始まりの白
1話目で少し短めになっています。短い空き時間などにどうぞ。
目の前の景色一面に広がるのは色鮮やかな花と雲ひとつない綺麗な青空__。
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目の前に広がるのは色鮮やかとは無縁の白。
ただ、白いだけの天井を見上げ、ぼんやりとさっきまで見ていたはずの夢を思い出す。色とりどりの綺麗な花と雲ひとつない綺麗な空、それを見上げる影が二つ。あの夢は一体なんだったのだろうか。
「__目が覚めましたか、萩原さん。」
ふと、聞き覚えのない声がした。声の方を向くと見知らぬ人が立っていた。格好からしておそらく看護師だろう。ということは、ここは病院か。今初めて自分が置かれた状況の一部をようやく理解できた。そもそもなぜ、自分は病院のベッドに横たわっているのだろうか。正直、目を開ける前のことを覚えていない。否、眠る直前の記憶だけが抜け落ちているのだ。幸い、目立った外傷はない。誰かに刺されたという訳ではなさそうだ。だとしたら、誰かに突き落とされたのだろうか。もしくは、なにかのきっかけで倒れたのか、何も思い出せない。自分はなぜここにいるのだろうか。
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昼頃、母親と父親が病室にやってきた。
「ほんまに目ぇ覚めてよかった。ごめんねえ、あんま来れへんくて。」
そう言いながら、母は涙ぐんでいた。泣くほど…どれほど自分は眠っていたのだろうか。
「ねえお母さん、私、どんくらい寝てたん?」
と聞くと、
「そやなあ。2週間とちょっとくらいかなあ。その間は点滴とかでどうにかしてもらってた感じやね。」
__2週間。この2週間で一体どれだけの人に心配をかけてしまったのだろうか。あとできちんと謝罪と感謝を伝えようと思った時、看護師から声を掛けられた。
「萩原さんの体調次第ですが、今後体調の悪化が見られない場合は、退院してもらっても大丈夫との事です。」
それを聞いて安堵している母を他所に、ふと窓の外を見る。そもそもなぜ自分が入院しているのかも分かっていないやつに退院なんて言葉を聞かせたところで喜べるはずもないだろう。そんなことを思いながら窓の外に広がる綺麗な青空を見ていた。
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青空を眺めていると、再びさっきまで見ていた夢を見た思い出した。綺麗な青空と綺麗な花畑。曖昧な夢で細かいところはまるで記憶にない。ただ、妙に温かくて、優しく、どこか懐かしさを帯びたただぼんやりとした感覚だけが頭に残る。一体あれはなんの夢だったのだろうか。誰かとの記憶か、はたまた知らない誰かの知らない物語。どちらにせよ、自分には関係無いはずだ。関係ないはずなのに。頭からあの優しさが消えないのは何故なのだろう。考えても仕方の無いことだ。それより今は__。
「お母さん。私なんでここにいんの?なんかあったん?」
まず、自分がなぜここにいるのか。それが分からない限り、これからするべきことも見当たらなくなる。
「実はさ、倒れる?前のこと、あんま覚えてなくて、何があったか分からんねん。」
母は驚いた顔で、私を見たが、すぐに、無理もないか。という顔をして話し始めた。
「あんな?実は私らもよお分かってへんのよ。ただあんたが家の前の階段で倒れてて、見つけてくれたら近所の人が救急車とか呼んでくれたんやけど、そんときにはもう犯人?はおらんくて、そもそも誰かにやられた確証もないからなんとも言われへんねん、ごめんなあ。」
そうか、自分が倒れたとき、周りには自分しかいなかったのか。目撃者がいなければ誰に何を聞いても同じ返答が返ってくるだけだ。ならば、聞くだけ無駄か。
だが、それならどう皆に説明したものか…。自己紹介が遅れたが、私は芸能活動をやっている。子役の時代から芸能界で生きてきた。そのため、今もそれなりの数のファンはいるし、ライブもそれなりもキャパでやらせてもらっている。2週間もの間音沙汰がなければ心配をかけて当然の人達がいるのだ。すぐにでも会見でも開いて謝罪と感謝を述べたいところだが、原因が分からず休んでいたとなれば、怪しくなってしまう。
それで週刊誌などに付きまとわれるのもごめんだ。
だからって適当な嘘でファンたちに誤魔化したくもない。大雑把にはなってしまうが、『体調不良だった』と伝えるのが1番無難だろう。あとは、どんなタイミングで言うのか、それが重要だ。無駄に騒がれてる時期に言ってしまうと、変な誤解が生まれてしまうこともこの業界では少なくない。どうしたものか。そんなことを考えてるうちに、母も父も帰宅し、病室に1人、辺りは静まり返って、日は傾いていた。
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次の日の昼頃、今度は学校の友人たちが見舞いに来てくれた。昨日、先生から私が目覚めたと報告を受けたらしい。友人たちも私が倒れた理由はさっぱり分からないらしく、目覚めるか分からなくてとても不安だったと泣き疲れてしまった。心配をかけてしまって申し訳ないと思う一方で、やはり、自分がなぜ倒れたのかが、気になってしまう。考えても仕方がないと分かってはいる。目撃者どころか、本人すらも記憶が無いのだ。一体あのとき何があったのか。
