第2話 初クエストと能力鑑定
朝、目覚ましのベルが鳴り響く。
寝ぼけたまま手を伸ばし、止めた瞬間、思い出した。
昨日、あの光。あの“画面”。
昨日と同じはずの体。けれど俺は、反射的に呼び出していた。
青白い光が部屋を照らし、文字が浮かぶ。
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【ステータス】
・名前:佐久間 陽斗
・年齢:15
・身長:160.0cm
・体重:72.1kg
・筋力:3.1
・耐久:4.1
・知力:5.0
・魅力:2.0
・資産:¥200(+100/日)
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「……本当に、伸びてる」
昨日の百円が、今日は二百円。
たった一晩で、数字は確実に進んでいた。
身長もついに160センチを超え、体重は少し減っている。
筋力も耐久も、ほんのわずかに上昇。
体感はない。でも、確かに前に進んでいる。
その事実だけで、胸の奥に熱が広がった。
――もしかしたら、本当に変われるのかもしれない。
その瞬間、視界の端に光が走る。
新しいパネルが、ゆらめくように現れた。
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【クエスト発生】
・内容:校内でゴミを拾え(3回)
・報酬:筋力+0.5/魅力+0.5
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「……クエスト?」
声に出して笑ってしまう。
まるでRPGだ。けど、昨日のことを思えば――無視できるはずがない。
俺は半信半疑のまま、制服に袖を通した。
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学校。
いつものように机は蹴られ、笑い声が飛ぶ。
それでも、今日は昨日とは違った。
頭の中に“クエスト”の文字が、ぼんやり浮かんで離れない。
廊下に落ちたプリントを拾い上げた――その瞬間。
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【クエスト進行:1/3】
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胸の奥で、何かが跳ねた。
偶然じゃない。確かにカウントされている。
次に廊下の空き缶を拾ってゴミ箱へ。
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【クエスト進行:2/3】
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周囲の視線が突き刺さる。
「なに真面目ぶってんだ」と嘲る声も聞こえる。
でも、もう気にならない。
俺は俺のために動いている。
その一歩一歩が、数字に変わる。
この感覚が――たまらなく心地よかった。
放課後。
靴箱前に散らばった紙くずを拾い上げると、視界に光が走った。
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【クエスト達成】
・筋力:+0.5
・魅力:+0.5
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急いでステータスを呼び出す。
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【ステータス】
・名前:佐久間 陽斗
・年齢:15
・身長:160.0cm
・体重:72.1kg
・筋力:3.6
・耐久:4.1
・知力:5.0
・魅力:2.5
・資産:¥200(+100/日)
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「……本当に、上がってる」
ゴミ拾い。それだけで数字が動いた。
昨日まで誰にも気づかれない“無意味な行動”だったことが、
今はちゃんと報われている。
手のひらに残る紙くずの感触が、不思議と誇らしかった。
胸の奥で、火がつくように熱が灯る。
行動すれば変わる。この世界では、それが絶対のルールだ。
そして――画面に新たなアイコンが現れた。
そこには「鑑定」と書かれている。
「……鑑定?試してみるか」
廊下を歩く田中健二を見つめた。
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【ステータス:田中 健二】
・身長:172.3cm
・体重:65.4kg
・筋力:12.0
・耐久:11.5
・知力:6.0
・魅力:5.2
・資産:¥1,200
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「……高っ」
思わず声が漏れる。
これが普通の高校生の数値。
俺との差は圧倒的。
けれど、その“差”が数字で見えることが、逆に救いだった。
積み重ねれば――必ず届く。
次に、クラスの中心・佐伯美優へ視線を向ける。
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【ステータス:佐伯 美優】
・身長:158.2cm
・体重:48.7kg
・筋力:6.5
・耐久:5.9
・知力:7.8
・魅力:20
・資産:¥3,500
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「……桁が違う」
教室の笑い声、その理由が数値で突きつけられる。
“魅力20”――これがスクールカースト上位の力。
俺だけが知る、この世界の真実。
鳥肌が立つような興奮と、嫉妬と、決意が入り混じる。
そして教師にも試す。
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【ステータス:井上 (教師)】
・年齢:45
・身長:174.8cm
・体重:78.9kg
・筋力:9.0
・耐久:10.2
・知力:28
・魅力:6.0
・資産:¥18,000
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「……教師もすげぇな」
知力は桁違い。でも、それ以外は生徒の上位と大差ない。
この“構造”が見えた瞬間、
まるで世界の仕組みを覗き込んだような感覚に襲われた。
息を吐く。
俺はまだ弱い。けれど――確実に、伸びている。
そして、数字の向こう側に、見え始めたものがある。
「いつか、追い越してみせる」
小さく呟いた言葉が、胸の奥に焼きついた。
心臓がまだ速く打っている。
あの光を見た日から、確かに世界が“動き出した”。
筋力が10になれば? 耐久が20を超えたら?
資産が何十万、何百万と積み上がったら?
笑うのは俺だ。見下すのは――俺だ。
昨日まで俺を嘲ってきた奴らを、
この“数字”で、全部ひっくり返す。
俺はまだ弱い。
けれど、もう絶望だけの人生じゃない。
――これは、俺がこの世界で“努力の価値”を証明する物語だ。
読んでいただきありがとうございます!これからも頑張ります。またよろしくお願いします。




