第1話 ステータス画面、現実に出現す
「ガタン!!」
机が倒れる音がした。俺の席だ。床に弁当箱が叩きつけられ、白飯が散乱する。
「おい陽斗、またゴミ撒き散らしてんじゃねーよ」
「ははっ、机のほうが悲鳴上げてんじゃね?」
笑い声。肩を蹴られる感触。……これが、いつもの日常だった。
俺はクラスで完全に孤立している。背は低い。中三からほとんど伸びていない。しかも太り気味の体型。
体育の授業で着替えるたび、腹回りを見て笑われる。鏡に映る自分の姿は「チビでデブ」の烙印を押されたようで、誰よりも自分が情けなかった。
だからだろうか。どんなに抗っても「いじめられる側」から抜け出せなかった。
ノートを破かれ、机に落書きされ、上履きを隠される。それを見てクラス全員がクスクス笑う。
廊下ですれ違えば肩をぶつけられ、体育ではわざとボールを顔にぶつけられる。笑い声と嘲笑が日常に張り付いて離れない。
昼食の時間には牛乳を勝手に飲まれ、残ったパンを投げつけられる。
笑うやつ、見て見ぬふりをするやつ、誰一人として俺を庇う者はいない。
俺の存在は、この教室では完全に“消耗品”扱いだった。
教師も同じだ。俺が机を倒されても、足蹴にされても、気づかないフリ。むしろ「お前が悪いんだ」と言わんばかりに目を逸らす。
その冷たい無関心が、連中の暴力に拍車をかけていた。
……きっと、この教室から俺がいなくなっても、誰も困らない。
周りの男子が身長170を超えていく中、俺だけは160にも満たない。体重は70キロを超えていて、ダイエットを試したこともあったが、空腹に耐えられず三日で挫折した。
結局、俺は何も変えられない人間なのだ。……そう思っていた。
―
その時だ。
目の前に、青白い光が浮かんだ。半透明のパネル。まるでゲームのウインドウ。俺は呆然と、それを見つめた。
―
【ステータス】
・名前:佐久間 陽斗
・年齢:15
・身長:159.8cm
・体重:72.5kg
・筋力:3
・耐久:4
・知力:5
・魅力:2
・資産:¥0(+100/日)
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「……なんだ、これ」
筋力:3。……たぶん相当低いんだろう。
見た目こそがっしりしてるけど、中身はほとんど脂肪。腕に力を込めても、情けないくらい何も持ち上がらない。
耐久:4。これも強そうには見えない。殴られたら一発で倒れる程度なんだろう。
魅力:2。数字まで俺をバカにしているようで、胸が痛んだ。
太ってチビ。まさしく、俺の“クズスペック”がそのまま画面に映し出されている。
けど――最後の一行が異様に光って見えた。
資産:¥0(+100/日)
資産? 金のことか?しかも“日ごとに増える”って……どういう意味だ?宝くじでも当たるのか、それとも口座に勝手に振り込まれるのか。
考えても答えは出ない。俺は混乱しながらも、その日は何事もなかったかのように家に帰った。
疲れ切った体でベッドに倒れ込みながらも、あの画面のことが頭から離れなかった。
もし本当に金が増えるなら、あの連中に仕返しできる。
もし身長や体重も変わるなら――俺は、俺じゃなくなる。
期待と不安が入り混じり、胸の奥がざわめいて眠れなかった。
妄想が膨らんでいく。
もし金が手に入れば、最新のスマホを買える。ブランド物の服を着られる。誰もが振り向く女の子を連れて学校に来られる。
ありえない夢物語だと分かっていても、目を閉じると光景が鮮明に浮かんでしまう。俺はその甘美な未来像にすがるように、浅い眠りへ落ちた。
―
次の日。朝起きて、なんとなく財布を開いた俺は絶句した。
「……100円、増えてる?」
昨日、確かに小銭はゼロだった。だが今、財布の中には新しい百円玉が一枚だけ、ぴかぴか光っている。硬貨は冷たく、確かに現実に存在していた。夢じゃない。
慌ててステータスを呼び出す。すると――。
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【ステータス】
・身長:159.9cm
・体重:72.3kg
・資産:¥100(+100/日)
―
「……伸びてる?」
身長の数値が0.1センチ増えていた。体重も、わずかに減っている。
正直、この程度では体感なんて一切ない。背が伸びた実感も、痩せた実感もない。だが数字は確かに変わっていた。
もし、この積み重ねが毎日続くのなら――。
俺はその画面を食い入るように見つめ、震える声で呟いた。
「これ……本当に、俺の人生を変えられるんじゃ……」
昨日までの絶望が、ほんのわずかに希望へと塗り替わる。
心の奥底で、“逆転”の二文字が、はっきり芽生えていた。
……今まで俺を笑ってきた奴らに、
この“数字”で、全部見返してやる。
――この瞬間から、俺の“努力”が始まった。
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