第57話 誕生日クエスト乱立、サプライズ成功で好感度限界に到達した結果
六月四日、放課後。
遥の誕生日が、いよいよ明日に迫った。残された時間はほとんどない。
俺は財布の残高を頭に叩き込みながら、白峰高校を飛び出した。
「……行くか」
―
向かったのは街のセレクトショップ。
「誕生日ディナーに普段着ってのもな……」
鏡に映る自分に小さく呟く。
黒のジャケットに白シャツ、グレーのスラックス。シンプルだがシルエットが美しい。
試着室のカーテンを開けた瞬間、店員の目が輝いた。
「モデル経験あります? すごくお似合いですよ!」
「い、いや……」
(実際は経験あるけど……どう答えりゃいいんだよ)
値段を見て胃がきゅっと縮む。だが後戻りはできない。
――30,000円。カードを切った瞬間、資産ログが頭に浮かんだ。
【資産-30,000円】
―
次に向かったのは美容室。
「すみません、イメチェンしたいんですけど」
「おっ、いいね。彼女さんとのデート?」
「……まぁ、そんな感じです」
シャンプー台で目を閉じると、緊張と期待が入り混じる。
仕上がった髪は軽やかに整い、鏡の中の自分が“少し大人”に見えた。
帰り際、すれ違った女性客が小さく呟く。
「……イケメン」
(……やべ、ちょっと調子乗りそう)
明日のためなら、このくらいの背伸びも悪くない。
遥に「かっこいい」って思ってもらいたい――昔の俺からすれば、考えられない願いだった。
―
【クエスト達成】
タイトル:「大人の一歩」
内容:清潔感あるコーデと整った髪型で、明日に臨め
報酬:魅力+0.5/SP+1
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【資産-6,000円】
前日の出費合計――36,000円。
―
六月五日。誕生日当日。
夜明け前に目が覚めた。
「……よし、やるか」
キッチンに立ち、エプロンを締める。
スキルのおかげで手は迷わない。
粉をふるい、卵を泡立て、生クリームを重ねる。
フルーツを飾り、粉砂糖を振れば――売り物ほどではないが、十分に見られる出来だった。
(ちょっと不格好だけど……渡せるレベルにはなったな。ほんとスキルのおかげだ)
冷蔵庫にケーキをしまい、次はハンカチ。
白地の布に赤い糸で「H・M」――水城遥のイニシャル。
夜なべして刺繍した跡が指先に残っている。
「よし……準備完了」
材料費はケーキで3,000円、刺繍で2,000円。
【資産-5,000円】
―
夕方。待ち合わせの駅前。
15分前に着いたはずだったが――。
「……あ」
遥が先に来ていた。
白のワンピースに薄手のカーディガン。
長い黒髪が夕日に透けて、柔らかく輝いている。
「陽斗くん」
名前を呼ばれただけで心臓が跳ねた。
「ごめん、待たせた?」
「ううん、私が早く来ちゃっただけ」
微笑む姿に、思わず見とれてしまう。
―
向かったのは、事前に予約していた高級レストラン。
煌びやかなシャンデリアに落ち着いた雰囲気の店内。
「え……すごいね……」
遥は目を丸くする。
フルコースの魚料理、肉料理、デザート。
一皿ごとに彼女の笑顔が咲いた。
「陽斗くん、こんなに……」
「今日は特別だからな」
そして――店員の合図。
花束を抱えたスタッフが近づいてきた。
「水城様、お誕生日おめでとうございます」
差し出された花束と、小さなメッセージカード。
“いつもありがとう”
「……っ!」
遥は口元を押さえ、瞳を潤ませる。
「ありがとう……本当に、嬉しい」
―
【クエスト達成】
タイトル:「記憶に残る夜」
内容:ディナー中にサプライズを成功させる
報酬:魅力+0.5/SP+3
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ディナーと花束で合計48,000円。
【資産-48,000円】
―
食後、街を抜けて夜風に当たる。
「ねえ、どこに行くの?」
「ちょっと散歩しよ。星も綺麗だし、涼しくて気持ちいいだろ」
辿り着いたのは星ヶ丘公園。
見上げれば、空一面に星が瞬いている。
「バレンタインも、ホワイトデーも、そして今日も……気がつけば、いつもここに来てる。この公園は俺にとって特別な場所になったんだ」
遥は驚いたように目を見開き、小さく頷いた。
「……私にとっても、特別な場所だよ」
ベンチに腰を下ろし、バッグから小箱を取り出す。
「これ、誕生日プレゼント。高いものじゃないけど……全部、自分で作った」
「……開けていい?」
「うん」
箱を開けた瞬間、遥は小さく息を呑む。
ショートケーキと、「H・M」の刺繍入りハンカチ。
「……これ、陽斗くんが?」
「うん。ケーキもハンカチも。世界に一つだけだ。下手かもしれないけど、一生懸命やった」
「そんな……下手じゃないよ……」
涙を浮かべながら遥は微笑んだ。
「どんな高い物より、こっちのほうが……ずっと嬉しい」
「遥、誕生日おめでとう」
「……こんなに幸せな誕生日は、生まれて初めて……ありがとう、陽斗くん」
その瞬間、視界にウィンドウが浮かぶ。
―
【クエスト達成】
タイトル:「最高の贈り物」
内容:水城遥に“世界に一つのプレゼント”を渡せ
報酬:魅力+1.0/SP+5/特別キークエスト解放
―
【水城遥 好感度:89】
【システム通知】
好感度89以上(恋愛)に進むには特別キークエストをクリアする必要があります。
(……特別キークエスト? このままじゃ90を超えられないのか)
―
帰宅してベッドに横になると、スマホが震えた。
『遥:今日はほんとにありがとう。忘れられない誕生日になったよ』
『遥:ケーキは食べるのもったいないくらい綺麗だった。すごく美味しかったよ。ハンカチの刺繍も上手で、ずっと大切にするね』
指が止まる。
(……こんなに喜んでくれるなんて)
『俺も楽しかった。また、学校でな』
送信すると、すぐに既読がつく。
『遥:うん。またね』
照れ隠しにスマホを伏せた。
胸の奥がじんわりと熱くなる。
(……女の子を祝うなんて初めてだったけど、うまくやれたかな。でも、遥があんなに喜んでくれたんだ。きっと成功だったんだろう)
―
※【 】内は今回上昇分
【現在のステータス(六月五日・水城遥誕生日後)】
・名前:佐久間 陽斗
・年齢:16
・身長:180.8cm
・体重:63.0kg/体脂肪率:9.0%
・筋力:27.0
・耐久:27.0
・知力:27.2
・魅力:40.2【+2】
・資産(現金):238,000円
・投資中:60,000円(評価額:160,000円/利益:+100,000円)
・総資産:398,000円
・SP:19【+9】
・スキル:19(展開可能)
・称号:注目の存在/ヒーロー/聖夜を共に/女子人気独占
・特別イベント:
水城遥(進行中/好感度:89/好意→恋愛条件未達)【+2】
一ノ瀬凛(進行中/好感度:71/好意)
星野瑠奈(進行中/好感度:70/好意)
読んでいただき感謝です!遥の誕生日編、楽しんでもらえたでしょうか?




