第21話 文化祭準備、動き出した歯車
放課後。
西日に照らされた教室で、机がガタガタと音を立てて動かされていく。
椅子を重ねて壁際に寄せ、中央に広いスペースができる。
チョークの粉が夕日に溶けて、橙色に揺れていた。
普段の俺なら、こういう光景をただ眺めて終わっていた。
けれど今日は――気づけば、自然と手を動かしていた。
「佐久間、そっちの机、もう少し押してくれ」
「うん、わかった」
声が出た瞬間、周囲の空気が変わる。
相手が一瞬驚いた顔をしてから、「助かる!」と笑った。
ほんの一言。それだけなのに、
喉の奥にこもっていた“なにか”が少しだけ溶けていくような感覚があった。
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【クエスト発生】
・内容:机の配置換えを手伝え
・報酬:筋力+0.2/SP+0.5
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汗が額を伝い、机の足が床をこする音が響く。
動かし終えた瞬間、画面に「クエスト達成」の文字が浮かんだ。
(……たったこれだけ。でも、こういう積み重ねが大事なんだ)
誰に見られなくてもいい。
小さな「達成」が、自分の中で確かに光を放っていた。
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翌日。教室ではメニューを決める会議が始まっていた。
「ホットコーヒーは定番だよな」
「ケーキ系も映えるし人気出そう!」
「焼き菓子とかクッキーもありじゃね?」
笑い声と意見が飛び交う。
俺はノートを開き、黙ってメモを取っていた。
けれど、気づけば――口が勝手に動いていた。
「……仕入れのコスト、ちゃんと計算した方がいいと思う。
材料費がかさむと赤字になるし、あとカップ数の読み違いが一番危ない」
「……具体的には?」
不意に注がれた視線に少し戸惑う。
だが、会話術Lv1が背中を押した。
「コーヒー1杯200mlとして、一袋で何杯取れるか。
砂糖やミルクも単価を出して、原価率を20~30%に抑える。
焼き菓子は試作して実際の量を見た方がいい」
数秒の静寂。
一瞬、“出すぎたかも”と思ったそのとき――。
「おお、それ助かる! そういうの頼むわ、会計!」
「やっぱ数字わかってる人がいると違うな」
笑いと拍手が起こる。
その音に、胸の奥がじんわり温かくなった。
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【クエスト達成】
・内容:メニュー会議で役立つ意見を出せ
・報酬:知力+0.1/SP+0.5
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(……やった。俺、今ちゃんと“話せてる”)
ノートに残る文字が、いつもより鮮やかに見えた。
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次の日。
装飾班が教室の隅で、カラフルな画用紙を広げていた。
「うわ、糊が切れた……どうしよう」
その一言に、気づけば体が動いていた。
「俺、家に予備あるから持ってこようか? 明日までに間に合うだろ」
「ほんと!? 助かる!」
笑顔で感謝される。
ウインドウが光る。
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【クエスト達成】
・内容:不足している備品の調達方法を提案せよ
・報酬:魅力+1/SP+1
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(……ありがとうって言葉、こんなに響くんだな)
それは数値じゃ測れない温度だった。
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週の半ば。
原材料担当の女子が、少し困ったように近づいてくる。
「コーヒー豆、どこから買えばいいか迷ってて……学校近くの店、相談できる?」
「やってみる」
短い返事。だけど、迷いはなかった。
放課後、近所のロースターに電話をかけ、事情を説明する。
文化祭で使うこと。予算が限られていること。
初心者でも扱いやすい豆がいいこと。
相手は丁寧に聞いてくれ、数種類のサンプルを用意してくれるという。
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【クエスト発生】
・内容:仕入れ先を開拓せよ
・報酬:知力+0.2/SP+1
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翌日、担当の子と店を訪れた。
店主が小さなカップを並べる。
湯気とともに広がる香り――苦味、酸味、甘み、それぞれ違う表情を持っていた。
俺はスマホで簡単な評価表を作り、味や香り、コスパをメモしていく。
「このミディアム、失敗しにくくて飲みやすい。酸味が苦手な人も大丈夫だ」
「確かに、一番バランスいいかも」
「学生さん、よく分かってるね。文化祭、頑張ってよ」
店主の手と軽く触れた瞬間、温かな感触が掌に残った。
【クエスト達成】
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金曜日。
教室では“接客動線”の確認が始まった。
入口から案内、注文、会計、受け渡し、退店まで。
テープで矢印を貼り、机を組み替え、動線を再現する。
「いらっしゃいませー!」
クラスメイトの声が明るく響く。
俺は会計位置から全体を見渡し、詰まりそうな箇所に付箋を貼った。
「注文から会計まで、ここで混むと思う。
メニュー表を入口に置いて、人気トップ3を前に出そう。
お客さんが選ぶ時間、短くできるかも」
「いいね、それ採用!」
「佐久間、すげーな!現場慣れてる!」
笑いと称賛。
気づけば、自然に笑い返していた。
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【クエスト達成】
・内容:導線を最適化せよ
・報酬:知力+0.2/SP+1
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(……俺の一言で、誰かが動く。こんなに気持ちいいものなんだな)
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帰り際、装飾班の子がエプロンを抱えて駆け寄ってきた。
「佐久間、サイズ確認して! 全員分そろった!」
鏡の前で着てみる。
紺色のシンプルなエプロン。
思っていたより似合っていて、少し背筋が伸びた気がした。
「いい感じ。これなら会計でも清潔感あるし」
「やった!」
そのやり取りの最中、視線を感じて振り向く。
佐藤がこちらを見ていた。
以前のような敵意はなく、ただ何かを考えるような目。
だが、彼はすぐに視線を外した。
(……それでいい。今は、競うより進む)
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週が明け、コーヒーの試飲会。
A・B・Cと記号を振った紙コップを並べ、簡易アンケートを配る。
「Aが好き!」「Cが香りいい!」
笑い声があふれる。
結果はA、ミディアムローストが圧勝。
メニュー表のトップに「おすすめNo.1」を追加した。
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【クエスト達成】
・内容:人気メニューを決定せよ
・報酬:知力+0.2/SP+1
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(数値と感覚、両方で動くのが一番強い)
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夜。
机の上に広げたノートを閉じながら、ふと思った。
(前の俺なら、こういう時間を「めんどくさい」で終わらせてた。
でも今は……みんなと話すのが、少しだけ楽しい)
ウインドウを開く。
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※【 】内は今回上昇分
【現在のステータス(文化祭準備)】
・名前:佐久間 陽斗
・年齢:16
・身長:168.1cm(+8cm)
・体重:62.0kg
・体脂肪率:15.0%
・筋力:18.7(+1)【+0.2】
・耐久:18.5
・知力:13.7(+1)【+0.7】
・魅力:17.2(+0.5)【+1】
・資産:166,080円(+2000/日)
・SP:15.0【+5】
・スキル:早食いLv1/資産ブースト(+2000/日)/暗記力+10%/身体強化Lv1/恐怖心克服Lv1/瞬発力アップ(小)/スタミナ持久力+1/会話術Lv1
・特別イベント:水城遥との出会い(進行中)
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数字は、確かに伸びていた。
けれど一番の変化は――
“人に必要とされることが、嬉しい”と思えた自分自身だった。
(文化祭、本番が楽しみだ。
ようやく俺も、クラスの一員として胸を張れる気がする)
窓の外で、秋の風がカーテンを揺らした。
長い夜の中、胸の鼓動だけが静かに響いていた。
――だが、この時はまだ知らなかった。
文化祭当日、想像を超える“現場”が俺を待っていることを。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!温かい応援をお待ちしています。




