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個人レッスン


 翌日の一時間目、ロングホームルームで球技大会の種目分けがあった。


 その前に担任が説明をした。


「三種目とも男女混合なんだから、男共にはハンデ付きだ。バスケはリバウンド禁止、バレーはスパイク禁止、ソフトは利き手と逆でやる」



 不満そうな男子生徒達に気が付いたのか、担任は話を付け加える。


「お前ら女子と一緒に出来るだけでも有り得ないんだから、そんな顔をすんな! この時間でメンバーを決めるから、俺の配った用紙に名前と出る種目を書いておけよ。書いた者から俺の所に持って来い」



 担任の机にクラス四十人分の用紙が集まっていく。


 担任はその用紙を見ながら、バレー・バスケ・ソフトと書いてある黒板に、「正」の字を書いていった。


 担任が「正」の字を書く時、白と赤のチョークを使い分けていた。


 全員が用紙を出した後、四十本分の線を引いた担任は驚いた表情になっていた。


「なんだよ! もう直す必要ないじゃないか」


 黒板にあるバスケの所には、「正」が二つ完成し、白と赤の線が五本ずつ入っていた。


 バレーは白と赤が六本ずつ、ソフトボールには九本ずつ入っている。



「言い忘れたが、バスケの定員は十人、バレーは十二人、ソフトは十八人だ。どれも男女半々にしなければならないんだが、こうもアッサリ決まるとはなぁ……」


 担任は困った顔をしながら全員に言った。


「今日のホームルームは球技大会の種目分けでてこずる予定だったから、何にも考えてなかったんだよ。……お前ら種目別に集まって適当に雑談してろ」



「バスケはこっちだよー!」


 麗奈の声に、バスケに出る全員が彼女の席に集まった。


 麗奈は担任へ聞こえないように、声を低くして康平に話し掛ける。


「昨日健太が言ってた一人二百円の話をさぁ、女バス全員に話したら皆ノリ気みたい」



「ん、なになに、一体何の話?」


 麗奈は、康平を除いた八人のメンバーにケーキバイキングの事を説明した。


「何か面白そうだね」


 亜樹も含めた六人のメンバーは、好奇心旺盛な顔をしていた。



「二百円は出すけどさぁ。……俺らバスケ上手くないけど参加していいのかなぁ?」


「そうそう、あそこのケーキバイキングは行きたいんだけど、みんなの足を引っ張ってヒンシュク買いたくないしぃ。……私達二人はずっと控えでいいよ」


 小柄で仲の良さそうな男女二人が、全員の顔を見ながら麗奈に言った。



「球技大会なんて遊びなんだから、上手くなくたって大丈夫よ! ……でもぉ、練習したいんだったら協力するわよ。土日の午後からだったら私は大丈夫だけど。あ、強制じゃないから……ネ!」


