表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双  作者: 四郎
第二章:Project Re:Try始動 ― 世界を“腹一杯”に

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

90/134

第90話 努力の設計図

8月26日。

TRY-LOG実験、二週間テスト――終了。


夏の終わりを告げる風が、カーテンをゆっくり揺らす。

机の上には、10冊のノートが積み上げられていた。

どれも、子どもたちの文字でびっしりと埋まっている。


“疲れた”“今日は休む日”“でも楽しかった”――

その一行一行が、まるで“心のログ”だった。


「……すげぇな」

佐藤が一冊を手に取り、ページをめくる。

「最初は半分続けば上出来って思ってたけど……まさか全員、二週間完走するとはな」


「“完璧”じゃないのが、むしろいい」

相川が淡々とページをめくりながら言った。

「白紙がない。それだけで価値がある」


俺は静かに頷いた。

(……これが、人の努力の形か)


ペンの色も、字の癖も、シールの貼り方も十人十色。

“誰かに見せるため”じゃなく、“自分に残すため”の記録。

そこには、SNSの“いいね”よりもずっと強い“生の手ざわり”があった。


「Phase.01完了だな」

相川がノートを閉じて言う。

「次は、“動く形にする”番だ」


俺は深くうなずいた。

「Phase.02――アプリの試作に入ります」



夕方。

相川の部屋。

パソコンの冷たい光が、薄暗い室内を照らしている。

机の上には、コードの羅列が映ったディスプレイと、回収したTRY-LOGノートの山。


相川は無言でキーボードを叩き続けていた。

その指先が動くたび、画面の中の文字が形を変えていく。

エアコンの風と、カタカタという打鍵音だけが部屋を満たしていた。


その隣で、俺と佐藤はノートをスキャンし、データ化していく。

紙が通るたび、スキャナのライトが淡く走った。


佐藤がふとノートをめくって笑う。

「“もうやめたい”のあとに“でもちょっと頑張る”って書いてる子、いたな。

この一行だけでTRY-LOGの意味ある気がする」


「“努力を続ける”んじゃなく、“戻ってこれる”のが大事なんだ」

俺はスキャナに一冊を差し込みながら言った。

「止まるのも、努力のうちだよ」


「……いい言葉だな」

相川が手を止め、画面から目を離さずに小さく笑った。

「よし、データ入力完了。試作版に入るぞ」


その声に、佐藤と俺は顔を見合わせた。

小さな部屋の中で、モニターの光だけが静かに瞬いていた。



夜。

テーブルの上にはノート、PC、電卓、そしてコーヒー。

三人の前には、試作アプリ「TRY-LOG」の設計メモが広がっていた。


相川がノートを開き、ざっと計算を始める。

ディスプレイの光が、青白く顔を照らしていた。


「UI/UXで60万、バックエンドで150万、テストと保守で40万。

フロントエンドとクラウドは今回は削る。

スマホの中だけで動かす“仮想アプリ”として動作確認する。

本番環境は、正式リリースまで持ち越しだ。

最低限の試作――MVP構成なら80万でいける」


「……ちょっと待って。つまり?」

佐藤が顔をしかめる。


相川はため息をつきながら、紙に簡単な図を書いた。

「つまり、“見た目を作る”のに60万。

“中身を動かすエンジン”に150万。

ちゃんと動くかテストするのに40万。――全部合わせると本来は250万。

でも、“動くだけの原型”に絞れば80万でいけるってことだ。

フロントエンド(アプリ画面)とクラウド(サーバー環境)は、

“リリース版”になってからで十分だ」


俺はその数字を見つめながら、心の中で整理した。


(UI/UX――つまり“見た目と使いやすさ”。

バックエンド――アプリの“頭脳と心臓”。

テストと保守――“壊れないようにする点検”。

……最低限でも、それだけの金がかかるってことか)


