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迷惑な祝福


 夏休みも残り十日となった。図書館では苦手な数学の勉強、学校ではボクシング部の練習とハードな毎日が続く康平である。



 彼は、いっそ学校が始まってくれれば……と思ったが、厳しく教えながらも、髪を掻き上げながら熱心に教えてくれる亜樹の横顔を見て、ドキリとする康平だった。


 この時の自分の顔が、どの位だらしなくなっているか、想像すると恥ずかしい気持ちになっていた。




 ソフト面(頭脳)のトレーニングが終わり、午後三時からはハード面(体)のトレーニングに移る。



「練習お願いします!」


 康平は大声を出して練習場に入る。


 梅田は椅子に座っていたが、いつもより涼しいからか少し機嫌がいいようだ。


 梅田が冗談のような感じで康平に話し掛けた。


「高田、今日は涼しいからその分練習は厳しい方がいいだろ?」


 この人が悪い方の冗談を言う時は、大抵事実になってしまう。


 現に練習を終えた三人の二年生達は、精魂尽き果てたような感じで柔軟体操をしていた。


「あ、いや……今日もお願いします!」


 康平は言葉を濁し、顔を見られないように深々と頭を下げて準備運動を始めた。


 この時の自分の顔がどの位絶望的になっているかは、想像すらしたくない気持ちの康平だった。



 練習が始まり、いつものようにシャドーボクシングを始める。


 ブロッキングやラリアットを避ける動きを混ぜながら、習ったパンチを繰り出す。


 一年生達は二日前から新しくパンチを習っていた。


 右ストレートのボディー打ちである。


 このパンチは、大体右ストレートと撃ち方は同じだが、先生はラリアットを避ける時のような低い姿勢で打つ事を、しきりに強調していた。尚、健太の場合は左ストレートである。



 シャドーボクシングは六ラウンドで終わった。今日は、連日のようにラリアット攻撃を避けるラウンドがなかった。


 梅田が言った。


「高田と片桐はリングへ上がれ! 高田は飯島先生、片桐は俺とミット打ちをするから急いで準備しろ。有馬と白鳥はサンドバッグ打ちだ!」


 リングに上がった康平と健太は、早速ミット打ちを始めた。


 飯島が片手を顔の近くに上げた。康平は左ジャブを打つ。


 両手を重ねて喉の前で構えた時は右ストレート。


 両手で構える飯島に、ワンツーストレートを打つのは、今までと変わらない。


 今度は飯島が左手を前に伸ばし、右の脇腹辺りに右のミットを下向きにして構えている。


 戸惑う康平に飯島が説明した。


「この構えをした時は右ボディーストレートだ。俺の左手をくぐりながら打てよ」


 右ボディーストレートを打とうとする康平は、飯島の左手が邪魔で打ちにくそうである。


 脚に負担を感じながらも何とかパンチを打った康平だったが、体を起こした途端、彼の後頭部に衝撃があった。


 前に出している飯島の左腕にぶつかったのだ。


「アホ! 打ち終わったら、戻る時も俺の左腕をかいくぐるんだよ」



 ラウンド終了のブザーが鳴り、康平は飯島に質問をした。


「右のボディーストレートは強いパンチが打ちにくいんですけど、あの低い姿勢で打たなければならないんですか?」


「このパンチを打つと顔面がガラ空きになって、打たれ易くなるから我慢しろ。当てる事よりも、まずは打たれない事なんだよ。……優秀な泥棒はなぁ、盗む事よりもまずは逃げる事を第一に考えるもんだ」



 飯島は分かり易いように喩え話を使ったらしいが、康平は逆に悩んでしまった。


(先生は、泥棒の経験があるのだろうか……)



 喩え話はともかく、打ちにくい姿勢から打たなければいけない理由が分かったので、康平はあえて突っ込まないで返事をした。



 次のラウンド、ミット打ちを再開した。


 また飯島が左手を前にして構える。


 康平は打ちにくい姿勢を我慢しながら、先生の右の脇腹にあるミットに右ボディーストレートを打ち込む。


 パスッ!


