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億万長者が隠された愛を知るとき  作者: Lucy M. Eden


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02

古書店の外は、すでにガブリエルの支配下にあった。雨に濡れたアスファルトの上には、威圧的な黒塗りのセダンが数台並び、非の打ち所のないスーツを着た男たちが、エレーナのささやかな生活を無慈悲に段ボールへと詰め込んでいく。


「待って、グレイスに挨拶も……!」


「不要だ。彼女には十分すぎるほどの補償を済ませてある。今すぐ乗れ」


ガブリエルの声には、他者の介入を許さない絶対的な権力があった。彼はエレーナの腕を掴むと、テオをもう片方の腕で抱き上げ、車へと押し込んだ。


マンハッタンの雑踏を抜け、テターボロ空港の専用ターミナルへ。そこには、サン・ローラン一族の紋章が刻まれた白銀のプライベートジェットが、獲物を待つ怪鳥のように翼を休めていた。


「わあ……大きな飛行機」


エレーナの膝の上で、テオが静かに、しかし鋭い観察眼を込めて呟いた。普通の5歳児なら泣き叫んでもおかしくない状況だ。しかしテオは、母の震える手を小さな手で握り返し、状況を静かに見守っている。その賢明さは、エレーナがどれほどこの子に真摯に向き合い、愛情を注いで育ててきたかの証でもあった。


機内に入ると、そこは古書店の埃っぽさとは対極にある、豪華絢爛な別世界だった。磨き上げられたマホガニーのテーブル、最高級の柔らかいクリーム色のレザーシート、そしてかすかに漂うシャンパンの芳香。


「……テオ。このおじさんは、ママの知り合いなの。怖いことはないわ、大丈夫よ」


エレーナが震える声で言い聞かせると、テオはガブリエルをじっと見つめ、丁寧にお辞儀をした。


「こんにちは。僕はテオ。ママをいじめないでくれるなら、僕はお行儀よくしています」


その賢明で気高い挨拶に、ガブリエルはわずかに息を呑んだ。自分の血を引く子が、これほどまでに気品に溢れ、母親を思いやる少年に育っている。それは彼にとって衝撃であり、同時にエレーナへの怒りを一層燃え上がらせる薪となった。


(この5年間、俺はこの子の成長を一度も見ることができなかった。すべてはこの女の嘘のせいだ……!)


「座れ」


ガブリエルはテオに専属の客室乗務員を付け、別のコンパートメントへと促すと、エレーナをキャビンの奥へと連れて行った。防音のドアが閉まり、閉ざされた空間に二人きりになる。


ジェット機が滑走路を走り出し、離陸の重力が二人の身体を押し付けた。ガブリエルはエレーナをシートに押し込むようにして、その上に覆いかぶさった。彼の目には、抑えきれない怒りと、隠しようのない渇望が混ざり合い、迸っている。


「5年だ、エレーナ。5年もの間、君は俺の息子を隠し、俺から家族を奪った」


「私は……!あなたの母親に、あなたは私を疎ましく思っている、お金で解決したがっていると言われたのよ!」


「そんな子供騙しの嘘を信じたというのか!?」


ガブリエルは咆哮した。彼のエネルギーは、もはや制御不能なほどに溢れ出している。


「俺が君をどれほど……どれほど愛していたか、知っていたはずだ!なのに君は、一通の手紙も残さず、俺の愛をゴミのように捨てて消えた!」


彼はエレーナの両手首を掴み、頭上のクッションに固定した。彼の激しい呼吸が、エレーナの肌に熱くかかる。怒っている。彼は狂おしいほどに彼女を憎んでいる。しかし、その瞳の奥にあるのは、5年間の空白を埋めようとする、飢えた獣のような情熱だった。


「ガブリエル、離して……」


「拒否権などないと言ったはずだ。君とテオは、今この瞬間から俺の所有物だ。地中海の島に着けば、逃げ場はないと思え」


「あなたはテオを奪うつもりなの?そんなの……残酷すぎるわ」


エレーナの瞳から、一粒の涙が零れ落ちた。それを見た瞬間、ガブリエルの表情に苦悶の色が走る。彼は彼女を壊したいほど憎んでいる。だが、同時に、今すぐその唇を奪い、自分のものだと世界に叫びたい衝動に駆られていた。


愛していたからこそ、許せない。


失った時間が長すぎたからこそ、優しく接する方法を忘れてしまった。


ガブリエルは彼女の涙を親指で乱暴に拭うと、耳元で低く、熱い吐息と共に囁いた。


「テオは俺が育てる。完璧な教育を施し、サン・ローランの正当な後継者にする。そして君もだ、エレーナ。君には、俺を裏切った罪を、一生かけて俺のそばで償ってもらう」


窓の外では、マンハッタンの宝石のような夜景が遠ざかり、一面の闇と雲海が広がっていた。シンデレラを乗せたカボチャの馬車は、今、逃げ場のない空の上で、嵐のような情熱に揺れていた。

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