相川が淡々と続ける。

「これでも相当削ってる。

デザインは既存のひな型を使う。

サーバーも無料のプランで済ませる。

俺の作業分は“タダ”扱い。――それで、やっと80万だ」


「80万!?」

佐藤がスプーンを落としかけた。

「それ、バイト何ヶ月分だよ……!」


相川が肩をすくめる。

「まあ、現実は甘くない。けど“夢”を現実にするなら、このラインは避けられない」


佐藤が眉をしかめたまま、俺の顔を見た。

「お前……ほんとに出す気か? てか、高校生でなんでそんな金持ってんだよ」


俺は息を吸い、笑うように答えた。

「出すよ。“TRY-LOG”は――ここからが本番だ」

その言葉を口にした瞬間、

胸の奥で、静かに“覚悟”が音を立てて形になった。


相川が腕を組み、真っ直ぐに言った。

「これだけの金を動かすなら、もう“遊び”じゃない。――会社にするか」


「会社……?」

佐藤の口から、自然と声が漏れた。


相川はパソコンを閉じ、腕を組み直す。

「個人のままだと、契約も資金集めも通らない。

本気で出すなら、“会社”として登録する必要がある」


「会社って……あの、株式会社とか合同会社の、あれ?」

佐藤が半分笑いながら言う。


「そう。法人ってのは“信頼証”みたいなもんだ。

名前があれば、取引先も安心するし、銀行口座も作れる」


俺はうなずいた。

「……つまり、“TRY-LOG”を世に出すなら、責任の形も必要ってことですね」


「そうだ」

相川が軽く頷く。

「で、代表は?」


空気が一瞬だけ張りつめた。

けれど、迷いはなかった。

「名義上は母の名前で登記します。

運営は俺。佐藤はCOO、相川先輩はCTO。これでいきます」


「……CTO?」

佐藤が首をかしげる。


「チーフ・テクノロジー・オフィサー。要するに“技術の責任者”」

俺は笑って続けた。

「俺が全体をまとめて、相川先輩が作る。お前は――動かす」


「動かす?」

「チーフ・オペレーティング・オフィサー。現場の指揮官。

学校や子どもたちとつながる部分、運用や広報をまとめる」


佐藤が苦笑した。

「おい、それけっこう重くね?」


「責任ってより、“推進力”だよ。

俺が考えて、相川先輩が作って、お前が動かす。

三人が噛み合って、ようやく“Re:Try”は回る」


相川がふっと笑った。

「……いいチームだ。歯車が噛み合ってる」


佐藤がニヤリと笑う。

「……現場責任者か。プレッシャーだけど、やるしかねぇよな。

よし、じゃあ俺、“営業部長”な! 会社の形ができたら――商工会とかにも話してみようぜ!」


「商工会?」

俺が首をかしげると、佐藤は肩をすくめた。


「地域の企業が集まってる団体。起業の相談とかもできるって。

高校生がやってるって言えば、興味持ってくれる人いるかもだろ?」


「……たしかに、それは“営業部長”っぽいな」

そう言いながら、俺は笑った。

「頼んだ」


「任せろ」

佐藤が胸を叩く。


そのやりとりを見ながら、相川が静かに言った。

「――じゃあ、“会社の名前”はどうする?」


俺はテーブルの上のメモ帳を引き寄せ、ペンを走らせた。


《株式会社Re:Try》


黒いインクが紙に沈む。

その文字を見つめながら、胸の奥がじんわり熱くなった。


「株式会社にするのか?」

相川が問う。


「はい。“信頼の看板”を立てたいんです」

俺はまっすぐ答えた。

「合同会社でも動けるけど、株式会社の方が“本気度”を伝えやすい。

もし将来クラウドファンディングをやるなら、出資者も信頼しやすいですから」


「クラファンって、ネットで支援を集めるやつだろ?」

佐藤が口を挟む。


「そう。“夢に出資してもらう”仕組み。

でもその前に、“信頼できる形”を作らないといけない」


俺はメモ帳を見つめながら続けた。

「TRY-LOGって、“誰かの挑戦”を預かるアプリです。

