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不良騎士学生と空気令嬢

青空に想いを馳せる~不良騎士学生と空気令嬢~

作者: 桃兎
掲載日:2026/04/06

「不良騎士学生と空気と言われた令嬢」と「これからの日常〜空気令嬢と不良騎士学生の新たな日々〜」の続きです

セイスティオの家族は少々特殊だ。伯爵家ではあるがそれ以上の貴族より権力がある。

父は近衛騎士団長で、叔父は宰相補佐。宰相はお飾りなので実質の宰相は叔父である。

父は全ての騎士のトップであり、その力は近隣各国にも名が轟いているほどである。

領地経営は祖父がまだ現役だが、それは王家が父を離さないからである。

母は母で特殊で、王家の血が流れている。それだけではなく、内政の手腕だけでいえば女王の器である。

ただ、母はおっとりした性格で提案はしても強硬は出来ない。

その為、知恵を借りるためにも国外への流出は有り得ず、国内での婚姻を勧め、ならばと王家警護で顔見知りの父の名が上がった。

候補者の中では位が低かったが、母の『団長様のお嫁さんになれるの?まぁぁ、嬉しいわ。団長様以外の人との結婚を勧められたら団長様に駆け落ちの伺いをたてようと思ってましたの。うふふ』という言葉で王命が下った。

後日、父にこれで良かったのかと問うたところ『王女の意に沿わぬ婚姻がなされたら共に亡命しましたね。王女の一方的な想い??有り得ない。王女が居るから強くなり守ろうと思ったのに。王族を守るというのは思ったより大変だったが、王女のためだ。ああ、もう婚約者殿と呼べるのか。国を滅ぼさなくて良くて助かりました。』と驚きの返答が届いた。

かくして、王命での婚約は、実は大恋愛の末の恋愛結婚になった。




セイスティオの家は変わっている。

家族団欒は国の中枢を担う者たちの集いになる。

そんな国の中枢のお偉い様が家族に複数人いるのだから、セイスティオの家での勉強は普通のものではなかった。

領地にいる時は内政お化けの母に教わり、王都に来れば実質国を動かしている叔父に教わり、宿題が終わってなければ国内最強の父が仕置きをする。


領地にいた頃はおっとりした母の高い要求に応じきれないまでも、ある程度はやっていたお陰で土台はしっかりできていたし、王都での勉強は学生レベルを超えていた。一年もすれば天才が出来上がっていた。


(この努力にはリシュエンヌへの婚約の申し込みの条件に後継教育に手を抜かない、と条件を出されたという背景がある。)


そのため学園の授業がつまらなくなった。受けなくてもテストで困らない。

なんなら手を抜いても首席。


そんな経緯があり、セイスティオは授業を真面目に受けることはなかった。

リシュエンヌとの仲が拗れたせいで少々やさぐれていたのも理由の一つだが……



そのような経緯があったために今更真面目になどという気持ちにもならない。

校舎の屋上、大きな貯水庫の裏。そこがセイスティオの定位置だった。

出入り禁止の屋上ということもあり人の出入りは少ない。その上出入口からは死角となっているここは見つかったことがない。

ごろんと寝転ぶと青空が広がっていた。


青い髪も紫の瞳も愛してやまない幼馴染の特徴なのにみんなの記憶には残りにくいらしい。

青空は彼女の髪色を思い出させる。

会いたいなと思ったら影がさした。

驚いて見上げると愛しい彼女の姿。


「リシー?なんでここに」


上半身を起こしつつ尋ねれば、彼女は横に座った。


「セイちゃんを呼びに来たんです」


きょとりと言う彼女が可愛い。

人気のない場所で好意を持たれている男相手に無防備に……と考え首を振る。

違う違う。リシュエンヌは呼びに来たと言ってた。


「なんかあったのか?」

「先生方に泣きつかれました。何故かセイちゃんとの婚約が噂になってて、婚約者の言うことなら聞いてくれるのでは?と思ったらしく。出席日数ギリギリだから授業に出てくれ。と伝えて欲しいと」

「めんどくせぇ……」


その言葉にリシュエンヌも頷いた。


「小等学園の頃に教わったことばかりですもんね」

「だろ?おふくろが無駄に教えてただけだろうけどさ」

「おばさまの評判は私達知らなかったですもんね」



内政の天才。その言葉の通り彼女は知識が優れているだけではなく、頭の回転も早く、応用力もずば抜けている。彼女の政策が失敗したことはない。

そんな才女がうっかり育ててしまったのが実の息子と親友の娘である。


「今更学園程度の授業っつってもなぁ」

「でも、ちゃんとしなきゃですよ。学生ですし、貴族ですから。私の方は名ばかりの貴族ですけど」

「……おじさんは相変わらず?」

「はい。元平民ですから」


リシュエンヌの両親は平民でありながら貴族位に取り立てられるほどの優秀な人材だった。

しかし、どちらも元平民。領地を授けても経営が出来ない。それゆえ領地を持たない貴族となった。

騎士たちが苦しめられていた書類仕事を一手に担い、騎士達から羨望の眼差しを受けた地味ながらも優秀な父は騎士団のトップであるセイスティオの父とは友と呼べる間柄にある。