 シケたミットの音がした後、飯島の左手にぶつからないように体を構えに戻す。


「いいぞぉ。ミットの音なんか気にするな!」


 悲しい位に威力がないパンチなのだが、とりあえずはこれでいいようである。



 ホッとする康平にいきなり右のラリアットが飛んできた。ユックリ打ってきたので習った通りに避けられたが、飯島は右の耳辺りに左手を添えていた。


「ここに左フックを打つんだよ!」



 康平が左フックを放つ。


 安心する間も無く、飯島の左ラリアットが康平に襲ってきた。それを右側にかわした康平たが、今度は先生が左の頬の前に右手で構えている。


「ここに右ストレートだ」


 こうして、ラリアットを避けるだけでなく反撃するトレーニングが始まった。



 パンチではなくラリアットだが、避けて反撃する。


 続けていくうちに、まるでボクシングをしているような感覚に浸った康平であった。



 その後、梅田の冗談に嘘偽りはなく(?)、サンザンしごかれて康平達はノビていた。


 梅田が最後に言った。


「これからは、今日みたいな返し技も教えていくから楽しみにするんだな」



 夏休みも残り一日となった。康平は三日前に宿題が終わった健太と、彼の部屋でゲームとマンガ三昧の一日を送っていた。


 この日は日曜日なので部活も休みである。


 マンガを読みながら健太が康平に話し掛けた。


「康平、お前幾らお金貯まったんだ」


「ん? 三千円近くは貯まったんじゃねぇか」


 ゲームをしている康平は中ボスを相手に苦戦していて、他人事のように答える。


「亜樹の誕生日が九月九日で、今日は八月三十一日で日曜日だろ……! おい康平、ゲームやってる場合じゃねぇぞ」


 ドォォーン!


「一体どうしたんだよ」


 突然テンションが上がった健太の声でびっくりしたのか、康平は中ボスにやられて迷惑顔だ。



「康平、今日プレゼント買わねぇとヤベェんじゃねぇの?」


「まだ誕生日まで十日近くあんだろ」


「チゲェよ。次の土日でプレゼント渡さねぇとチャンスがねぇんだよ。お前、学校の中でプレゼント渡す勇気あっか?」


 ノンビリしている康平を健太が真剣に諭す。まるで、健太がプレゼントを渡す立場のようだ。


 だが、さすがに康平も気付いたらしく、慌ててゲームの電源を消した。



「……康平は、部屋に飾る物を買うつもりだったよな?」


「ん? まぁな」


「だったら、姉ちゃんの部屋に相談しに行こうぜ」


「え、でも真由さん自分で考えろって……」


「相談するフリして、姉ちゃんの部屋に飾っている物を見とくんだよ」


 健太も真由に似て相当シタタカである。


 康平が言った。


「ところで真由さんはいるの?」


「それは大丈夫だ。今日はレンタルでラブストーリー物を借りてたからよ。今頃煎餅でも食いながら見てるぜ」


「テレビを見ている姉ちゃんは、こっちを見ねぇからよ。しっかり部屋を観察しとけよ。……姉ちゃん入るぞ!」


 健太は、隣部屋の扉をノックしながら入っていった。


 彼の予想通り、真由は煎餅をバリバリ食べていた。テレビに夢中のようだ。


「ん……あんははひ、はんは用?」


 真由は煎餅を頬張り、テレビから視線を外さず、後ろにいる二人へ問い掛ける。



「実はさぁ、プレゼントの相場を聞きてぇんだよ」


 そう言った健太に目で合図され、康平は部屋を見渡した。


 窓の上には、「御用」と書かれた提灯が五つ並べてあり、テレビの横には、人気のゲームキャラクターの大きなぬいぐるみが置いてあった。



「ほんはほ、ひふんへはんはへははひほ」


「そんな事言わずに、ヒントだけでも教えたっていいじゃんか」


 真由は煎餅を食べ終わる前にもう一つ口に入れた為、康平には何を言ってるかサッパリわからなかったが、健太には通じているようで不思議と会話が成り立っていた。さすがは姉弟と言うべきであろうか。



 康平がもう一度見ると、後ろの壁際には「愛美須」と刺繍された紫の特攻服、本棚の上に戦車のプラモデルがあり、その横に「私の力作、ティーガーⅠ型」と書かれた手製の立て札まで付いていた。


