第47話 春の学校クエストラッシュ、成長が止まらない
四月中旬。
朝の廊下にはモップをかけた後の水の匂いがほんのり残っていて、差し込む光に白いほこりがきらめいていた。教室のドアを開けた瞬間、近くの女子がぴたりと話を止め、俺を足の先から頭のてっぺんまで品定めするみたいに見上げてくる。
「ねえ……佐久間くん、また背伸びてない?」
「ほら、黒板の縁と比べると……前より高い」
冗談混じりの声に、肩をすくめて笑う。
「そう?成長期だからかな」
机の間を抜けて席に向かうと、床板が踏むたびにわずかに沈む。視界の高さが、春休み後とは少し違う。肉体覚醒で一気に伸びた背に、自然な成長の余波まで加わって、制服の肩まわりが少し張っている。
「おはよ、佐久間」
前の席の男子が振り向く。
「今日の体育、バスケらしいぞ」
「おはよう。声出していこうな」
言葉が自然と低く響いて、自分でも驚くほどよく通った。
―
チャイムが鳴り、出欠をとったあと体育館へ移動。冷たい床の感触がシューズ越しに伝わってくる。高い天井の梁、吊るされたゴール、ボールが弾む乾いた音。
円陣を組む。
「最初はパスで回そう。スクリーンは俺が立つから。外、空いたら撃っていい」
「了解!」と何人もの声が揃い、ハイタッチ。体育館独特のチョーク粉みたいな匂いが鼻に残る。
ティップオフ。相手が拾ったボールにすぐ寄ってコースを切る。味方がスティール、走る。
「今!」と手を挙げた瞬間、視界にボールが飛び込んできた。ワンドリからストップジャンプシュート。指先を離れたボールは弧を描き、ネットだけを揺らす。
「ナイス!」
【クエスト発生】
・内容:チームを勝利に導け
・報酬:SP+1
論理思考が最短ルートを示し、集中力強化が雑念を払う。終盤には点差が二桁に広がり、最後のポゼッションで相手のシュートを弾いた瞬間にブザーが鳴る。
歓声。背中を何度も叩かれ、笑いが広がった。
【クエスト達成/SP+1】
胸の奥に温かい重みが落ちる。汗の塩気が唇に触れ、呼吸がようやくゆるんだ。
廊下に出た途端、女子が二人、弾む声で駆け寄ってくる。
「さっきのシュート、すごかった!」
「バスケ教えてほしいな。放課後……だめ?」
「ありがとう。放課後、空いてたら少しだけな」
答えると、二人は顔を見合わせて小さく跳ねた。肩越しに、男子のひそひそ声。
「……また佐久間かよ」
「いや、あれはモテるわ」
―
昼休み。窓際で弁当を広げる。玄米、鶏胸、ブロッコリー。向かいの男子がのぞき込む。
「相変わらずストイックだな。……その胸筋、どうやって作るんだ?」
「ベンチは家にないし、自重で回数稼いでる。フォーム崩さずに最後だけ追い込む」
「真似できるかな……」
素直にメモをとる横顔に、思わず笑って箸を動かした。
昼休み終わり、クラス委員が困った顔でプリントの束を抱えていた。
「配布間に合わない……だれか手伝って」
「俺、やるよ」
受け取って手際よく配っていくと、受け取るたびに「ありがとう」と声が落ちる。席を離れたあと、背後からささやき。
「気づいた? 佐久間くん、普通にこういうの手伝うよね」
「うん、そういうとこがいいんだよ」
【クエスト達成】
・内容:クラスを支えろ
・報酬:SP+1
―
午後の授業。隣の男子が小声で肩をつつく。
「……教科書忘れた。ごめん、一緒に見せて」
「いいよ、近いほうが見やすいだろ」
机を寄せ、ノートの余白に要点を書いて渡す。「ここ、テスト出やすい」
「助かる……!」
【クエスト達成】
・内容:困っている仲間を助けろ
・報酬:SP+1
授業の終盤、先生が突然言った。
「じゃあ次の段落は……佐久間、音読」
立ち上がり、抑えめに声を出す。それでも教室の隅まで響いた。読み終わると先生が満足そうに頷く。
「落ち着いていて、とてもいい声だな」
(声まで数値化できたら、どう出るんだろう)
―
放課後。昇降口で靴を履き替えようとして、下駄箱の影に小さな財布を見つける。イニシャル入りのチャーム。校門で持ち主に追いつき、差し出した。
「これ、落とし物」
「えっ! よかった……ほんと、ありがとう!」
頬が安堵でゆるんだ彼女が深く頭を下げる。
【クエス達成】
・内容:落とし物を届けろ
・報酬:SP+1
―
帰り道。自販機の缶コーヒーを開けて歩いていると、スマホが震えた。クラスチャットに今日の体育の動画が上がっている。ハイタッチ、歓声、ネットの音。コメント欄は「やば」「佐久間ありがと」で埋まっていた。
―
夜。机に向かい、英語の長文にラインを引く。論理思考で段落の骨格を抜き出す。窓の外で電車の音が低く響き、湯呑みの白湯から湯気が立つ。ページを閉じ、息を吐いた瞬間、視界の端で光が瞬いた。
【クエスト達成】
・内容:今日の学習ノルマを消化せよ
・報酬:SP+1
―
翌朝。昇降口で靴を履き替えていると、一年の女子二人がひそひそ声でこちらを見る。
「ねえ、あの人が“佐久間先輩”?」
「本物、雰囲気ある……」
頬が熱くなる。教室に入ると、昨日ノートを貸した男子が駆け寄り、強引にハイタッチしてきた。
「昨日のまとめ、完璧だった。マジ救世主」
「よかった」
―
放課後。掲示板の清掃当番欄に×印がいくつも並んでいた。担当が休みらしい。モップを二本取り出し、黙って廊下を往復する。薄いワックスの皮膜が光を拾ってなめらかに輝く。
【クエスト達成】
・内容:縁の下の仕事をやり切れ
・報酬:SP+1
―
夜。SPの数字が今朝よりはっきり大きい。心のどこかで、次の選択の光が点りはじめている。
(昨日今日でSPだいぶ貯まったな……。先のことは読めないし、使わずに残しておいた方が安心だ)
目を閉じた。今日も数字は裏切らなかった。
―
※【 】内は今回上昇分
【現在のステータス(四月中旬)】
・名前:佐久間 陽斗
・年齢:16
・身長:177.8cm【自然成長で+1.7cm】
・体重:62.5kg
・体脂肪率:9.0%
・筋力:25.7【自然成長で+0.3】
・耐久:26.5【自然成長で+0.3】
・知力:27.2
・魅力:33.2
・資産(現金):¥287,000
・投資中:¥60,000(評価額:¥65,500/利益:+¥5,500)
・総資産:¥352,500
・SP:11【+5】
・スキル:15(展開可能)
・称号:注目の存在/ヒーロー/聖夜を共に/女子人気独占
・特別イベント:水城遥(進行中/好感度:87/好意)/一ノ瀬凛(進行中/好感度:71/好意)
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