 笑顔で話しながらも目が笑っていない麗奈の表情を見た二人は、土曜日を練習日にした。



「康平も当然練習するんでしょ?」


「悪いなぁ、土日の午後からは部活なんだよぉ」


「何呑気な事言ってんの! あんたは他人の三倍練習しなきゃいけないんだから何とか都合つけなさいよ。みんなの二百円を無駄にしたいの?」


 麗奈と康平のやり取りを聞いた他のメンバーは、土日の練習に出たいと言い出した。


 土曜日の練習だけ出る予定だった男女二人も、土日に参加すると言い直す。



「そう、みんな悪いわねぇ。ホント強制じゃないんだから。康平は部活サボッたら梅ッチに殺されそうだしね。まぁ仕方無いか。ところでさぁ……」


 麗奈は殆どのメンバーが自主的(?)に練習する事へ気を良くしたのか、バスケと関係無い話を始めていた。




 放課後、亜樹に誘われていた康平は市民体育館にいた。


 亜樹は十分程遅れて体育館に着く。走ってきたようで息が弾んでいた。


「ゴメンね、待たせちゃって! 練習着を取りに一度家に帰ったんだ」


「学校に持ってくりゃいいんじゃないの?」


「イヤよ! バッシュとかカサ張るし学校では目立ちたくないからね。……チョット待ってて!」


 亜樹は急いで更衣室に入っていった。


 白地で両脇に二本の赤いラインが入っているノースリーブのTシャツに、バスケットパンツ、そして白いバッシュの姿で亜樹は更衣室から出てきた。



「あまりジロジロ見ないでよ! 中二の時に着ていた練習着で、着れるかどうか心配だったんだから」


「い、いや、カッコイイと思ってさ……」


「さ、さっさと始めるわよ! まずは準備運動ね」



 二人が準備運動を終えた時、亜樹が口を開いた。


「ウォーミングアップついでにパスとドリブルの練習をするわよ。……私のマネをすればいいからね」



 亜樹は倉庫から持ってきたボールを、その場でドリブルしてから康平にチェストパス(胸から出すパス)を出す。


 康平は、受け取ったボールを亜樹のマネをして彼女にパスをした。



 何度か繰り返したが亜樹は首を傾げている。


「パスに勢いがないのよねぇ。だから相手に渡っちゃったのかも。……それとドリブルの時は、ボールを見ないで前を見てるといいんだけど……」


「そんなの無理だよぉ」


 堪らず言い返した康平だったが、亜樹も責めるつもりはないようで、むしろ康平以上に悩んでいる様子である。


「そうね。……ドリブルは根気強く練習しないと身に付かないから、球技大会までは厳しいかもね。……でもパスは出来そうだからやってみようよ! 片足で踏み込みながら、体全体でボールを押し出すイメージでパスしてみて!」



 何度パスを出しても上手くいかない康平に亜樹が言った。


「何て言うのかなぁ。……体の重心移動に遅れて腕を伸ばすって感じなのかな。……それと腕の力は抜いた方がいいわね! 試しにやってみてよ」


 彼女のアドバイスに従って康平が何度目かのパスを出した時、康平の指先にボールを押し出す感触が残った。


 放たれたボールは、今までよりも勢いよく亜樹の胸元へ吸い込まれていく。


「いいじゃん康平! 忘れないようにドンドン繰り返すよ」



 パシッ!


「ナイスパース!」



 パシッ!


「いいよ康平!」



 康平がパスを出す度、数人しかいない体育館に亜樹の声が響く。


 普段の大人っぽい亜樹と違って、体育会系のノリになっている彼女を見た康平は、新鮮な気持ちでパスを繰り出していた。



 チェストパスの他にバウンドパスも練習した後、亜樹が康平に尋ねる。


「康平、まだ時間ある?」


「……あぁ大丈夫だよ」


「じゃあ、シュートも練習しちゃおうよ」


「えっ、俺ドヘタなんだけど?」


 康平は両手を前に出して遮るような仕草をした。


 亜樹は構わず康平にボールを渡す。


「フォームなんて気にしなくていいから、一回打ってみてよ」



「……笑うなよ」


 ボソっと言った康平は、フリースローの位置に立った。


 右の鎖骨の辺りでボールを持ち、両手で押し出すようにシュートをする。


 ボールは直接リングに当たり、右側へ大きく弾いた。



「自己流で打ってんだから、入らないのは当然なんだよな」


 康平は言い訳をしながらボールを拾いにいく。


「ゴメン康平、もう一回シュートお願い」


 亜樹は笑いもせず康平に言った。


 次に打ったシュートはボードからリングに当たり、亜樹のいる左側へボールが転がっていく。


 亜樹はボールを拾わないで頬に手を当てて考えている。



「門田さんの話を聞いた時、康平はもっとヒドイと思ってたのよね……」


「いくら俺だって、誰も邪魔しなけりゃボードを越えたりしないよ」


「そう……だったら康平は試合でも笑われないで済みそうよ」


「え……そうなの?」



 亜樹は足元にあるボールを拾っで左脇に抱えた。


「多分だからね。……でも練習が必要かも」



 その時社会人らしい人達が、バドミントンの道具を持って体育館に十人程入っていた。


「六時半も過ぎたし……もう帰ろっか?」


「そうだなぁ、実はもっと練習してみたいけど恥ずかしいしな」



 二人は各々更衣室に向かっていった。



 外に出た二人だったが、康平はハッと思い出すように口を開く。


「今日は九月九日だよね! た、誕生日おめでとう」


「ア、アリガト。……そう言えば康平の誕生日って綾香と同じ日だったわね」


「俺のなんか気にすんなよ。勉強教えて貰ったお礼……い、いや、親友として渡したかっただけだからさ」


 慌てて言い直した康平に亜樹はクスっと笑った。


「親友だったら尚更お返ししなくちゃね! ところで健太の誕生日って何日?」



「一月一日だよ! アイツはちょっと可哀想なんだ。その日はみんな忙しいしなぁ」


「そう……あ、いっけない! 七時で家に帰んないと、両親が誕生日の用意をしてるのよぉ」


 亜樹は急いで帰ろうとしたが、一度康平の方へ振り返った。


「康平は来週の水曜日も部活休みなんでしょ? ……また練習出来るかな?」


「頼むよ! でもバスケって、ちゃんと教えて貰うと楽しいもんだな」


「まぁね。……それと、この練習はみんなに内緒だよ! 理由は今度話すからさ。じゃあね」



 少し口許がほころんだ亜樹は、時計をチラッと見ながら早足で歩いていった。


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