第16話 数字は嘘をつかない。だから俺は走る
二学期が始まると同時に、学校全体が妙に浮き足立っていた。
黒板の端には、クラス委員の誰かが描いた文字が目立っている。
「体育祭まで、あと二週間!」
普段なら、うんざりする行事の一つだ。
けれど今の俺にとっては違った。
胸の奥に、淡い熱が宿る。
(……ここで“結果”を残せば、もう誰も俺をバカにできない)
笑い声にまみれた教室の中で、
その思いだけが静かに燃えていた。
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放課後。
制服のまま自室の椅子に腰を下ろし、ステータスウインドウを呼び出す。
青白い光が、薄暗い部屋の壁を照らした。
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【現在のステータス】
・名前:佐久間 陽斗
・年齢:16
・身長:168.1cm(+8cm)
・体重:62.0kg
・体脂肪率:16%
・筋力:16.0
・耐久:17.0
・知力:13(+1)
・魅力:14.2
・資産:148,000円(+2000/日)
・SP:22.0
・スキル:早食いLv1/資産ブースト(+2000/日)/暗記力+10%/身体強化Lv1/恐怖心克服Lv1
・特別イベント:水城遥との出会い(進行中)
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「……22ポイント、か」
スクロールして“スキルショップ”を開く。
画面には新たな項目が追加されていた。
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【スキルショップ】
・SP7 → 瞬発力アップ(小)
→ スタート時の反応速度+10%。短距離走で爆発的な加速が可能。
・SP10 → スタミナ持久力+1
→ 長時間の運動で疲労しにくくなる。
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(……体育祭に、これ以上ないスキルだ)
息を整え、指先でウインドウをタップする。
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【スキル購入:瞬発力アップ(小)】(SP-7)
【スキル購入:スタミナ持久力+1】(SP-10)
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「よし……これで、勝負は始まった」
残りSPは5。だが、それでも十分だった。
胸の鼓動が、ゆっくりと高鳴り始める。
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翌日。
教室で「リレーの代表決め」が始まった。
「どうせ佐藤がアンカーだろ」
「うちのクラスのエースだし、速いもんな」
みんなの声が当然のようにひとりへ向かう。
その空気の中で、俺は静かに手を挙げた。
「……俺も、リレーに出たい」
一瞬の静寂。
すぐに、嘲るような笑い声が響く。
「は? お前、運動音痴だろ」
「50メートル12秒のやつが出てどうすんの」
佐藤が口角を歪めて言った。
「やめとけよ。怪我する前にな」
笑われても、心の中にあった熱は消えなかった。
「……やってみなきゃ分からない」
その言葉と同時に、視界に淡い光が走った。
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【クエスト達成】
・内容:クラス代表に立候補せよ
・報酬:SP+2/魅力+1
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(……上等だ。逃げる気なんて、もうない)
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それからの毎日、俺は放課後の校庭を走った。
夕焼けに染まったグラウンド。
部活帰りの声が響く中、俺は黙々と足を動かす。
最初は、ただの無謀だった。
けれど、すぐに次のクエストが浮かび上がる。
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【クエスト発生】
・内容:校庭を5km走り切れ
・報酬:筋力+0.5/耐久+0.5
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「……夏休み、さんざん走ったんだ。やれる」
息が荒い。足が鉛のように重い。
それでも、地面を蹴り続けた。
夕陽が沈むころ、最後の一周を走り切る。
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【クエスト達成/筋力+0.5/耐久+0.5】
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「っは……っ、はぁ……!」
膝に手をつきながら、笑いが漏れた。
きつい。でも、確かに“上がってる”感覚がある。
翌日には、さらに過酷な課題が現れた。
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【クエスト発生】
・内容:連続ダッシュ10本をこなせ
・報酬:筋力+0.5/SP+1
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足がもつれ、吐き気をこらえながらも走る。
風を切る音。地面を蹴る感触。
倒れそうになりながら、それでも前に進んだ。
最後の一本を走り終えた瞬間――
体の奥から何かが“目覚める”感覚が走った。
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【クエスト達成/筋力+0.5/SP+1】
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数日後、さらにもう一段階の挑戦が待っていた。
【クエスト発生】
・内容:リレー練習でタイムを縮めろ
・報酬:耐久+0.5/SP+1
代表候補の連中と並び、スタートラインに立つ。
合図と同時に飛び出す。
前よりも――明らかに速い。
足の回転が軽い。
呼吸が乱れても、足は止まらない。
「……陽斗、意外と速くね?」
ざわめく声。
佐藤の表情が、わずかに曇った。
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【クエスト達成/耐久+0.5/SP+1】
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夜。
自室の暗闇で、ステータスウインドウを開いた。
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※【 】内は今回上昇分
【現在のステータス】
・名前:佐久間 陽斗
・年齢:16
・身長:168.1cm(+8cm)
・体重:62.0kg
・体脂肪率:15%
・筋力:17.0【+1】
・耐久:18.0【+1】
・知力:13(+1)
・魅力:15.2【+1】
・資産:150,000円(+2000/日)
・SP:9.0【−13】
・スキル:早食いLv1/資産ブースト(+2000/日)/暗記力+10%/身体強化Lv1/恐怖心克服Lv1/瞬発力アップ(小)/スタミナ持久力+1
・特別イベント:水城遥との出会い(進行中)
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数字が、確かに前へ進んでいた。
それがたまらなく嬉しい。
(ここまでやった。もう“笑われる側”じゃ終わらない)
拳を握り、夜空を見上げた。
窓の外の星が、わずかに瞬いていた。
体育祭で勝つ。それが、俺の“努力”の証明だ。
最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。これからも頑張りますので、どうぞよろしくお願いします。




