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これでいいんだ。きっと……

 店を出た亜樹は康平に言った。

「お店の中では出来なかったけど、今日の康平は彼氏の役なんだから、家までお願いね」


「家は遠いの?」


「……結構歩くけど色々話したいから、ゆっくり歩こっか」


「結構歩くんだ。……ここから先は行った事無いけど、駅に戻れるかなぁ」


「家に着いたらすぐに分かる目印を教えるから大丈夫だよ。心配しないで」



 二人は暫く黙って歩いていた。


「「あの……!」」


 亜樹と康平は話すタイミングが被ってしまった。同時に二人は小さく吹き出した。


「こういうのは先に話す方が大変だと思うから、康平から先に言ってよ」


「まぁいいけど、どういう理屈だよ」康平は苦笑した。


「綾香の誕生日なんだけど、彼女は何を貰えば喜ぶのかなって思ってさ」


「あら、綾香は心の込もったプレゼントだったら、何でも喜んでくれるわよ」


「……それって、一番ハードルの高い模範解答だよ」


「すぐに答えを教えたら、康平君は人として成長しないでしょ。優しい私は、辛くても心を鬼にして言ってるの!」


「まぁ……亜樹に比べれば、俺はまだ恵まれているんだよな」


「……そうなのよ。プレゼントを渡す当事者の康平や健太に相談する訳にはいかないしね。……プレゼントの話はもう終わりにしない?」


「……そうだな。愚痴みたいになったらプレゼントを受け取る人に申し訳ないしね」


「……そ、そうね。康平も分かってるじゃない。……他に気になってる事とかないの?」


「……気になっている事かぁ……弥生かなぁ」


「弥生ちゃん? どうしてまた」


「アイツ、みんなに迷惑かけて勉強してるよね。でも、頑張ってる事は確かだし、うちの高校に入れればいいなっては思ってるよ」


「……そういう事ね。今のペースで頑張れば、たぶん大丈夫だと思うよ」


「そっかぁ、でも、たぶんて言われると不安になるかも。……あ、ごめん、悪気があって言った訳じゃないんだ」


「……そうだよね。康平は悪気ないんだもんね。口下手で意外と天然だから、会話をすると変化球投手になる時があるのよね……あ、そこ右に曲がるから」


「……何度か曲がったけど、俺本当に帰れるの?」


「それは百パーセント保証するから大丈夫! ……変化球投手には、直球で対抗しなくちゃね」 


「ん?」


「今日、康平は河合さんに思っている事を正直に言ったのよね?」


「……そうだね」


「……嬉しかったんだ。……でも気になる事もあったんだよ」


「……亜樹が他の男の人と付き合うのは想像したくないって話かな。あれも本音だけど……ごめんな、束縛する友達って気持ち悪いよね」


「何言ってんの? あれは一番嬉しかったよ」


 康平は首を傾げた。

「亜樹は束縛されたい派なのかな? だったら……」


「ストップ! 今、康平が大暴投しそうだから止めるね。……その後、河合さんに訊かれて答えた事があったでしょ?」


「……確か、たぶん大好きだと思いますって言ったんだよね。……! ごめん、俺も亜樹の事言えないな。たぶんなんて言ってた」


 亜樹がクスッと笑った。

「思いますもいらないわね。私は河合さんに、康平が大好きってハッキリ言ったよ……友達としてだけど」


「どうしよう……店に戻って、河合さんにもう一度言い直す訳にもいかないしな」


「ブッ、そんな事したら河合さん一生立ち直れなくなっちゃうよ。……でも分かってくれたようね。私に二回言ってくれたら許してあげる」


「いいけど……何で二回なんだ?」


「私の気分。とっても大事な理由よ」


「そ、そうだね。……少し深呼吸してからでもいいかな?」


「いいわよ。私は心が広いから待ってあげる」


 

 後ろを向いて深呼吸する康平を見て、亜樹は笑いを堪えた。


「準備出来たよ。いいかな?」


「大きな声は出さないでね」と言って亜樹が頷いた。康平は、息を大きく吸い込んだ。


「俺、高田康平は、亜樹の事が大好きです。友達として」



「じぁあ、もう一回いくよ」

 康平が再び大きく息を吸い込んだ。


「……ねぇ」


「ん?」


「最後の友達としての所は無くさない? お互いそういう事なのは分かり切っている事なんだしさ」


「それもそうか」


「……康平、もう一回深呼吸しなさい。……私も付き合ってあげるから」


「わ、分かったよ」


 二人はお互い背を向けて深呼吸を始めた。終わるのは亜樹の方が遅かった。


「じゃあいくよ」

 康平が言うと亜樹が頷いた。


「俺、高田康平は、亜樹の事が大好きです」


 二人は顔が真っ赤になっていた。


「……これで、いいんだね」


「……これで許してあげる。これでいいんだ。きっと、このままの関係もね。……あと、家はここだからアリガト」



「亜樹ちゃんと高田じゃね〜か。こんな所で何やってんだ?」三年の清水だった。


「(清水)浩司さん、こんばんは」


「清水先輩、こんばんはッス。……今、亜樹のアルバイト先から家まで送っている所なんです」


「ん? 亜樹ちゃんのアルバイト先は「独珈香」だったよな? すぐそこじゃね〜か」


 康平が清水の指差した方向に目を向けると、百メートルも満たない場所に、さっきまでいた喫茶店「独珈香」があった。



 清水が言った。

「亜樹ちゃん、高田を仕込むのはいいけど、俺の可愛い部活の後輩なんだから、程々で勘弁してやってくれよ」


「仕込むなんて、浩司さん! 私を何だと思ってるの!」


「いやぁ〜、美人だと、怒った顔もサマになっていいねぇ。じゃあお休み」

 清水は逃げるように自分の家に入っていった。


「あ〜なっては駄目よ。高校生だけど、中身はコテコテのオッサンだから」


「ノーコメントでいいかな? 尊敬している先輩の一人だからさ。……家、店から近かったんだね」


「怒った?」


「怒るわけないじゃん……! さては確信犯だな」


 亜樹はクスクス笑っていた。

「私に騙された人は、康平が第一号なんだから光栄に思いなさい。……それはそうと不思議ね。帰り道、康平は一回もドモらなかったわね。奇跡かしら」


「そりゃそうだよ。緊張しているならとも角、いくら俺でも気を許した人にはそんなにドモったりしないよ」


 亜樹の口許が綻んだ。

「そっかそっか。今日はホントに有難う。明日は弥生ちゃんの家庭教師になっちゃうけど、数学はちゃんと頑張るのよ」

 



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