第20話 文化祭の準備、はじめて“会話”が楽しかった
教室の前の黒板に貼り出された紙には、大きく太字でこう書かれていた。
『文化祭企画会議』
まだ朝の一時間目前だというのに、教室はすでに熱を帯びていた。
いつもなら半分は寝ぐせと欠伸でできているこのクラスが、今日は妙に生き生きしている。
机を寄せ合い、チラシを描き、スマホで衣装を検索しては笑い合う声。
「で、俺たちのクラスは――喫茶店に決まったらしい」
「定番だけど、ちゃんとやれば映えるよな」
「エプロン姿の女子が接客とか、絶対人気出るって」
笑い声が跳ねるたびに、教室が小さく震えたように感じる。
その輪の少し外。俺は席に腰を下ろしながら、その光景を眺めていた。
(……喫茶店か。俺ができることなんてあるのか?)
胸の奥に、小さな溜息がこもる。
その瞬間、視界の端で淡い光が瞬いた。
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【クエスト発生】
・内容:文化祭の準備に参加せよ
・報酬:SP+3
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(……やっぱり来たか)
いつもなら「面倒だ」と思ってスルーしていたかもしれない。
でも今の俺は違う。
“逃げずにやる”って、自分と約束したからだ。
「……よし」
小さく呟いて、顔を上げた。
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役割分担が始まる。
接客、調理、装飾、会計――黒板に次々と書き込まれていく。
「男子は厨房とか運搬系?」「会計とか裏方でも全然アリだな」
そんな声を聞きながら、俺は黒板を見つめる。
人気のある役は次々に埋まり、残ったのは“会計”。
静かな空気の中で、誰も手を挙げようとしない。
(……誰もいないなら、俺がやるか)
ためらいを振り切り、チョークを取って自分の名前を書き込む。
白い文字が並ぶ中に“佐久間”の三文字が加わった。
ほんの小さなことなのに、胸の中が少し熱くなる。
その瞬間、ウインドウが光った。
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【スキルショップ更新】
・SP5 → 会話術Lv1
→ 日常会話がスムーズに。相手の反応に+補正(魅力+0.5扱い)
・SP10 → 笑顔強化
→ 笑顔の印象が格段に良くなる。接客・交渉で+効果(魅力+1扱い)
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(……これは)
二つのスキルを見比べる。
俺の手持ちSPは12。両方は買えない。
だけど、文化祭の準備では人と話す機会が増える。
(まずは“会話術”だな。笑顔より、今は言葉を交わせる力が欲しい)
意を決して購入ボタンを押す。
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【スキル購入:会話術Lv1/SP-5】
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一瞬、頭の奥がじんわり熱くなった。
人の声の抑揚や、笑い方のニュアンスが以前よりも鮮明に感じ取れる。
まるで音の解像度が上がったような不思議な感覚。
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昼休み。
隣の席の男子が、パンをかじりながら声をかけてきた。
「佐久間、会計よろしくな。レジって使える?」
「あ、うん。小さいころ駄菓子屋の手伝いしてたから、計算は得意だよ」
自然に言葉が出た。
相手の眉が緩み、安心したように笑う。
(……これが“会話術”か)
次の瞬間、別の女子がノートを差し出してきた。
「売上記録用に表作ってみたんだけど、どうかな?」
「すごい、ありがとう! これなら計算も楽になるよ」
声が自然に弾んでいた。
感謝の言葉に作り物の気配はなく、彼女も照れくさそうに笑う。
今までの俺なら、ただ受け取って“無言で頷くだけ”だっただろう。
(……人と話すって、こういうことか)
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放課後。
装飾班が廊下で困ったように話し込んでいた。
「黒の画用紙が足りないんだよな。あと一枚あれば完成なのに」
「買いに行く時間もないし……」
その声を聞いた瞬間、気づいたら口が動いていた。
「駅前の文具店にまだあると思う。俺、帰りに寄ってこようか?」
「え、いいの?」
「会計の経費で処理すれば大丈夫だし。どうせ帰り道だしね」
彼らの表情が一気に明るくなる。
「助かる! 佐久間って、意外と動けるんだな」
その一言に、不思議と胸が熱くなった。
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【クエスト達成】
・内容:文化祭の準備に参加せよ
・報酬:SP+3
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(……よし。最初の一歩は踏み出せたな)
黒板に名前を書いただけのはずが、気づけばクラスの中で“会話”が生まれていた。
自分の声が、誰かの役に立っている実感。
それがこんなにも気持ちいいものだとは思わなかった。
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その夜。
夕飯を終え、リビングで妹と他愛ない話をしていると、
ふと妹がじっと俺の顔を見た。
「お兄ちゃん、なんか……今日は喋りやすいっていうか、雰囲気違う?」
「そ、そうか?」
照れながら答えると、妹は小さく笑った。
前までの“軽蔑まじりの視線”は、もうそこにはなかった。
代わりに、“話しかけやすい兄”を見ているような穏やかな目。
(……少しずつ、変われてるのかもしれない)
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夜。
布団に潜り込み、スマホを開く。
ウインドウが淡い光で浮かび上がる。
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※【 】内は今回上昇分
【現在のステータス(文化祭準備中)】
・名前:佐久間 陽斗
・年齢:16
・身長:168.1cm(+8cm)
・体重:62.0kg
・体脂肪率:15%
・筋力:18.5(+1)
・耐久:18.5
・知力:13(+1)
・魅力:16.7【会話術補正+0.5】
・資産:160,080円(+2000/日)
・SP:10.0【+3】
・スキル:早食いLv1/資産ブースト(+2000/日)/暗記力+10%/身体強化Lv1/恐怖心克服Lv1/瞬発力アップ(小)/スタミナ持久力+1/会話術Lv1
・特別イベント:水城遥との出会い(進行中)
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(魅力が……上がってる)
わずかな数値の変化。
けれど、その小さな数字の裏に“人との関わり”が見える気がした。
(文化祭……今度は、みんなの前で“見せる”番だ)
胸の奥に、ゆっくりと炎が灯る。
布団の中で目を閉じると、昼間の笑顔たちが浮かんだ。
それは、孤独だった“最底辺の俺”にはなかった光景だった。
最後までお付き合いいただき、心より感謝します!頑張ります!




