第49話 GWに呼ばれた撮影で、ギャル後輩とカップル役に
四月二十八日。
白峰高校二年一組。窓の外では春風が桜の花びらを最後の力で舞わせ、教室の中はゴールデンウィークを目前にした浮き立つ空気で満ちていた。
「家族で旅行いくんだ~」
「俺は部活の合宿だよ。……絶対地獄だろ」
「いや、俺なんかバイトで全部潰れるわ」
あちこちでそんな声が飛び交う。机を寄せ合って予定を語り合う女子グループ。廊下でふざけて走り回る男子。二年生になって少し大人びた雰囲気の中に、まだ一年前の名残みたいな無邪気さが混じっていた。
俺はその喧噪を横目に、窓際の席で教科書をまとめていた。
すると突然、後ろの男子が声を上げる。
「なあ……佐久間、お前また伸びたよな?」
「え?」
思わず振り返る。
「いや、この前の身体測定からまだそんなに経ってないのにさ。明らかに高いだろ」
「わかる! 黙って立ってるだけで視線が上にある感じする」
「いくらなんでも成長期すぎるって。羨ましいわ」
笑い混じりの声が次々と飛び、今度は女子たちもざわざわと騒ぎ出す。
「確かに……なんか前より背が高くなったよね」
「ていうかスタイルよすぎない?」
「うわ、ほんとモデルみたい……」
一瞬で視線が集中した。
俺は片手で後頭部をかきながら、曖昧に笑う。
「……成長期、ってことにしといてくれ」
そう答えつつ、胸の奥では冷静に理解していた。
――フォトジェニックの身長補正。それが自然成長と重なり、俺の背をさらに押し上げている。
偶然なんかじゃない。ここまで積み重ねてきた結果だ。
「佐久間くんって……ほんとにモデルできそうだよね」
「うん、ちょっと漫画の主人公っぽい」
小さな笑い声や囁きが広がり、男子の何人かは苦い顔をしていた。
「チッ、また目立ちやがって……」
「どこまで伸びんだよアイツ……」
俺は聞こえないふりをして、席に座り直す。余計なことは言わない。
けど、胸の奥で湧き上がる熱までは抑えられなかった。
―
四月二十九日。
ゴールデンウィーク初日。
友人たちは旅行だの、部活だの、バイトだの……それぞれ予定で忙しそうにしていたが、俺には特別な予定がなかった。
ベッドに寝転び、天井を見つめる。窓の外からは子どもたちのはしゃぎ声。カーテン越しに差す春の日差しが、部屋を柔らかく染めていた。
「……春休みは肉体改造で手いっぱいだったけど、急に暇だな」
呟いた声が空気に吸い込まれる。ふと視線を横にやると、机の上のスマホが目に入った。
連絡先に登録された「雑誌編集者」の名前。
――あの日、街で声をかけられ、流されるように撮影したあの人。
気づけば指先が勝手に動いていた。
『お久しぶりです。もしまた撮影の予定があれば、声をかけていただけると嬉しいです』
送信して数分後、スマホが震えた。
『待ってました! 実はゴールデンウィークに若者向けのカップル企画を予定してたんだ。
でも男の子がなかなか決まらなくて困っててね。君さえよければ、ぜひ参加してほしい!』
「……マジか」
思わず息を呑む。心臓が一気に跳ね上がった。
自分から動いた結果が、即座に返ってきた。
―
五月二日。
朝から街へ向かう。
指定された撮影場所は、若者に人気の大型商業施設と、それに隣接するオープンカフェの広場だった。
休日ということもあり、家族連れやカップルが溢れていて、にぎやかな声とBGMが入り混じっている。
「佐久間くん!」
編集者が手を振って駆け寄ってきた。
「来てくれてありがとう。やっぱり雰囲気あるね、今日の企画にぴったりだよ」
少し緊張しながらも頷く。
周囲を見渡したが、モデルは俺一人のようだった。
「よろしくお願いします……でも、カップル企画って聞いてたんですけど、俺一人ですか?」
編集者は意味深に笑う。
「そこは心配しなくていい。“パートナー”はちゃんと用意してあるから」
「……?」
疑問を抱えたままスタッフに案内され、控室へ向かう。
そこには、すでに用意された衣装が並んでいた。
カジュアルで爽やかなシャツに、細身のパンツ、スニーカー。
――明らかに「カップルコーデ」を意識した組み合わせだった。
「……普段はこんなオシャレな服、着ないな」
鏡に映る自分を見つめ、小さく呟く。
緊張と期待が入り混じり、胸がざわついた。
そのとき、控室のドアが再び開く。
軽やかな足音。そして、どこか聞き覚えのある声。
「――先輩、やっぱり来てたんだ」
振り向いた瞬間、視界に星野瑠奈の姿が飛び込んできた。
茶色に染めた髪が光を弾き、きらきらと輝いている。
カジュアルなのに大胆なコーデを完璧に着こなし、まるで雑誌から抜け出したみたいな存在感。
「星野……なんでお前が……?」
彼女は唇に笑みを浮かべる。
「ふふっ、内緒。でも、今日のパートナーは私だよ。よろしくね――先輩」
驚きと戸惑いで固まる俺を、彼女は茶目っ気たっぷりに見上げていた。
―
※【 】内は今回上昇分
【現在のステータス(五月二日・撮影現場到着時点)】
・名前:佐久間 陽斗
・年齢:16
・身長:180.8cm
・体重:63.0kg
・体脂肪率:9.0%
・筋力:25.7
・耐久:26.5
・知力:27.2
・魅力:35.2
・資産(現金):295,000円
・投資中:60,000円(評価額:65,500円/利益:+5,500円)
・総資産:360,500円
・SP:2
・スキル:16(展開可能)
・称号:注目の存在/ヒーロー/聖夜を共に/女子人気独占
・特別イベント:
水城遥(進行中/好感度:87/好意)
一ノ瀬凛(進行中/好感度:71/好意)
星野瑠奈(開始/好感度:60/信頼)
―
(まさか……瑠奈と組むことになるなんてな)
胸の奥で高鳴る鼓動を抑えながら、俺は新しいステージの幕開けを感じていた。
ここまで読んでいただきありがとうございます。今回は瑠奈との再会とカップル企画の始まりでした。もしよければ、感想やブクマで応援していただけると、とても励みになります!