「今いいシーンなんだからさ、私に聞くより綾香ちゃんて女の子に聞きなよ。亜樹ちゃんの友達なんでしょ?」


 コーラと一緒に煎餅を飲み干した真由は、ようやく日本語を口にした。



 これ以上いると真由の機嫌が悪くなりそうだったので、二人は部屋から出た。


 扉を閉めて健太が言った。


「部屋に入るのは久しぶりだったから忘れてたけど、姉ちゃんの趣味の範囲は昔から滅茶苦茶広かったんだよな。……ワリィな、ありゃ参考になんねぇわ」


「そんな事より、真由さんが言ったように綾香に電話してみんのもいいかもな。……健太、ワリィけど電話してくんね」


「……俺さぁ、綾香に電話した事ねぇんだよな」


 尻込みする健太に、康平は無理強いしなかった。


「そうだな、お前綾香に電話すっとテンパりそうだからな。……俺が片桐って事で電話してやるよ。親が出てきたら明日の連絡って事で誤魔化すからよ」



 健太からクラスの連絡網を借りた康平は、綾香の家に電話をした。


 トゥルルルル――ガチャ!


【ウィース、内海ですけど】


 野太い声にビクっとした康平は、過剰なまでに丁寧な言葉で話す。


【モシモシ、片桐と申しますが綾香さんは御在宅でいらっしゃいますでしょうか?】



【片桐? あぁ健太か。お前やけに御丁寧な言葉遣いだなぁ、おい】


 声の主は内海俊也である。



【し、失礼しました。僕は康平です。お久しぶりです】


 電話越しにペコペコ頭を下げながら、康平は慌てて訂正した。



【片桐、康平? ……今俺ァ寝起きだからよぉ。ちょっと待ってろ。オーイ綾香ぁ、お前のお気に入りの……から……】


 内海は、受話器を外したまま綾香を呼びに行ったようだ。



「康平どうした? 口をアングリ開けてさぁ」


「……い、いや、何でもねぇよ」


 呆然としていた康平は、健太に言われて我に返った。


 電話越しに綾香の声が康平に聞こえた。


【あっれぇー、兄貴ったら受話器外したままじゃんか。……モシモシ康平、何で私の電話番号知ってるの?】



 康平は、たどたどしい口調で事情を説明した。


【……そう、亜樹の好きな物は、……口で説明するより一緒に買いに行く方がよさそうね。今午後三時だから六時に買いに行かない? 私がそっちに行ってもいいけど】


【それは綾香に悪いからこっちから行くよ。買い物に付き合ってくれるのは、ホント助かるよ。アリガトな】


【あ、チョット待って! うちの兄貴は変な事言ってなかった?】


【……いや、何も言ってなかったぜ。じゃぁ俺と健太で六時に駅前へ行くからさ。いいかな?】


【え、ウン私もその時間に行くからね】



 電話を終えた康平へ、健太が合掌した。


「ワリィ、六時から店の手伝いなんだよな。母ちゃんが町内会の会合に出るらしくてさぁ、出前しなきゃなんねぇんだよ」


「いいよ。お前も行くって綾香に言っちゃったけど、後で事情を言っとくからさ。もともと俺の問題だからな。今日は助かったよ」




 六時、ジャージの姿で待ち合わせの場所についた康平だったが、綾香は可愛い服を着て待っていた。


 康平が言った。


「ホント助かるよ。明日から学校なのにワリィな。……それと健太は今から家の手伝いで来れないってさ。あいつも残念がってたよ」


「……そう、それじゃあ仕方ないわね。それと兄貴は本当に変な事言ってなかった? 私を呼ぶ時なんだけど」


「……あぁ、何言ってるか分かんなかったしね」


「まぁいいわ。明日から学校だし、早く店に行こ!」


 デパートのエレベーターに二人きりで乗っている最中、綾香が口を開いた。


「誕生日プレゼントを、部屋へ飾る物にするのは正解かも。亜樹って猫が好きだから、猫のデザインが入った物がいいわね」


「有難う、そうするよ。話は変わっけど綾香の誕生日っていつ?」


「十二月二十五日だよ」


「えっ、俺と同じ日じゃん」


「だから康平だと話し易かったのかもね。……あの勘違いしないで、変な意味じゃないから」


 エレベーターの扉が開き、二人は雑貨売り場へ歩いて行った。



 雑貨売り場では、二人……特に綾香が楽しそうに探していた。