また王女の侍女ながら戦闘技術の秀でている上、平民とは思えないほど上品であるにもかかわらず、影の薄い事で婚期を逃していた母はセイスティオの母である王女の護衛件姉的存在で身分差があれど親友となった。


そんなふたりが出会ったのは王女と近衛騎士団長が逢瀬を重ねていたからである。


地味ながら優秀な男と影は薄いが凛とした上品な女。身分も釣り合っており、惹かれあった。そのふたりが子が出来たことでどこか田舎に移り住もうとしたところ、騎士団を回すため父が国から求められた。報酬として王都でのタウンハウスと貴族の位、そして報酬が提示された。断れるはずもなく名ばかりの貴族となった。

反発はあったが母の行動でその反発はすぐに収まることになった。

元王女に誘われ一緒に領地に引っ込んだ母は元王女の護衛も自主的に務めている。と見られた。

元王女は時折王宮に助言をする。それはもう的確な。

その身を守るという大役を無償で行っているからだ。



そんな両親の地味な所と影が薄いところが遺伝したのがリシュエンヌだ。

幸いなことにリシュエンヌは目立たない。

優秀であると誰の目にも止まらない。

それゆえに父は才能を隠すよう言っている。

『うっかり出来ると見せたらパパみたいに馬車馬の如く働かされる』

と言うのが口癖である。ちなみにパパと呼んだことはない。


貴族の義務?知ったことあるか。無理に押し付けられて愛する嫁と可愛い娘との時間を削られている。

そのスタンスではあるがなまじ優秀なため自分が居なくなったらどうなるかもわかっている。

後継を育成しつつ涙ながらに働いているらしい。





閑話休題




「で、授業って、全部?」

「おそらく、そうでしょうね。やっぱり面倒ですか?」


その言葉に顔を大いにしかめる


「出る意味あるか?めんどくせぇのはそうだろ?」

「私は出てますよ?」


そう言われては断りにくい。なんせ『わざと平均点を取っている』が幼馴染は自分と同じで学園のテストなど満点が取れるだろうから……


「……やる気でねぇ」

「ふむぅ、セイちゃん」

「ん?」

「…………」


耳元で囁かれた言葉に目を見開いた。

え、幻聴?

そんな風に幼馴染を見るが頬を紅に染めるのを見てしまっては幻聴ではないとはっきり分かる。


「それでもやる気でませんか?」


遅れて自分も赤面したと気がつく。


「んなわけ……つか、いいの?」

「二言はありません」


そう言い切るリシュエンヌは昔からそういう所がある。思い切りがいいと言うかなんというか……


「あー、そのな、リシー」

「はい?」

「褒美じゃなくてさ、俺からするぶんは、その……」


言いにくくて言葉が続かない。


「そうですね、別にいいですよ。でも、せめて雰囲気は大切にしたいです」


そう告げた後に普段の無表情を辞めるのだからタチが悪い。

ふわりと笑みが浮かび紅潮した頬。

可愛すぎる彼女に撃沈する。


「……ずりぃよな。リシーは」

「酷い言われようですね。傷つきました」

「え!?」

「嘘です」


その言葉の後にはにかむのだからやっぱりずるい。

立ち上がり教室へと向かう。


「っくそ、どうせ俺は勝てねぇんだよ」

「セイちゃんが頑張ってくれて嬉しいです」


相変わらず面倒だと思う。無駄とさえ思ってしまう。

それでも褒美があるのなら頑張る。



『ご褒美欲しくないですか?そうですね、例えば私からの口付けではご褒美になりませんか?』


その言葉に屈してしまった。



いや、可愛い婚約者のこんな褒美に屈しないのは無理だろ??

けど、せめて初めては自分から。など考えていると教室についてしまった。

では、とあっさり自分の教室に戻るリシュエンヌを引き止めたい欲求が湧き出るがそこは我慢して自分の教室に入る。

くわぁと欠伸をして窓際の席に座って窓の外を見た。

いい天気で、リシュエンヌのようだ。

そんな授業に関係ないことを思いながら青空に想いを馳せる。

セイスティオがハイスペの理由は英才教育の賜物です

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