第24話 声を重ねた先に、俺たちは“チーム”になった
朝、目が覚めると同時にステータスウインドウを呼び出した。
薄い青の光が、寝ぼけた視界にふわりと浮かぶ。
まるで朝日より先に“数字”が俺を起こしてくるようだった。
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【現在のステータス】
・名前:佐久間 陽斗
・年齢:16
・身長:168.1cm(+8cm)
・体重:62.0kg
・体脂肪率:15.0%
・筋力:20.2(+1.5)
・耐久:20.0(+0.5)
・知力:14.2(+1.5)
・魅力:23.2(+3)
・資産:178,000円(+2000/日)
・SP:13.0
・スキル:早食いLv1/資産ブースト/暗記力+10%/身体強化Lv1/恐怖心克服Lv1/瞬発力アップ(小)/スタミナ持久力+1/会話術Lv2/笑顔強化Lv1/好感度スキャンLv1……
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「……見づらい。確認するだけで時間が溶けるな」
軽口のように呟いた瞬間、ウインドウがピコン、と小さく点滅した。
【新スキル解放:スキル展開】
・スキル欄を折りたたみ表示可能
・通常は「所持数のみ表示」
・必要なときに個別展開できる
「おぉ……助かる……!」
すっきりまとまった画面が妙に心地よくて、思わず笑ってしまう。
表示はこう変わった。
・スキル:11(展開可能)
まるで、整理された心そのもの。
見慣れた数字の羅列が、今の俺を“確かにここまで来たんだ”と教えてくれる。
「……よし。今日もやるか。球技大会、勝つ」
静かに呟く声は、もう昔みたいに震えていなかった。
―
校庭は朝から熱気で揺れていた。
秋晴れの空の下、ラインパウダーの匂いが風に混じり、遠くでマイク越しの声が響く。
グラウンドの白い線がやけに眩しい。
「佐久間、守備どこやる?」
「外野、任せてくれ。走るのは好きだから」
「ナイス。じゃあ佐藤はピッチャー、二遊間は陸と悠人な」
ホワイトボードに名前が並んでいく音。
ペンのキャップを閉める乾いた“カチ”という音さえ、なぜか試合前の緊張を煽った。
佐藤がボールを握りながら、俺の肩を軽く叩く。
「お前が後ろにいると、なんか安心する」
「全部止めるのは無理だけど、触れる球は絶対止める」
「ははっ、頼りにしてる」
短い会話。けど、その数秒がやけに長く感じた。
――こいつは、前まで俺を笑ってた側の人間だ。
それでも今は、同じチームで肩を並べている。
それだけで、胸の奥が少し温かくなった。
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【クエスト発生】
・内容:球技大会でクラスを勝利に導け
・報酬:筋力+1/耐久+1/SP+5
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「全員、声出していこう! 楽しんだもん勝ちだ!」
クラス委員の掛け声に、みんなの声が重なる。
「おーっ!!」
応援席では女子たちがメガホンを鳴らしていた。
「がんばれー!」「ファイトー!」
(……よし、見せてやる)
―
プレイボール。
一回表、相手の一番打者は構えが鋭い。
「野球部だな……」
佐藤が小さく息を吸い、渾身の初球を放る。
カキン、と空気を切り裂く高音。白球は外野の間を抜ける――!
「センター頼んだ!」
反射的に走り出していた。
風を切る音。足が砂を掴む感触。
伸ばした左手の先で、白球がまるで吸い込まれるようにグラブに収まる。
――パシッ!
「ナイスキャッチ!」「佐久間、やるじゃん!」
歓声と笑い声の中、素早くカットマンへ返球。
無失点で一回を終える。
―
【クエスト達成】
・内容:守備でピンチを救え
・報酬:SP+3/魅力+1
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息を整えながら、手のひらを開いた。
土の温度が、まだ熱を帯びている。
(これが……チーム戦ってやつか)
―
二回裏、二死二塁。
俺の打席。
相手は内角攻め。コントロールで翻弄してくる。
(焦るな。呼吸を合わせろ)
吸って、止めて、吐く――
集中を一点に絞った瞬間、三球目が甘く浮いた。
カキン!
白球が三遊間を抜けていく。
二塁走者がホームへ! スライディング――セーフ!
「先制点ーっ!」「佐久間ナイスー!」
ベンチが爆発するような歓声を上げ、背中を次々と叩いてくる。
汗と土と笑顔。どれも全部が、今は心地よかった。
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【クエスト達成】
・内容:ここ一番で打て
・報酬:SP+3/筋力+0.5
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(悪くない……この感覚。数字じゃ測れない“実感”だ)
―
四回表、相手の四番が打席に立つ。
一死一、二塁。
「打たせるな!」
佐藤の叫び。だが打者のスイングは鋭く、打球が鋭いライナーでセンター前へ――
「抜ける!」
俺はもう走っていた。
風圧が頬を裂き、視界が土色に染まる。
スライディング。土煙が弾け、グラブの芯に“ズシリ”とした重み。
掴んだ!
そのまま立ち上がり、全身を捻って三塁へ送球。
地を這うような弾道。タッチ――アウト!
「うおおお!」「神キャッチ!」
ベンチが沸き、佐藤が笑って親指を立てる。俺も拳を突き上げた。
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【クエスト達成】
・内容:守備で魅せろ
・報酬:SP+3/魅力+1
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ベンチに戻ると、クラス委員がペットボトルを差し出してくれた。
「佐久間、落ち着いてるな」
「いや、心臓バクバクだよ」
「その状態で動けるやつが、一番強いんだ」
佐藤が隣に腰を下ろす。
少し息を整えてから、短く言った。
「……前さ、俺、お前のこと……いじめてた。
今思うと、ほんと最低だった。……悪かった」
一瞬、息が詰まった。
けど、もう過去を掘り返す必要はない。
「いいよ。今は、同じチームだろ」
「……ああ。勝とうぜ」
「もちろん」
遠くから歓声が湧いた。
名前を呼ぶ声も混じっているが、誰のものかは聞き取れない。
それでも、確かに俺を“見てくれている”視線がある。
胸の奥が熱くなる。
(負けられない。俺は今、ちゃんとこの場所で戦ってる)
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スコアは1―1。五回、最終回。
円陣の中心で、佐藤が短く言った。
「最後まで、全員で声出そう」
「いける!」「守り切るぞ!」
声が重なり、輪が締まる。
文化祭とは違う――今は“戦う熱”が確かにあった。
孤独な努力とは違う。
仲間と声を重ね、同じ景色を見ている。
たったそれだけで、世界がこんなに広く感じるなんて。
(この声がある限り、俺はもう一人じゃない)
(さぁ、ここから仕留める)
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※【 】内は今回上昇分
【現在のステータス(球技大会)】
・名前:佐久間 陽斗
・年齢:16
・身長:168.1cm(+8cm)
・体重:62.0kg
・体脂肪率:15.0%
・筋力:20.7(+1.5)【+0.5】
・耐久:20.0(+0.5)
・知力:14.2(+1.5)
・魅力:24.2(+3)【+2】
・資産:178,000円(+2000/日)
・SP:22.0【+9】
・スキル:11(展開可能)【+1】
・称号:注目の存在
・特別イベント:水城遥との関係(進行中)
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歓声が遠のいて、鼓動の音だけがやけに大きく響く。
土の匂い、汗の滲む手、仲間たちの息遣い。
今この瞬間――俺は一人じゃない。
(あの頃の俺なら逃げてた。けど今は違う)
バットを握る手に力がこもる。
(……俺の努力を証明してみせる)
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