「これなんかは、康平にピッタリなんだよね」


 綾香が笑いながら手にしたものは、グローブを付けて泣いている可愛いキャラクターの小さな人形だった。


「否定はしないけどさぁ、この人形をデザインした人はチョット酷いよね」


 苦笑いしながら答える康平に、綾香は更に笑顔になる。


「アハ、それは言えてるかも。あ、いっけない。亜樹の誕生日プレゼントを選ばなきゃね」




 一時間程して、二匹の仔猫がじゃれあっている形の置時計を見付け、二人はそれをプレゼントに決めた。


「今日は本当にアリガトな。綾香がいなければマジでプレゼント買えなかったよ」


「いいよ別に! 私だって楽しかったしね。……でもよかったね。好きなコのプレゼントが買えて」


 綾香がそう言うと、康平は顔を赤くしながら慌てた。


「い、いや好きとかはハッキリ分かんねぇけど、図書館でのお礼はしたいんだよ」


「康平って女の子に対しては、からっきしだね。……それに私だったからいいけど、他の女の子と買い物に行く時はジャージ以外の方がいいわよ」


 綾香に言われて一瞬下を向いた康平は、小さくなって謝る。


「ご、ごめん」


「ぷっ、私に言いくるめられる男の人って康平が初めてだよ。亜樹に言わせれば、光栄に思いなさい……ってトコかしらね」


 笑いながら話す綾香を見て、康平もホッとする。



 最後に綾香が一言。


「私は本気で、康平と亜樹の事を応援してるんだから。……頑張ってね」



 次の日、学校は長い全校集会から始まった。


 みんなダルそうに整列しながら校長の話を聞いていたが、その後にインターハイ準優勝の石山と兵藤が表彰された。


 康平は自分が表彰されたわけでもないのだが、どこか誇らしい気持ちになって拍手をしていた。



「おい康平、昨日見たぜ」


 拍手をしている康平に、後ろからコッソリ声を掛けてくる男がいた。


 川田というクラスメートで、あまり康平と親しくはないがクラスの中では賑やかなタイプの男だ。


「お前、昨日駅前のデパートで内海と一緒にいたよな。俺も偶然いたんだけどよぉ。いい感じだったじゃねぇか。羨ましいぜ全く」


「あ、いや、それは……」


 川田はカラカウ様子でもなく、素直に祝福しているようなので、康平は逆に返答に困ってしまった。


 チラっと亜樹を見たが、ずっと後ろに立っていたので、彼は少し安心した。



 全校集会とホームルームが終わり、ボクシング部も休みだったので、康平は帰り支度をしていた。



 その時、川田が康平の席に歩いて来て口を開いた。


「康平、さっき内海を見たんだがハーフっぽくてスッゲェ可愛いよな。あんなコとデートしてたなんて、ホント羨ましいよ」


「い……いや、そんなんじゃねぇんだよ」


 康平は声を殺して否定する。そして、前の席にいる亜樹に視線を向けた。


 亜樹は康平達を見ずに帰り支度をしている。



「照れんなよっ! 内海だって楽しそうに買い物してたし、いい雰囲気だったぜ」


 川田は気を遣ってクラス奴等に聞こえないように話すが、一番聞かれたくない前の席の人が聞くには充分過ぎるボリュームだ。



「同じイケメンじゃない男として応援してっからな。頑張れよ」


 川田は、一言付け加えて帰っていった。


 康平は何も悪い事はしていないのに、後ろめたさを感じながら帰り支度をする。


 亜樹が康平に言った。


「康平、……今日は部活が休みだよね。時間ある?」


「あぁ、今日は何も予定がないからな」


「だったら図書館へ来て! ……誤解されると悪いし、私が先に行くから後から来なよ」


 亜樹はそう言って教室から出ていった。




 康平が図書館へ行くと、亜樹と綾香の兄である内海俊也が、ロビーにいて何やら談笑していた。


 俊也は康平に気付いたらしく、右手で手招きをしている。


 康平がペコペコ頭を下げながら二人に近付いていった。



「なんだぁ? オメェも学校終わったばかりなのに図書館かよ。亜樹ちゃんといい、お前ら勉強好きなんだな」


「いや、今日は勉強じゃなくて」


「勉強じゃねぇ? ……するってぇと亜樹ちゃんと待ち合わせか?」


