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クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双  作者: 四郎
第一章:数値が証明する“信じる力”

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第44話 俺が一瞬でクラスの中心になった理由

四月七日。

二年一組、最初のホームルーム。黒板の上の時計がゆっくりと秒を刻み、チョークの匂いと新しいワックスの床の光沢が「新学期だ」と告げている。窓の外では校庭の若い緑が揺れ、白い雲がほどけて流れていった。

ざわつく教室には、新品の制服が擦れる音、椅子のきしみ、笑い声がとぎれとぎれに混じっている。


担任が前に立ち、眼鏡を直して口を開いた。

「今日はレクリエーションを兼ねて自己紹介をしよう。名前と一言な。……じゃあ、まずは三橋」


呼ばれた瞬間、窓側の三列目がわずかにざわめく。

立ち上がったのは、日に焼けた短髪の男子――三橋隼人。背筋がまっすぐで、歩き方に迷いがない。去年から女子に人気の名前だ。文化祭で見かけたときも女子に囲まれていた。


「三橋隼人。サッカー部でフォワード。今年も点を取りまくるんで、応援よろしく」


白い歯を見せ、片手を軽く挙げる。

前列の女子から「キャー! 頑張って!」と声が上がり、拍手も響く。

……けれど、その熱は去年より少し控えめに感じた。いくつかの視線は途中で別の方向へと泳いでいく。机に手をついた三橋の指が、一瞬だけ固くなった。


笑顔の奥、目のわずかな揺れ。彼は周囲の空気に敏感だ。だからこそ、誰より早く「差」に気づいているのかもしれない。


しばらくして、俺の番が回ってきた。

「次、佐久間」


担任の声。

教室の空気が一拍遅れて沈む。椅子のきしみも、ページをめくる音も止まり、何人もの視線が一直線に俺を捉える。


立ち上がり、前へ。

歩くたびに、新しい床の弾力が足裏に返ってくる。去年までなら緊張で膝が笑っていたはずだ。

けれど今は呼吸も一定。背筋も自然に伸びている。肉体覚醒でついた自信が、心を落ち着かせていた。伸びた身長が視界を押し上げ、教室全体が少し広く見える。


「……佐久間陽斗です」


声は驚くほど落ち着いていて、マイク越しみたいに教室の隅まで届いた。

「趣味はトレーニングと読書。目標は――自分をもっと高めることです」


短い。けど、必要なことはすべて詰め込んだ。


一瞬の静寂。

黒板の時計が「コッ」と鳴った気がしたとき――小さな声が漏れた。


「……かっこいい」


誰かの息みたいな声。

それを合図にしたかのように、抑えていたざわめきが一気に広がった。


「背、ほんとに伸びたよね」

「え、普通にモデルいける……」


席に戻ると、前列の女子がくるっと振り返って目を輝かせる。

後ろからも「読書なに読むの?」「トレーニングって毎日?」「プロテインってどれがいい?」と矢継ぎ早に質問。

気づけば俺の机の周りに小さな円ができていた。


窓ガラスに映る自分は、肩幅が広く、シャツの襟元が少しきつそうだ。

男子数人の表情が硬くなり、ため息まじりに「また目立ってるな」「二年になって急にかよ」と呟く声も聞こえる。

けど、真正面から何かを言ってくるわけじゃない。ただ空気が一枚、分厚くなったような距離感が生まれていた。


自己紹介が続いている間も、質問は止まらない。


「佐久間くん、読書ってミステリー? それともビジネス書?」

「部活入る予定は? 運動できそうだし」

「走るのってどのくらい? 朝派? 夜派?」


机のふちに指をかけて身を乗り出す子、椅子ごと近づいてくる子、ノートを片手に笑いながら質問する子。

柔軟剤の甘い匂いが重なり、まつ毛に光が弾く距離。息のタイミングを間違えればむせそうだ。


「ミステリーも読むよ。最近は短編かな」

「部活はまだ未定。とりあえず体づくりは続けるつもり」

「ランニングは朝に3~5キロ。長さより継続重視だな」


できるだけ簡潔に、でもそっけなくならないよう返す。

笑顔を作るのも、もう苦じゃない。相手の言葉をちゃんと拾って目を合わせる。そうすると相手の表情が少し柔らかくなる。


「やば、話し方もスマート」

「慣れてる感じする……」

「いや、むしろ素でこれ? ズル……」


冗談っぽい「ズル」の中に、ほんの少し本音の熱。笑い声が広がり、さらに二人、三人と輪が膨らむ。机の上の筆箱が押されてコト、と転がった。


その輪の外側。

三橋は笑っていた。サッカー部の顔で。

けれど机の下、右手はぎゅっと握られて白くなっていた。


(俺が……去年まで真ん中だったのに)


おそらくそう思っている。

拍手の量。呼びかける声の高さ。向けられる目の色。

全部が、わずかに俺のほうへ傾いていた。


「三橋、今年もサッカー頑張れよ」

男子のひとりが声をかけると、隼人は笑顔を上書きする。

「ああ、もちろん。点取るから応援しに来いよ」


声のトーンは完璧だった。けれど直後、ほんの一瞬だけ視線が俺に向かう。

その短い揺れが、彼の中のざらつきを証明していた。


「はいはい、自己紹介は一旦ここまで。佐久間の前、通路ふさいでるぞー」

担任の軽い咳払い。

女子たちは「はーい」と笑いながら散っていく。

それでも数人は席に戻りながら振り向き、手を振ったり「あとでね」と口パクしたり――視線の糸だけは切らなかった。


机に腰を下ろすと、木目が妙に鮮明に見えた。

新しいクラスの空気、人の配置、声の高さ。

全部が昨日までの「一年」とは違っている。


(見た目でこんなに変わるのか……もう俺を笑う奴も、いじめる奴もいない。

二年生――ここが新しい始まりだ)


窓の外、四月の光。

吹き抜けた風が、カーテンをふわりと持ち上げた。



※【 】内は今回上昇分

【現在のステータス(四月七日・自己紹介後)】

・名前:佐久間 陽斗

・年齢:16

・身長:176.1cm

・体重:62.0kg

・体脂肪率:9.0%

・筋力:25.4

・耐久:26.2

・知力:27.2

・魅力:31.7

・資産(現金):281,000円

・投資中:60,000円(評価額:65,500円/利益:+5,500円)

・総資産:346,500円

・SP:2

・スキル:15(展開可能)

・称号:注目の存在/ヒーロー/聖夜を共に

・特別イベント:

 水城遥(進行中/好感度:82/好意)

 一ノ瀬凛(進行中/好感度:66/信頼)

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