人の努力を扱うなら、まず俺たちが“信頼される挑戦者”じゃないといけない。

だから――俺たちは“信頼”そのものを形にするんです」


相川が少しだけ目を細める。

「……なるほど。“信頼”と“再挑戦”を、同じ形で見せるわけか。

“Re:Try”って、そういう意味か」


「はい。失敗しても、もう一度“挑戦できる”ように。

TRY-LOGを通して、誰かが“やり直せる”勇気を取り戻せるように。

そのための会社――“株式会社Re:Try”です」


静かな沈黙のあと、相川がふっと笑った。

「……いい名前だな。理念が先に立ってる」


メモ帳の「株式会社Re:Try」の文字を見つめた瞬間、

胸の奥で、何かが静かに鳴った。


(――もう一度、挑戦するための場所。それが、俺たちのRe:Tryだ)



その夜。

相川の部屋のモニターには、TRY-LOGの最初の画面が浮かんでいた。

“努力メーター”“休むボタン”。

すべてが、手書きノートの延長線上にあった。


(デザインは削っても、想いだけは削らない――)

相川は静かにキーボードを叩く。


『疲れたら、書かなくてもいい。

でも、戻ってきたら“おかえり”って言うから』


画面の隅に、ゆっくりとその文字が浮かび上がる。


――帰り際。

相川がUSBを差し出した。

「今日の設計データ、入れといた。動くのはまだ先だけどな」


「ありがとうございます」

俺はそれを受け取り、ポケットにしまう。


夜風が少し冷たくなってきていた。

街灯の下、ポケットの中のUSBが、やけに重く感じる。

(……形になるまで、まだ遠い。

でも、もう“始まってる”んだ)


家に帰ると、リビングの灯りがついていた。

母は洗い物をしていて、父はテレビを見ている。

いつも通りの夜。けれど、今夜だけは少しだけ違って見えた。


(……言わなきゃな。

“会社を作る”って)


テーブルの上のカレンダーには「9月」の文字。

TRY-LOGだけじゃなく、俺たちの生活も次のステージに進もうとしていた。



【Project Re:Try:動く形にする/第二段階レポート】


※【 】内は今回上昇分

◆日時:8月26日

◆目標:10人テスト完遂(2週間)

◆進行状況:完了(Phase.01)

◆目的

「“努力記録”を実際に“動く形”として再現する」

“見る”努力から、“触れる”努力へ。


◆メンバー構成:

・佐久間 陽斗(CEO/代表・企画)

 行動指数(筋力):33.5

 継続性(耐久力):34.0

 構想力(知力) :34.2

 共感力(魅力) :45.2

 SP:25/スキル保持数:31


・佐藤 大輝(COO/現場統括)/信頼度:78

・相川 蓮(CTO/開発・解析)/信頼度:53


◆対象者:中学生5名・小学生5名(協力者)

◆試験内容:「手書き努力ログ」による2週間の継続テスト

◆残資産:1,540,000円


◆観察結果(最終報告)

•“疲れた”のあとに“でも楽しかった”が多発

•“やった感”よりも“見てもらえた感”が継続の原動力

•“白紙ゼロ”を達成(10人中10人が2週間完走)

•新機能「休む日ログ」を設計・追加


◆次段階予定(Phase.02)

「手書きログのデジタル化」

→ TRY-LOGをベースに、AI解析を導入。

“続く言葉”の抽出と分類を開始予定。


◆備考

・株式会社Re:Try 設立準備開始(代表:佐久間陽斗/登記名義:母)

・商工会との相談ルート確立予定

・試作版MVP制作予算:80万円(自己資金内で確保)


――これは報告書でもあり、俺たちの“航海日誌”でもある。

(記録者:佐久間陽斗)

ここまで読んでくださって、本当にありがとうございます。

地味な物語ですが、“挑戦する気持ち”を信じて書いています。

次回もぜひ、読みに来ていただけたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