「いや、その……なんてゆうか」康平は言葉に詰まった。


 亜樹がすかさずフォローする。


「康平は、よくここに歴史のマンガを見に来るんですよ。今日もそうなんでしょ?」


「そ、そうなんですよ」


「うちの綾香もそうだけど、よく図書館なんかにしょっちゅう通えるよな」


「そういう俊也さんこそ、何で図書館なんかにいるんですか?」


 亜樹が笑いながら突っ込みを入れた。



「講義のレポートを提出しなきゃなんねぇんだよ。今回出さないとマジヤバくてな」


 俊也が真顔で答えた。


 続いて康平が訊いた。


「レポートは進んでいるんですか?」


「進んでるわけねぇだろ! 図書館はなぁ、雑談する所で勉強する場所じゃねぇんだよ!」


 不謹慎な事を、俊也はことさら大きな声で言った。


 亜樹と康平は周りを見ながら肩をすくめた。


 俊也が言った。


「やっぱ帰るわ。大学でレポートを書いた方が良さそうだしな。……それと康平に聞きたいんだが、昨日オメェが電話をよこした時俺なんか変な事言ったか?」


「……いえ、何も言ってないと思います」


「そうだよな。なぜかあの後、綾香の機嫌が悪くなったんだよ。一旦出掛けて帰ったらご機嫌だったけどな。……話は変わるが明日大学に戻るから、お前らとも暫く会えないからな。ボクシング部の奴等にも宜しく言っといてくれ」


 俊也はそう言って帰っていった。



 しばらく沈黙していた亜樹が口を開く。


「……綾香は、すっごく優しいのよ。友達の為にいつも自分を犠牲にしてしまうのよね。もし、綾香が康平と……」



 その時、綾香が二人の元へ走ってきた。


「やっぱりここにいたんだ」


「綾香どうしたの? 慌てちゃって」


「クラスで昨日の買い物を見た人がいて、チョット冷やかされたのよね。康平は大丈夫だった?」


「冷やかしはないけど、妙に祝福されたよ」


「二人共、昨日は楽しかったそうじゃない?」


「やっぱり亜樹も誤解してんのかなぁ。……康平、亜樹にバラしちゃうけどいいかな?」



「いいよバラしちゃって。……綾香も迷惑だったろうし」


「……迷惑なんかじゃないけど言っちゃうよ。昨日康平に頼まれて、二人で亜樹の誕生日プレゼントを買いに行ったんだ。本当は健太も来る予定だったんだけど、用事で来れなくなったんだよね」


「無理しなくていいって言ったのに。……でも有難う」


 恥ずかしそうにお礼をした亜樹だが、口許はほころんでいた。



「いや、どうしても図書館のお礼がしたくてさ」


「ホントにそれだけなの? 照れ隠しは損しちゃうよ!」


 突っ込みを入れる綾香に亜樹が笑った。


「綾香に突っ込まれる男の子って、康平が初めてなんじゃない?」


「康平は昨日、私にも似たような事を言われてんだよね。……それはいいけど、二人とも今日から図書館で勉強?」


「え? 勉強じゃないけど偶然よねぇ。そうでしょ康平!」


「あ、あぁそうだけど。プレゼントの話になってしまったから言うけど、今週の日曜日は此処に来れるかな? ……学校でプレゼントを渡すのは大変なんだよ」


「その日は図書館休みだよ。確か土曜日もだったわね」


「マジで?」


「だったら康平ンチの近くの図書館でもいいよ。休みかどうか調べてみてよ」



 綾香が笑って突っ込む。


「あくまで図書館なのね。……私も行っていい?」


「当然でしょ! 康平君の苦手な数学は、まだ克服出来ていないんだからビシビシいかなくっちゃね。それと綾香が来るのは大歓迎だよ」



 家に帰る途中、康平は自宅近くの図書館に行った。どうやら日曜日は開館のようである。


 早速亜樹の携帯電話に電話した。


【こっちの図書館は、日曜日もやっているから大丈夫だよ】


【じゃあ、綾香と十時に下田駅に行くけどいいかな?】


【こっちは構わないけど。……ところで今日の話って何だったのさ?】


【もう済んだからいいわ。……話は変わるけど、綾香が日曜日はジャージでもいいって言ってたよ】


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