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第60話 調子に乗ってる? いや、努力を知る者はここにいる

六月下旬。梅雨空の下、期末テスト週間が始まった。

一週間にわたって、毎日二科目ずつ。

白峰高校の廊下は、いつものざわつきが嘘みたいに静まり返り、ノートを抱えた生徒たちがため息を漏らし、ペンを走らせる音だけが響いている。


俺もその一人。机に座り、深呼吸して答案用紙に向かう。

中学の頃は名前だけ書いて白紙で出すなんてこともあった。けど今は違う。

――努力してきた自分を証明する場所だ。負けられない。



――初日 現代文・数学Ⅰ


評論文の設問に目を通す。

「インターネットで“知る”ことは簡単になったが、“理解する”ことはむしろ難しくなっている。」

(……わかる気がする。情報ばっか増えて、頭が整理つかなくなるんだよな)

鉛筆の先が、静かに動き出した。

数学Ⅰの二次関数も、昔なら手こずっていた。けど集中力強化と暗記力+30%が支えてくれる。公式も自然と浮かんでくる。



試験が終わり、教室を出た瞬間、声が飛んだ。

「――悪くなさそうな顔してる」

振り返ると一ノ瀬が立っていた。

「そっちこそ」

それだけ。互いに言葉は少なくても、目が合っただけで火花が散る。



――二日目 古文・英語コミュニケーション


助動詞の識別。『けり』って、過去か感動かで意味が変わる。昔なら絶対に落としていた問題だ。でも今は自然に答えが浮かぶ。

午後の英語長文は難しかった。

「……っ」額に汗がにじむ。けど単語が次々浮かんできて、手は止まらない。最後のページを埋めた瞬間、心の底で小さくガッツポーズをした。



その帰り道。校門脇の植え込みに集まった数人の男子がひそひそ声を上げていた。


「佐久間って最近調子乗ってね?」

「一年の頃チビでデブだったんだろ」

「外見変わっただけのガリ勉だろ」

「三橋返り討ちにしたとか聞いたけど、噂だろ?」

「今度シメようぜ」


喉がひゅっと狭くなる。けれど俺は足を止めず、聞かなかったことにして歩き去ろうとした――そのとき。


「お前ら……何言ってんだ」


声の主に目を見張った。佐藤だった。

一年の最初、俺をいじめて、夏に殴り合い、球技大会で和解し、仲間として戦った――あの佐藤。


彼は一人の胸ぐらを掴み、睨みつける。

「何も知らねぇくせに! あいつがどれだけ努力してたか、俺は見たんだよ!

夏休み、歯を食いしばって汗だくで走ってた。

図書館でも、眠そうな目をこすりながら、必死に勉強してたんだ!」


一拍の沈黙

「……俺、笑ってたんだ。あのとき」

掴んだ手が、わずかに震える。

「バカにしてた。でも、今になってわかる。あいつ、本気だったんだよ」


声が次第に熱を帯びていく。

「俺だって昔はいじめてた。最低だった。……でもな、佐久間は許してくれたんだ」

「――あいつは、そういう奴なんだよ! お前らに、あいつを馬鹿にする資格なんかねぇ!」


「……」

「もし手ぇ出したら、俺がお前らをぶっ飛ばす!」


その場は静まり返る。佐藤は肩で息をしながら手を離し、背を向けて歩き去った。


俺はその場に姿を見せなかった。ただ、遠くから全部を聞いていた。胸の奥が熱くなる。

(……佐藤。ありがとな)

言葉にはせず、心の中でだけ呟いた。



――三日目 数学A・化学基礎


数学Aは「場合の数と確率」。樹形図と組み合わせの公式が頭の中で自然に浮かぶ。手を止めずに解き進め、残り時間を確認。

化学基礎の酸化還元は少し詰まったが、最後まで答案を埋めきった。



帰宅すると妹の美咲が顔をのぞかせた。

「お兄ちゃん、おかえり! テストどうだった?」

「まあ、頑張ってる。目標は5位以内だからな」

「へぇ〜、中学の頃から考えたらすごいよね」

「おい、それ言うな」

「だってほんとのことじゃん」


笑う妹に頭をかく。

「……お兄ちゃん、ほんとにかっこよくなったよ」

「は?」

「えへへ、頑張ってるの知ってるから」


少し照れた声に、思わず目をそらした。



―四日目 日本史A・英語表現


江戸の改革。年号も人物も、迷う前に頭の中でつながっていく。暗記力+30%のスキルが、まるで教科書をめくるように記憶を呼び起こす。

午後の英語表現は自由英作文。テーマは「努力は裏切らない」。ペンを走らせながら、自然と“今の自分”のことを書いていた。



下校途中、スマホが震えた。遥からだ。


【遥】

陽斗くん、テストどう?

【陽斗】

まあまあだな。遥こそ大丈夫か?

【遥】

うん。……学年違うけど、陽斗くんには負けられない笑


返事を打つ指が止まる。

(……一ノ瀬以外にもライバルができたな)

思わず口元が緩む。



―五日目 物理基礎・地理A


物理基礎の計算問題。数字を追うたびに、頭の中で式が自然につながっていく。

最後の地理Aを解き終えた瞬間、鉛筆を置いた。

全身が重い。けれど、最後まで走り切った。



視界にウィンドウが浮かぶ。


【クエスト達成】

・内容:期末テストをやり切る

・報酬:SP+5/知力+1


「……終わった」

椅子に突っ伏し、しばらく動けなかった。



夜。

「お疲れさま!」

母がテーブルに唐揚げを並べ、妹が両手を叩いた。

「期末終わりパーティーだよ!」

「期末終わりパーティーとかあるのか? ……ありがとな」


唐揚げを口に運びながら、ふと思う。

一年前の俺は、「お疲れ」なんて言葉をかけられる側じゃなかった。

家族にさえ、ただの邪魔者みたいに扱われていた。

でも――あれはきっと、自分から壁を作ってたせいだ。


今は違う。

努力をちゃんと見てくれる人がいる。支えてくれる人がいる。

(……もっと先へ行く。俺は、ここで終わらない)



※【 】内は今回上昇分

【現在のステータス(六月下旬・期末終了後)】

・名前:佐久間 陽斗

・年齢:16

・身長:180.8cm

・体重:63.0kg/体脂肪率:9.0%

・筋力:27.0

・耐久:27.0

・知力:31.2【+1】

・魅力:40.2

・資産(現金):292,000円

・投資中:60,000円(評価額:160,000円/利益:+100,000円)

・総資産:452,000円

・SP:16【+5】

・スキル:21(展開可能)

・称号:注目の存在/ヒーロー/聖夜を共に/女子人気独占

・特別イベント:

 水城遥(進行中/好感度:89/恋愛条件未達)

 一ノ瀬凛(進行中/好感度:73/好意)

 星野瑠奈(進行中/好感度:70/好意)

読んでいただきありがとうございます。ここまで読んでくださった方、本当に感謝です。少しでも「続きが気になる」と思ってもらえたら嬉しいです。次回もぜひ読みに来てください。

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