い。


 康平は、彼等の手数が多いのは、大崎のアドバイスを意識しているのと、共に負けたくないからだと思った。



 二ラウンド目終了のブザーが鳴り、康平と健太の番になった。


 開始のブザーが鳴った。

 健太は、前回よりも右のグローブを少し高くして前に出していた。健太の右グローブが邪魔で、康平は左ジャブが打ちにくいと感じた。


 康平は、右ストレートから攻めようと思った

時、健太にスッと距離を取られた。


 健太が遠い間合いから二発の右ジャブを打って距離を詰め、身体を少し沈めた。康平は左のボディーアッパーが来ると思い、ガードを下げて直撃を防いだ。


 この日も康平は、大崎のアドバイスを意識して、コンビネーションブローを少しでも出そうと思っていた。

 対峙しながら、右ストレートから左フック、そして右ボディーストレートを打つ事を決めた。


 だが、最初の右ストレートを打とうとした時、健太がまたバックステップで距離を取った。康平はパンチを出し損ねてしまった。


 互いの距離が少し詰まり、健太が左ストレートから右フックで攻め込むと、康平はブロックでこれを防ぐ。


 康平から見た時、ブロックの隙間から身体を沈める健太が見えた。

 康平が左のボディーブローを防ごうとガードを下げると、健太の左グローブが急に大きくなった。

 ガンと衝撃があった。パンチを貰ったのは額だったので、意識はハッキリしていた。


 その直後、康平が無意識に強振していた左フックが健太の右ガードに当たり、彼はバランスを崩した。

 康平は何を打とうか迷い、目隠しワンツーストレートを打とうとした時、健太に大きくバックステップされて追撃は出来なかった。


 健太が距離を取ったまま、右へ回り始めた。

 ロングレンジ(離れた間合い)で、共に牽制するようなストレートの交換になった。

 ここで、ラウンド終了のブザーが鳴った。


 先週の一年生同士のスパーリングと同様に、梅田と飯島は声を張り上げず、二人で話し合っていた。



 二ラウンド目開始のブザーが鳴った。


 対峙した時、康平は健太の構えの変化を感じた。前のラウンド、康平の左ジャブを邪魔するように前へ出していた右グローブを、テンプル(コメカミ)の所まで引いていた。


 康平は、健太が自分の左フックを警戒していると思った。

 左ジャブが打ち易くなったのを感じ、左ジャブで距離を詰め、右ストレートから左フックのボディーブローを打とうとした。


 踏み込んで左ジャブを打とうとした瞬間、健太が大きくバックステップをした。


 健太が、右前方へ踏み込みながら右ジャブを二発続けて打って距離を詰める。

 これ以上自分の左側へ行かせないように、康平が左フックを打つタメを作ると、健太は身体を沈めながら更に右へ動き、低い姿勢のまま左のパンチを打とうとしていた。


 康平は反射的にガードを落としながら、しまったと思った。前のラウンド、左のボディーブローのフェイントから顔面に左ストレートを食らったからだ。

 慣れない動きから打った健太の左ストレートは、康平のヘッドギアに浅く当たった。


 二人は、ロングレンジから主にストレートのパンチの交換を重ねた。


 共にクリーンヒットは無かった。ラウンド終了のブザーが鳴った。



 康平はモヤっとしていた。

 左ボディーブローのフェイントから顔面への左ストレートを貰ったからでは無い。それに関しては、腹立たしさは無く、上手くやられたという気持ちだった。


 問題は、自分が当てるつもりで打とうした時に、再三距離を取られて打てなくなった事だ。         

 とんでもない癖や欠点があるのではないかと不安になった。


 康平は梅田と目が合った。彼はこの事を相談しようとした時、先に梅田が口を開いた。


「高田、打ち気がバレるのは気にするな。お前の性格的なものだ。今は欠点に思えるだろうが、これから武器に変えるつもりだから覚悟しておけ」


 康平は、梅田が本気で言っているのを感じて嬉しくなり、心から返事をした。

 

 梅田が一年生全員を読んだ。

「明日の部活は実際の練習は無しだ。お前達に見せたい映像があるから、三年二組の教室に来い。それと、今日の部活は軽く三ラウンドのシャドーをして終わりだ」



 練習が早く終わった一年生達は、部活で一緒に着替えていた。


 有馬が訊いた。

「健太と康平は、今日図書館に行くのか?」


「俺は、亜樹……山口が数学教えてくれるから行くけど、健太はどうする?」


「亜樹が来るんだったら、俺も行くよ。分からない所は、すぐ訊けるから助かるんだよな。……俺達は、山口の事を亜樹って呼んでるよ」


「そうか。……お前達から前に聞いてたけど、山口って、やっぱいい奴なんだな。……俺、明日の数学マジヤバくて、白鳥に図書館付き合って貰うんだよ」


「あ、有馬は他の教科も、あ、危ないけどね」


「ば、バカ……少しは見栄を張らせろよ」


「白鳥のツッコミ久々に聞いたよ。グッジョブ白鳥」


 慌てる有馬と、親指を立てる健太を見て、白鳥は嬉しそうな顔をしていた。


「ツッコまれるのは有馬だけじゃ無いんだよ、そこの君」

 健太がニヤニヤしながら康平を見た。


「何だよ急に?」


「康平は分かり易いんだよな。……まぁ、いいタイミングで教えてあげるよ。腹も減ったし、図書館のロビーで弁当食べようぜ」


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