第8話 夏休み、変身モード起動
終業式の校歌が鳴り終わるより早く、俺は画面を呼び出していた。
ついに夏休み。
もう、誰にも机を蹴られない。背中を突かれない。
朝から晩まで、数字と向き合える。
静かで、長い時間。努力を“結果”に変えるには、これ以上ない季節だ。
(ここで、一気に変わる!)
決意はただの気合じゃない。
資金も、地盤もある。
期末テストを経て、日給ログは積み上がり続け、財布の厚みも変わっていた。
数字が――俺を裏切らないことを、もう知っている。
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最寄り駅のファッションビル。
これまで素通りしてきたメンズフロアの前で、俺は足を止めた。
マネキンが着ているのは、淡いグレーのTシャツに黒のテーパードパンツ。
白いスニーカーが軽やかに足元を締める。
派手じゃない。けれど、妙に“洗練”を感じた。
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【クエスト発生】
・内容:新しいコーディネートで魅力を上げろ
・条件:店員の提案を取り入れて全身を揃える
・報酬:魅力+1/SP+3
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「は、初めてなんですけど……」
おそるおそる声をかけると、店員の青年は笑って頷いた。
「雰囲気を軽くしていきましょう。肩のラインにぴったり合うサイズ感が大事です」
鏡の前で袖を通す。
布が肩に吸いつくように馴染む。
太ももを拾いすぎないパンツ、裾を一回ロールアップ。
白いスニーカーが反射した光を跳ね返す。
首元には細いシルバーチェーン。
自分じゃない誰かみたいだった。
なのに、違和感よりも――心地よさが勝っていた。
「……悪くない」
「めっちゃ似合ってます。清潔感出てますよ」
その一言に、頬の奥が熱くなる。
会計を済ませて画面を開く。
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【クエスト達成】
・魅力:+1
・SP:+3
【資産ログ】
・服代:−¥12,000
=資産:¥80,400(+2000/日)
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画面の数字が動くたび、胸の奥が熱を帯びた。
“やった分だけ増える”――それが、今の俺の生き方だった。
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次は、髪だ。
伸びっぱなしの前髪、重たいサイド、広がる襟足。
鏡を見るたび、ため息が出る。
今日は違う。駅前のガラス張りの美容室に、足を踏み入れた。
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【クエスト発生】
・内容:髪型を変えて印象をアップせよ
・条件:プロの提案で骨格に合うシルエットに
・報酬:魅力+1.5/SP+2
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「今日はどうします?」
「……重いのを、どうにか」
担当のスタイリストが一瞬俺を見て、すぐに頷いた。
「サイドは浅めのツーブロック、後ろは刈り上げずタイトめに。前髪は軽く流して、トップにボリュームを残しましょう。清潔感、出ます」
シャンプー台でお湯が流れる音が心地よい。
ハサミの金属音がリズムを刻み、髪が軽くなっていく。
ブローの風が首筋を撫でるたび、眠気よりも高揚感が勝った。
最後にワックスを米粒二つ分。
指先で前髪を流すと、目がはっきり見える。
鏡に映った顔は――少し、凛としていた。
「お、いい感じ。首も長く見えますね」
「雰囲気、かなり変わりましたよ」
【クエスト達成】
・魅力:+1.5
・SP:+2
【資産ログ】
・美容室代:−¥5,000
=資産:¥75,400(+2000/日)
普段は近所の床屋で千円カット。
レシートの金額に手が震えた。
でも、その数字を上回る“実感”が、確かにあった。
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着替えた服。整えた髪。
ガラスの自動ドアに映る自分は、もう“陰の高校生”じゃなかった。
姿勢が自然に伸び、歩幅が半歩だけ広がる。
通りすぎる人の視線が少し気になって――でも、悪い気はしなかった。
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【ステータス速報】
・魅力:6.7
・SP:25.5
・資産:¥75,400(+2000/日)
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数字は、努力に正直だ。
一歩動けば、一歩伸びる。
止まらない限り、積み上がっていく。
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そして――夏の本丸。
俺は“変身”を完成させる。
服でも髪でもなく、今度は身体そのものだ。
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【クエスト発生:ダイエット第二弾】
・内容:純脂肪をさらに5kg落とせ(筋肉量維持以上)
・期間:夏休み中(残り28日)
・報酬:筋力+1/耐久+1/魅力+2/SP+8
・条件:週ラン30km/筋トレ上・下・体幹各2回以上/食事管理(PFC比率指定)
【サブクエスト(反復可)】
・ラン5km完走:耐久+0.5/SP+0.5
・自重サーキット30分:筋力+0.5/SP+0.5
・夜間間食ゼロ:魅力+0.1/SP+0.5
・食事ログ三日連続記録:知力+0.2/SP+0.5
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「……来たな」
思わず笑った。
前回よりも難しい。でも、不可能じゃない。
息を吸い込む。
熱い空気が肺を満たす。
怖さよりも、昂ぶりのほうが大きかった。
数字は俺を裏切らない。
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夜。
ランニングシューズの紐を締め、ドアを開ける。
熱を帯びたアスファルトを、リズムよく踏みしめる。
蝉の声、遠くの踏切、街灯の明滅。
汗が首筋を伝うたび、画面の進行度が0.1ずつ伸びていく。
帰宅後、自重サーキット。
腕立て、スクワット、プランク、ヒップリフト。
呼吸が乱れ、汗が床に円を描く。
アイスに手を伸ばしそうになり――画面を開く。
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【サブクエスト達成】
・朝ラン5km完走(初回):耐久+0.5/SP+0.5
・自重サーキット30分(初回):筋力+0.5/SP+0.5
・夜間間食ゼロ(初回):魅力+0.1/SP+0.5
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冷たい水を口に含み、ベッドに倒れ込む。
今日一日で何かが劇的に変わるわけじゃない。
けれど、夏休みは長い。
積み上げた数字は、確実に俺を前に運んでいく。
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※【 】内は今回上昇分
【現在のステータス】
・名前:佐久間 陽斗
・年齢:15
・身長:163.1cm(+3cm)
・体重:67.5kg
・体脂肪率:22%
・筋力:10.5【+0.5】
・耐久:11.5【+0.5】
・知力:10(+1)
・魅力:6.8【+2.6】
・資産:¥75,400(+2000/日)
・SP:27【+6.5】
・スキル:早食いLv1/資産ブースト/暗記力+10%
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鏡の中。
映るのは、もっさりした“昔の俺”じゃない。
まだ途中。まだ伸びる途中。
だけど、確かに違う。
夏は、始まったばかりだ。
この数字で――俺は、世界を塗り替える。
読んでいただき、ありがとうございます!次も頑張りますのでよろしくお願いします。