「ほんまにどうしたん!?私急に芭薙が学校来んくなって、先生から倒れたとか聞かされるし、病院来てみたら、なんか死んだように寝てるし、まじでもうこのまま目ぇ覚めんかったらどうしよって毎日考えてたわ。」
そう言われてしまうと、本当に申し訳なくなるが、こちらにはどうしようもないので、謝っても意味が無い気がする。
「ほんまにごめんな。めっちゃ心配かけたよな、でも私もう平気やで?全然元気やし、体調もどこも悪いとこないもん。すぐ学校行けるようになるから、多分。」
「多分がいっちゃん怖いわ!!ほんまやめてや?学校行って速攻で倒れちゃったーとかなったらもう私学校来んと一生病院居とけって言うからな!!」
「はいはい笑」
今日見舞いに来てくれた友人二人は小学校からの親友だ。昔馴染みなだけあって、沢山見舞いに来てくれていたようだ。二人は優しいからきっと沢山心配をかけてしまったのだろう。私が目覚めたと聞いた時、少しでも安心させられてたら幸いだと心から思う。そんな親友二人からの愛情をひしひしと感じながら、目が覚めてから消えてくれない、倒れた理由と、夢。あの夢はあの日以来見ていない。それが、少し寂しく思えてしまうのは何故だろうか。そういえば二人が見舞い品を持ってきてくれてたな。中身はなんだろう。そう思ってあけてみると、青いアザミが入っていた。
(そっか、二人ともやっぱ優しいな…。)
私は昔から花が好きで、花言葉は大体覚えている。
青いアザミの花言葉は、「安心」。やはり、二人には心配をかけてしまっていたのだろうが、青いアザミを送ってくれたということは、目覚めたと聞いて安心してくれたのだろう。最もそれをことばにせず、花言葉で伝えてくれるあたり、二人らしくて、自慢の親友だと心から思った。私にとって、花は大切ですごくすごく特別なものであることをあの二人だけは知っている。その理由が、なんであるかも、全部知っている。
なにせ、小学生の頃起きた出来事で失ったものは二人も私も、決して少なくはないし、とてもとても大きなものだったから。私だけじゃない。二人にも大きな傷を与えた人物。その人を忘れない為にも、その人を想っているという証明の証でもあるのが花なのだ。なんの花、どんな花、そんなものは関係無い。ただ、花が示す人物。それだけだ。忘れたくなくて、忘れられなくて。あの日以来、二人の親友は私がケガや病気になる度に見舞い品として花を送ってくれた。それは、見舞いの意味も兼ねているが、それよりももっと大きくて、もっと大切な温かいなにかが私を守ってくれるように、二人が気遣い続けてくれた証なのだ。そして、今も尚、私の身に何かあった時二人はこうして花を送ってくれる。優しい優しい花言葉を添えて。
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次の日は、誰も来ない。理由は簡単。ど平日だからだ。元々、ここの病院はそんな都会に立てられた場所じゃない。マネージャーが気を利かせて田舎の人が少ないところを選んでくれたからだ。街の中心部から離れている分、平日に簡単に来れる場所じゃない。さて、今日は何をしようか。特にしたいこともない、というかやりたくてもできないのが現状だ。本当はもっと運動したりしたい。でも今は運動どころか歩くことすらおぼつかないのだ。さっきはああ言ったものの、実際はリハビリすらまだまだの状態で学校なんて以ての外だった。早く学校に行って皆に会いたいなあ。なんて思ってるだけで全然行ける気なんてしないのだが。
「萩原さん、お昼の時間です。昼食をお持ちしました。」
そう言って入ってきたのは看護師だった。もうそんな時間か。そうして運び込まれた昼食を口に運びながら私が考えていたのはやはり、倒れる前のことだった。いつになっても思い出せない。でも、何故か忘れてはいけない気がしていて。思い出そうとしても白いモヤがかかったようにさらさらと消えていってしまう。いくら考えても同じで、最早どうでも良くなってきてしまう。
(早く皆に会いたいな…)
何もすることがない病室の中にずっと閉じこもっていればやはり考えることなど出てこない。同じことがずっとぐるぐる回っているだけだ。もしかしたら疲れているのだろうか。もう一度眠って、朝起きたら考えよう。そう思って私は眠りについた。やけに静まり返った病室には沈黙だけが辺りを埋めつくしていた。あの日と同じように__。
さあ1話目は少しお話が短くなってしまいましたが、まだまだ1話目ですのでご安心を。今回のお話、二人称三人称ばかりで名前が分からないキャラが多かったなと思いません?私も思いました。なので!!今回本編とは別に1話で登場して頂いたキャラ紹介をしていこうかなと思います!!!
まずは、本作の主人公
萩原芭薙 高校2年生の16歳!!好きな食べ物はお母さんの作る餃子です!!
続いて母と父
萩原百合と萩原尚人です!!
最後に友達2人!!
身長は低めで毒舌気味?な芭薙の幼なじみ
柚木遥歌 高校2年生16歳!!
もう1人は、身長高めのお姉さん芭薙の幼なじみ
江藤望菜 高校2年生17歳!!
舞台は夏の始まり7月上旬の大阪。田舎の病院に入院した芭薙は目覚める前にある夢を見ていた。思いだすことは出来ないけど、暖かい優しい夢。その夢が大事な鍵だとかそうじゃないとか?少し不思議な花言葉の世界と優しい愛の物語です。どうぞお楽しみくださいませ。