第3話 スキルショップ解放と最初のスキル
放課後。
俺は、目の前に浮かぶ光のウインドウをまじまじと見つめていた。
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【クエスト達成】
・筋力:+1.0
・耐久:+0.5
・魅力:+0.5
・スキルポイント:+2
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「……スキルポイント?」
見慣れない項目に思わず眉をひそめた瞬間、画面が切り替わる。
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【新機能解放:スキルショップ】
――獲得したスキルポイント(SP)を消費し、各種スキルを購入できます。
――購入したスキルは即時反映され、パッシブまたはアクティブとして発動します。
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「チュートリアルかよ……」
まるでスマホゲームの説明文みたいなメッセージ。
思わず苦笑した。けれど――笑ってる場合じゃない。
今の俺にとって、この“システム”だけが現実を変えられる唯一の手段だった。
思い返せば、今回のクエストは地獄だった。
体育倉庫で古いマットを一人で運び出し、汗でTシャツが背中に貼りつく。
校庭の隅では、錆びた鉄パイプを抱えて指の皮が破けた。
誰も褒めてくれない。
むしろ、通りすがりの生徒には「なに真面目ぶってんだ」と笑われた。
それでも――画面だけは、俺の努力を数字に変えてくれる。
その瞬間だけは、胸の奥が確かに熱くなった。
重たいマットを押し込んだ時の息苦しさ。
鉄パイプの痛み。
全身が悲鳴を上げても、「クエスト達成」の文字が出た瞬間、報われた気がした。
人に笑われてもいい。
俺の努力は、ちゃんと“残っている”――そう信じられるから。
そして新たに浮かんだリストを見て、俺は息をのむ。
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【スキルショップ】
・SP1 → 早食いLv1
・SP2 → くしゃみの音を小さくする
・SP5 → 暗記力+10%
・SP7 → 瞬発力アップ(小)
・SP10 → スタミナ持久力+1
・SP30 → 身体強化Lv1
・SP50 → 反射神経アップ(大)
・SP100 → 未来予知(5秒)
所持SP:2
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「……なんだこのラインナップ」
呆れ笑いが漏れた。
一番安いのが「早食いLv1」。
誰が得すんだよそれ。購買のパンを誰より早く食べ終われるとか? いや、競技かよ。
続く「くしゃみの音を小さくする」も地味すぎる。
……いや、花粉症のやつにはワンチャン神スキルかもしれんけど。
だが、次の「暗記力+10%」で心が少し動いた。
もしこれが本物なら、テストで白紙を出すことは二度とないかもしれない。
「瞬発力アップ(小)」なら、体育の短距離で笑われずに済む。
「スタミナ持久力+1」……マラソン大会で地獄を見ずに済む未来が見える。
そして、視線が止まった。
【未来予知(5秒)】
「……5秒、先?」
その文字を見た瞬間、背筋がゾクッとした。
もし、ほんの5秒でも未来が見えたら――。
先生が当ててくる問題も、ギリギリで答えられるかもしれない。
殴りかかってくる相手の拳をかわして、逆に反撃だってできる。
部活の試合でヒーローになる自分の姿まで、鮮明に浮かんだ。
(……いや、調子に乗るな。SP100なんて、いつ貯まるんだ)
現実に戻る。
手元にあるのは、たった2ポイント。
買えるのは――安物だけ。
「……試すしかないか」
俺は、一番安い「早食いLv1」を選択した。
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【スキル購入:早食いLv1】
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瞬間、頭の奥に“映像”が流れ込む。
牛丼をかき込む。ラーメンを一瞬で飲み干す。……え、これ本当にスキルか?
購買でコッペパンと牛乳を買い、廊下の隅で実験してみた。
「いただきます」
パンを口いっぱいに詰め込み、牛乳で流し込む。
ごふっ――!!
喉に詰まりかけながらも、気づけば半分の時間で食べ終えていた。
「……はやっ! てか苦しい!」
思わず咳き込みながら笑う。
地味すぎて笑えるけど、確かに“体が覚えていた”。
本当にスキルが反映されている。
「いやこれ、どうすんだよ俺……」
苦笑いしながらも、胸の中にじんわりと熱が広がった。
どんなにくだらなくても、“現実が変わった”感覚がある。
この力は確かに存在している。
なら、積み重ねれば――“未来予知”だって夢じゃない。
ふと、俺は思いつきで“鑑定”を開いた。
ターゲットは――俺をいじめてきた男、佐藤大輝。
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【ステータス:佐藤 大輝】
・身長:175.5cm
・体重:70.2kg
・筋力:15.5
・耐久:15.5
・知力:6.2
・魅力:6.8
・資産:¥800
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「やっぱり……強いな」
俺の倍以上の筋力。
これじゃ勝てるわけがない。
でも、数値の差は“努力”で埋められる。
クエストをこなし、SPを貯め、スキルを手に入れる。
積み重ねれば――必ず追いつける。
そして、いつか必ず追い越す。
「……絶対に笑うのは、俺だ」
その瞬間、くだらないと思っていた「早食いLv1」でさえ、
俺にとっては“未来への切符”に見えていた。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。




