第58話 図書室で二人きり、ライバルが近すぎて心臓がもたない
六月十二日。
遥の誕生日から一週間。
あの夜、公園で渡した手作りのハンカチとケーキ。
涙ぐみながら笑ってくれた顔が、今でも鮮やかに浮かんでくる。
（……誰かのために全力で何かをしたのなんて、初めてだったな）
感傷に浸ってばかりもいられない。
もうすぐ期末テスト。一年の学年末テストで5位だった俺は、絶対に順位を落とすわけにはいかなかった。
昼休み、廊下を歩いていると噂が耳に入る。
「佐久間、この前の小テストで一ノ瀬に次いでクラス2位だったらしいよ」
「マジ？ ついに一ノ瀬超えか？」
（超えるもなにも……最初から、それが目標だ）
そう心の中で呟きながら、放課後の足は自然と図書室へ向かっていた。
―
扉を開けると、ひんやりとした空気と紙の匂いが鼻をくすぐる。
中は静まり返り、数人の生徒が黙々と勉強していた。
――その中に、ひときわ目を引く後ろ姿。
窓際の席。背筋を伸ばし、ペンを迷いなく走らせる少女。
光を受けて透ける髪、横顔は彫刻みたいに整っている。
一ノ瀬凛。
「……」
思わず足が止まった。
会うかもしれないとは思っていたけど……本当にいるとは。
（……帰るのも変だよな。最近、まともに話してないし。勉強も聞きたいし……隣、行くか）
意を決して声をかける。
「……隣、いいか？」
ペンが止まり、彼女が顔を上げた。
冷たすぎず、でも柔らかすぎもしない眼差し。
数秒の沈黙。心臓がやたらとうるさい。
やがて、小さく頷く。
「……どうぞ」
その一言だけで、胸の奥がふっと軽くなる。
俺は隣に腰を下ろし、ノートを広げた。
―
しばらくは無言。
響くのはペンの走る音と、時計の針の進む音だけ。
集中しろ、と自分に言い聞かせる。
……けど、意識の半分は隣に引っ張られていた。
距離が近いだけで、心臓がバクバクする。
（やっぱ隣はまずかったか？ 落ち着け……これは勉強だ、勉強しに来たんだ……）
数分後。視界に影が差した。
「……」
顔を上げると、一ノ瀬が俺のノートを覗き込んでいた。
肩が触れそうな距離。髪がかすかに頬に触れる。
「……っ」
呼吸が乱れる。
「ちゃんと解けてるじゃない。途中式も丁寧だし」
「……その言い方、意外って言いたいんだろ」
「ふふ」
口元に手を当て、小さく笑う。
「ええ。最近、やたらチヤホヤされてるでしょ？ かっこよくなったって。
……勉強までちゃんとしてるのか気になっただけ」
軽い調子。けど、その奥に小さな棘。
――これ、もしかして嫉妬？
（やっぱ、そういうふうに見えてるのか……）
「……それとこれとは別だ」
自然と声が強くなる。
「俺は、一ノ瀬に勝つためにやってる」
目を逸らさずに言い切った。
一ノ瀬の表情が一瞬揺れ、すぐにふっと笑う。
「……そう」
挑発じゃない。むしろ安心したみたいな笑顔だった。
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その後も、彼女はちょくちょく俺のノートを覗き込む。
「ここ、惜しいわね」
指先が式をなぞる。近すぎる距離に鼓動が暴れる。
「……反則だろ」
思わず小声で漏らす。
「なに？」
小首をかしげる一ノ瀬。頬がほんのり赤い。
（お互い気づかないふり、してるだけか……？）
―
しばらくして、彼女がぽつりと聞いた。
「ねえ、佐久間くん。……最近、楽しい？」
「楽しい？」
「そう。モデルの子と撮影したり、SNSで話題になったり……クラスの女子も騒がしいし」
声には嫉妬が混じっていた。けど、心配してるようにも聞こえる。
俺は少し考えて答える。
「……楽しいけど、それより――」
彼女を見た。
「今は、お前に勝ちたいって気持ちが一番強い」
その瞳が一瞬だけ揺れ、すぐににこっと笑った。
「……やっぱり、佐久間くんはそうでなくちゃね」
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【特別クエスト発生】
・タイトル：「図書室のライバル」
・内容：期末テストで一ノ瀬凛に挑め
・報酬：SP＋5／知力＋1
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時間を忘れるくらい、二人で問題に向かった。
それでも頭の隅では、彼女の笑顔や横顔が焼き付いて離れなかった。
帰り際、一ノ瀬がぽつりとつぶやいた。
「……今日は、悪くなかったわ」
「俺は普通に楽しかったけどな」
そう返すと、一ノ瀬はわずかに視線を逸らし、
ほんのりと頬を赤らめながら、そそくさと本を鞄にしまった。
図書室を出るまで、彼女の耳はずっと赤いままだった。
―
【現在のステータス（六月十二日・図書室後）】
・名前：佐久間 陽斗
・年齢：16
・身長：180.8cm
・体重：63.0kg／体脂肪率：9.0％
・筋力：27.0
・耐久：27.0
・知力：27.2
・魅力：40.2
・資産（現金）：252,000円
・投資中：60,000円（評価額：160,000円／利益：＋100,000円）
・総資産：412,000円
・SP：19
・スキル：19（展開可能）
・称号：注目の存在／ヒーロー／聖夜を共に／女子人気独占
・特別イベント：
水城遥（進行中／好感度：89／恋愛条件未達）
一ノ瀬凛（進行中／好感度：73／好意）
星野瑠奈（進行中／好感度：70／好意）
ここまで読んでくださってありがとうございます。次回は、いよいよ期末テストに向けて物語が動き出します。これからも読んでもらえたら嬉しいです。
