― 芙蓉 ―
不思議な空と白い花が迎えてくれる『芙蓉』。
重い荷物を持っていようが、何も気を使わない案内人の浮世感。
中心の東屋で、翁とDr.と会った。
「おやおや、これはお土産かな?」
「別にあげてもいいですけど、ノウトへ行かせてくれたら、で」
「地味に難しいこと要求しますね」
ルイを椅子の上に置く。
「とりあえず、倒すことは出来ました。翁、ありがとうございます」
アンリは青の翁に礼を言った。
「いや、がんばったの」
うんうんと首を振りながら、お茶を飲んでいる。
「紫の。僕にお礼はないのかい?」
「そうですね。特には」
黄のDr.は、眼鏡を指でくいっと上げ、フンっといじけて見せた。
「それで、彼女は手当てをしたほうがいいと思うのですが」
「おや、いいのかい? 次にチャンスがあるとは思えないけど」
「ええ。かまいません。そのときはまた修行しますよ」
「じゃあ、緑の淑女に頼もう。ちょっとーーーー」
Dr.は常に控えている女性を呼んだ。この人たちは虹でもなく人でもないのだろうか。
「淑女にすぐ来てって伝えておいて」
「じゃあ、それまで乾杯しようかの。ほい。おめでとさん」
他に誰もグラスを持っていないのに、翁が一人で飲んでいる。いや、あれってお酒じゃなくてお茶なのでは。
「さあさあ、座ってご飯でも食べてお茶も飲め」
テーブルに、豪華な食事を並べてくれた。おなかがすいていたことを思い出し、話半分で早速食べ始めた。少しルイに悪いなと思いつつ。
「わたくしを急かしておいて、自分たちは悠々と食事ですか」
淑女さんがもう来た。名前わからないのって不便だな。会釈だけして食べ続ける。
「食べたきゃ食べていいですよ」
「結構です。用とは何ですか?」
「コレ」
Dr.がルイを指す。
「赤の。ずいぶん壊れていますね。紫の。あなたのせいですか?」
「あ、はい。すむまへん」
「服を破かずに、傷をつけたり骨を折ったり。器用ですね」
「は、はぁ……」
淑女はルイを検分している。
「いいでしょう。ちょうど使いたい薬品もあったので、引き受けます」
「ほねはいひまふ」
「紫の。口の中を綺麗にしてから話しなさい。それから、あなた方からの接触は一切禁止です。では」
アンリは一気に喉のものを流し込んだ。
「あ、俺、運びます」
「不要です」
緑の淑女は、ルイをハンドバッグのようにして抱えて行った。
「マジか」
心の声が漏れるようになった自分に初めて気が付いた。