表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双  作者: 四郎
第一章:数値が証明する“信じる力”

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

75/135

第75話 誰にも見えない、彼女だけの+1

七月二十八日。

昼過ぎの駅前、ベンチの上で小さな紙袋を握りしめていた。

中には、少し奮発して買った上質な万年筆。

――前回の“トリプルブッキング”の埋め合わせ。

同じ日に三人と約束を入れて、結果的に全部を中途半端にしてしまったあの日。

彼女は笑って許してくれた。

けれど――その笑顔の意味だけは、いまだにわからない。


「せめて、今日くらいは――ちゃんとしないとな」

小さくつぶやいた、その瞬間。

風の向こうから、柔らかな声が届いた。


「佐久間くん」


振り向いた先にいたのは、一ノ瀬凛。

白いブラウスに、淡いベージュのスカート。

見慣れたはずの彼女なのに――どこか違って見えた。


「ごめん、待った?」

「いや、今来たとこ」

「……そう? なんかちょっと緊張してる?」

「いや、してない。……たぶん」


一ノ瀬が小さく笑う。

その笑顔だけで、心臓のリズムが一拍ずれた。



駅前の通りを少し歩いたところで、彼女が立ち止まった。

「ねぇ、ちょっとこの本屋寄っていい?」


そう言って入ったのは、駅前の大型書店。

三階建てのフロアに、コーヒーの香りと紙の匂いが混ざる。

静かな空間に、彼女の声だけが心地よく響いていた。


「見てるだけで時間忘れるね」

「一ノ瀬って、参考書コーナー直行するタイプだろ」

「バレてる……。でも今日は、ちょっと違うかも」


そう言いながら、彼女は文芸コーナーに向かう。

ライトノベルの棚で立ち止まり、指で背表紙をなぞった。


「ねぇ、こういう世界って……ちょっと憧れない?」

「え?」

「努力が数字で見えたり、頑張りがちゃんと形になる世界。

……なんか、少しだけ羨ましいなって思うの」


少しドキッとした。

偶然の言葉だとわかっていても、自分の“能力”を見透かされたような気がした。

「……まあ、確かに。

頑張ったぶんが目に見えたら、そりゃ嬉しいよな」


「うん。でも――」

彼女はほんの少しだけ目を伏せた。

「……見えない努力って、誰にも伝わらないまま終わっちゃうのかなって」


その横顔を見ながら、俺は少し笑った。


「……俺さ、思うんだけど。

“見えない努力”ほど、本当は価値があるんじゃないかって」


「価値が、ある?」


「うん。数字に出なくても、ちゃんと積み重なってる。

それを――誰かが気づいたときに、初めて報われるんだと思う」


彼女は驚いたようにこちらを見て、

ふっと息を漏らした。


「……ずるい。そういうこと言うの」

「ずるい?」

「うん。信じたくなっちゃう、そういうの」


言葉の余韻が残る。

ほんのり赤く染まった頬を見て、俺は思わず視線を逸らした。



一通り店を見て回り、雑貨フロアへ。

ガラスケースの中に並ぶペンの光が、やけに印象的だった。

(……ちょうどいいな)

