亜樹の誕生日
次の日の午前中、康平は健太からの誘いがあって、学校の近くの図書館へ向かって歩いていた。
康平が健太に言った。
「まさか、お前から図書館へ誘うとはな」
「俺が勉学に目覚めたわけじゃねぇ……ってのは分かるよな?」
「まぁ、今週の日曜日に綾香達と映画を見に行くから、テンパらないように少し馴らしておきたい……ってとこか?」
健太は苦笑いした。
「まぁ、俺と長い付き合いだっただけの事はあるな。でも昨日の帰りに、お前から綾香の兄貴があの内海さん……て聞いた時はビックリしたな。まさかとは思ってたけどさ」
「まぁ、練習中はそんな事考えてる余裕はねぇけどな。……それと亜樹に連絡してねぇから、綾香がいるかは分かんないぞ」
「いなければいねぇで仕方ねえよ。どうせ、夏休みの宿題に手を付けなきゃならねぇんだからさ」
そうしているうちに図書館へ着いた。
二人は空いている席を探す……というよりも、勉強している二人組の女の子を探していた。
「残念だな。今日はいねぇようだぞ」
キョロキョロしている康平に、ポンと誰かが肩を叩いた。
ビクッとした康平が振り返る。
「君が探している子達は、真後ろにいるんじゃないかな?」
亜樹と綾香が笑いをこらえて立っていた。
「ヒデェな。ビックリさせんなよな」
亜樹が笑って言った。
「そんなにビックリするなんて、何かヤマシイ事でもあるのかな」
「あ、あるわけないよ。そうだよなぁ、健太」
「俺達二人の時はヤマシイ事ばっかりだけど、……今回は無いという事にしときますか?」
健太はわざと意味深な言い方をした。
亜樹は話が深みにハマらないように、さりげなく話題を変えた。
「……まぁいいわ。康平は、監視役がいないと勉強しないタイプだから、今日も一緒に勉強してあげるよ」
「私も監視してもらわないと、勉強しないタイプなんだけど……」
「綾香はいいのよ。親友だからね」
「じゃあ康平は何なのさ?」
「んー……難しい質問ね。要領が悪くてほっとけない人って感じかしら」
「それは言えてる! ホントぶきっちょだからさ」
「チョット二人共ヒドいんじゃない?」
そう言った綾香に、康平は諦めた表情で言った。
「いいんだよ! 二人には毒舌以上に世話んなってっから」
健太は、康平をネタにすると綾香の前でも自然体でいられるようである。
九十分程勉強したであろうか。誰が言い出したわけでもないが、四人はロビーへ休憩に行く。
健太が両腕を上に伸ばす。
「久々勉強したって感じだな」
「健太君は宿題全然やってなかったの?」綾香が言った。
「同い年なんだから、呼び捨てでいいからさ。……今までだったら、夏休み終わり間際まで一緒に宿題をしないでいてくれる友達がいたんだけどね」
健太は康平をチラっと見ながら言った。
康平が言い返す。
「悪かったな裏切り者でよ。でもいいもんだぜ。夏休み前半で宿題が殆ど終わってっとな」
「康平! 自分の力で宿題をやってたような、誤解を招く言動は控えた方がよろしくてよ」
「そうそう、亜樹がいなかったら数学の課題はまだ白紙だったぜきっと」
「お前ら俺を攻撃する時だけ、妙に連携とれてんだよな。……まぁ、宿題がここまで進んだのは亜樹のお蔭なんだけどね」
康平は照れ臭いのか、右の頬をポリポリ掻いていた。
健太が突然話題を変える。
「そういえば康平は、亜樹にお礼がしたいからって、誕生日を知りたがってたけど……」
「えっ?」
そんな事を言った覚えのない康平は、健太の方を振り向く。
「亜樹の誕生日は九月九日だよ」
「ちょっと綾香……」
亜樹は綾香の袖を軽く引っ張った。
健太が偉そうにして話す。
「まぁ、プレゼントするかどうかは康平の問題だしさぁ、亜樹はもらったら素直に喜べばいいんじゃねぇの? ……あ、でも康平は女の子にプレゼントなんて初めてだから、あんまり期待しない方がいいと思うけど」
「健太はプレゼントしたことあるの?」
綾香に訊かれて健太が答えた。だが声は小さくなっていた。
「ん? ……まぁ俺の事はまず置いといてだな」
「オメェだってないくせにさ、自分の事は棚に上げまくってるよ全く」
呆れ顔で話す康平に亜樹が言った。
「康平は、部活と勉強漬けで貧乏人なんだから財布と相談して。……それと君にセンスは無いんだから、プレゼントに自信がなかったら、無理して買わなくていいんだからね」
健太が笑いながら話す。今度は声が大きい。
「自分が貰うプレゼントでアドバイスする人って、なかなかいねぇよなぁ」
「そうね。それにケナしながら励ます人も珍しいわね」
綾香も笑って言った。
「健太は宿題進んでないんだから早く机に戻ろうぜ」
「そうよ。綾香は今日部活が休みだけど、君達はこれから部活なんだから勉強のペースを上げるからね!」
康平と亜樹は二人に言い返していた。