第73話 スキルより強い“信頼”を手に入れた
店を出ると、胃の中がまだ熱かった。
夕方の風が頬を撫でるたび、ラーメンの湯気の残り香がふっと抜けていく。
「はぁ……マジで地獄だった……!」
佐藤が腹を押さえて呻いた。
「麺の量、特盛どころか“特盛の上”だろ。詐欺ラーメンだわ」
「でも、お前ほぼ完食してたじゃん」
「途中で味がわかんなくなったんだよ。ラーメンがスープに溶けてた」
俺は笑いながら、ポケットに入れた封筒を取り出す。
「それでも、結果はこれ。賞金1万円。やったな」
「いや……お前が勝ったおかげだろ。俺は途中でギブだし」
「……昔から早食いには自信あるからな」
(“早食いスキル”のおかげとは――さすがに言えない)
佐藤が笑いながらペットボトルの水をあおる。
「ははっ、お前のスピード、人間じゃなかったけどな!」
一息ついて、佐藤が続けた。
「……でも、あの三年の相川先輩。あの人には負けるな」
「うん。あんな余裕の食い方、初めて見た」
―
信号待ちで風が吹く。
カップルの笑い声、焼き鳥屋の香ばしい匂い。
夏休みの夕暮れは、どこか現実感がぼやけて見えた。
「なあ、佐久間」
佐藤が自販機にコインを入れる。
硬貨の落ちる音が、風の中でやけに響いた。
「さっきまでラーメンのことで頭いっぱいで、話すの忘れてたけどさ……」
缶コーヒーを取り出し、軽く振りながら続ける。
「お前、この前“また一緒に何かやろう”って言ってただろ? あれ、どういう意味だったんだ?」
「……うん」
俺は缶コーヒーを受け取り、向かいの公園を指さした。
「腹休めに、少し話すか」
ベンチの影が、夕陽にゆっくり伸びていた。
―
公園のベンチ。
日中の喧騒が嘘みたいに静まり返っていた。
缶を開けると、シュッと小さな音がして、それだけが空気に響いた。
「で?」
佐藤が口をつけながら、じっと俺を見る。
「“何かやろう”って、何だ?」
「……会社を作ろうと思ってる」
「……は?」
佐藤が飲みかけの缶を止め、あからさまに噴き出した。
「いきなり何言ってんだよ。頭おかしくなったか?」
「違う。マジだ」
俺はまっすぐ前を向いた。
照り返す空の赤が、視界の端でゆっくりと滲んでいた。
「俺がやりたいのは、“努力を見える化するシステム”だ。
どんなに小さな努力でも、それをちゃんと評価して、記録できる。
“結果”だけじゃなく、“過程”にも価値をつけるんだ」
佐藤は缶を手の中で転がしながら、黙って聞いていた。
風で木の葉が揺れ、カラン、と空き缶がベンチの下で転がる。
「人間ってさ、途中で誰かに笑われると、すぐ諦める。
でも――数字で見えたら違う。
“今日より明日”って目に見えれば、きっと続けられる」
一度言葉を切って、息を整える。
「それを“システム”で形にする。
誰かの“頑張り”を可視化して、努力の価値を証明するんだ。
“頑張ったのに報われない”――そんな言葉がなくなる社会を作りたい。
そのための第一歩が……会社を作ることだ」
「……お前らしいな」
佐藤は、空を見上げた。
ビルのガラスが淡く光って、ふたりの影が少し重なった。
「俺、最初は正直、お前のこと見下してた。努力しても報われねぇやつだと思ってた。
でも今は――違う。マジでお前のこと、尊敬してる。……ほんと、変わったよ」
「だったら、一緒にやろう。
俺が社長で、お前は実務担当――COOだ」
「……は?」
「リーダーシップがあって、現場を動かせるやつが必要なんだ。
それに……俺、お前とならやれる気がする」
佐藤が息を呑む。
しばらく目を伏せ、手の中の缶を軽く回す。
金属の小さな音が、沈黙の中に響いた。
「……ったく、お前ってやつは」
そう言って、ようやく笑った。
笑ったあと、ふっと視線を落とす。
缶を指でくるくる回しながら、少し照れくさそうに言う。
「俺、去年までお前をいじめてたんだぞ」
「もう昔の話だろ」
「いや、でもさ」
佐藤は苦笑しながら視線を落とす。
「あの頃のお前なら、絶対こうは言わなかったと思う。
“仲間になろう”なんて言われる日が来るなんてさ」
短い沈黙。
蝉の声が、遠くでひときわ大きく鳴いた。
「――わかった。乗るよ」
佐藤が缶を掲げた。
「……よろしくな、佐藤。
これから一緒に、夢を形にしていこう」
俺も缶をぶつける。
柔らかな金色の光が、二人の缶を照らした。
カン、と澄んだ音がして、風がゆるく通り抜けた。
(……これが、俺たちの“始まり”だ)
―
【クエスト達成】
タイトル:初めての仲間
内容:佐藤大輝を“信頼”で仲間に迎え入れろ
報酬:筋力+2/SP+2/新機能【会社メンバー】解放
【システム更新】
新機能【会社メンバー】が解放されました。
メンバーの役職と信頼度がステータスに表示されます。
【加入情報】
佐藤大輝(実務担当【COO】/信頼度:60/加入済)
―
(……信頼か。スキルや数字よりも、ずっと確かな力だ)
西日に照らされた公園の街灯が、まだ明かりを灯さずに立っている。
蝉の声が少しだけ弱まり、
涼しい風が――二人の間をすり抜けていった。
“数字で見える努力”から、“信頼で繋がる未来”へ。
俺たちの挑戦は、ここから始まった。
―
※【 】内は今回上昇分
【現在のステータス(七月二十三日・佐藤加入後)】
・名前:佐久間 陽斗
・年齢:17
・身長:180.8cm
・体重:64.0kg/体脂肪率:9.0%
・筋力:29.0【+2】
・耐久:30.0
・知力:31.2
・魅力:43.2
・資産(現金):1,377,000円
・投資中:60,000円(評価額:160,000円/利益:+100,000円)
・総資産:1,537,000円
・SP:39【+2】
・スキル:25(展開可能)
・称号:注目の存在/ヒーロー/聖夜を共に/女子人気独占
・会社メンバー機能:解放済
佐藤大輝(実務担当【COO】/信頼度60/加入済)
相川蓮(技術担当【CTO】/解放)
・特別イベント:
水城遥(好感度89/恋愛条件未達)
一ノ瀬凛(好感度76/好意)
星野瑠奈(好感度89/恋愛条件未達)
最後まで読んでくださってありがとうございます!今回は佐藤との絆が一歩深まる回でした。スキルより強い信頼、ここから彼らの挑戦が本格的に始まります。次回もぜひ読んでいただけたら嬉しいです!