俺はタイミングを見計らい、そっと紙袋を差し出した。


「これ、ちょっとしたお詫び」

「え?」

「この前、予定ぐちゃぐちゃにしただろ。悪かった」

「そんなの、もう気にしてないよ」

「俺が気にしてんだよ」


一瞬、空気が静かになった。

それから、一ノ瀬の口元がわずかにゆるんだ。


「……開けてもいい?」

「ああ」


彼女が紙袋をそっと開け、中を覗いた瞬間――目を丸くした。


「……これ、万年筆?」

「うん。勉強のときに使えたらと思って」

「……ありがとう。でも、これ……さっき私も見てたやつだ」

「え、ほんとに?」

「うん。さっき雑貨フロアで“きれいだな”って思って、どの色にしようか悩んでた。……結局戻したんだけど」

「……偶然だな」

「そうだね。なんか、ちょっと不思議」


ふたりの視線が重なった。

その一瞬が、やけに長く感じた。

言葉よりも先に、胸の奥が温かくなる。



夕暮れの風が、熱をやわらげていく。

駅へ向かう道。沈む陽が、二人の影をゆっくりと伸ばしていく。


「……佐久間くん」

「ん?」

「私ね、昔から“認められたい”って気持ちが強かったの。

でも、今日少しだけ変わったかも」


「変わった?」

「うん。認めてもらうことより――

“隣で一緒に頑張りたい人”がいる方が、ずっと嬉しいんだって気づいた」


「それ、誰のこと?」

「……秘密」


そう言って笑ったあと、彼女は少し歩を止めた。

鞄の中を探るようにして、包みを取り出す。


「……あ、そうだ。これ、渡しそびれてた」

「え?」

「佐久間くん、この前、誕生日だったでしょ?

本当はその日に渡したかったんだけど……ごちゃごちゃしてて」


手渡された小さな箱を開けると、

中には、濃紺のブックカバーが入っていた。

上質な革の手触り。落ち着いたデザイン。


「読書、好きって言ってたから。……似合うと思って」

「……ありがとう。一ノ瀬らしいな」

「え、なにそれ」

「真面目で、優しくて、丁寧で……そういうところ」

「……そんな言い方されたら、ちょっと照れる」


笑い合う声が、夏の夕暮れに静かに溶けていった。

ふと、一ノ瀬の笑顔がわずかに揺らいだ気がする。

その瞬間、彼女の胸の奥が少しだけ痛んだ。


(……あぁ、私、ほんとにこの人のこと――)

けれど、その続きは、喉の奥で止まったままだった。



その夜。

机の上には、万年筆と、渡したブックカバーの空箱。

スマホの光を見つめながら、彼女は何度もメッセージを打っては消した。


『今日は楽しかった。ありがとう』

『……また、どこか行こう』


最後の一文を打つ指先が、わずかに震える。

送信ボタンの上で止まったまま、胸がきゅっと締めつけられた。


(どうして、こんなに……)

(“好き”って言葉だけ、どうしてこんなに重いんだろう)


彼女はスマホを閉じ、

代わりに万年筆をそっと手に取った。


『今日、私は気づいた。

頑張る理由が、少しだけ変わった気がする。

これからは――あの人の隣で、頑張りたい。』


書き終えた文字を見つめる。

インクが静かに滲んで、やがて乾いていった。



【クエスト達成】

タイトル:「本に刻む想い」

内容:想いを“形”に残せ

報酬:SP+5/知力+1/好感度+10( 一ノ瀬凛 )



※【 】内は今回上昇分

【現在のステータス(七月下旬・一ノ瀬デート後)】

・名前:佐久間 陽斗

・年齢:17

・身長:180.8cm

・体重:63.0kg/体脂肪率:9.0%

・筋力:29.0

・耐久:30.0

・知力:32.2【+1】

・魅力:43.2

・資産(現金):1,375,000円

・投資中:60,000円(評価額:160,000円/利益:+100,000円)

・総資産:1,535,000円

・SP:44【+5】

・スキル:25(展開可能)

・称号:注目の存在/ヒーロー/聖夜を共に/女子人気独占

・会社メンバー機能:解放済

 - 佐藤大輝(実務担当【COO】/信頼度60/加入済)

 - 相川蓮(技術担当/解放)

・特別イベント:

 水城遥(好感度89/恋愛条件未達)

 一ノ瀬凛(好感度89/恋愛条件未達)【+10】

 星野瑠奈(好感度89/恋愛条件未達)



翌朝、彼女のノートには、

小さく一文が増えていた。


『今日の自分に、少しだけ+1』


もちろん、そんな数値が本当にあるわけじゃない。

けれど――そう書いた瞬間、

彼女の胸の奥で、何かが確かに変わった。


誰にも見えない、彼女だけの“+1”。

読んでくださってありがとうございます!少し静かな回でしたが、楽しんでいただけたでしょうか。また次回もよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