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第6話 異世界の朝ごはん


 セイディが給仕の際に顔を真っ赤にしているのは、レオとエレナが原因だった。一方で当の2人はすっきりした様子で朝の紅茶に口をつけている。


「ほ、本日の朝食は焼きたてのバタールと3種のチーズ、それからミックスリーフのサラダと……」

 セイディは丁寧にテーブルに並んだ料理の説明をした。レオは柔らかいチーズを切られたバタールに塗ってかじりつく。焼きたてのパンの美味しさに驚きつつも、その次に口に入れた野菜のスープが物足りなくて彼はリアクションに困った。

(なんだろう、やっぱりこう旨味が足りないような)

 転生者である彼にとって幸運だったのは、彼の生まれた時代が、国際化の時代が進み日本でも西洋食が食べられる時代だったことだろう。

 どうやら、彼が転生したこの世界・国では西洋風に非常に近い食生活らしい。

「エレナ様、暖かいミルクが準備できました」

「ありがとう、セイディ」

 エレナは先ほどまで飲んでいた紅茶を下げさせて、暖かいミルクを受け取った。

「レオ様、バタールをお切りしましょうか」

 セイディは俺の皿が空いているのを確認すると、バタールやらバゲットやらが入ったバスケットを乗せたカートでレオの横につけた。

「あぁ、じゃあさっきと同じのを」

「はい、レオ様は薄めですね」

「ありがとう」

 レオが礼を言うとセイディは少し驚いてから嬉しそうにバタールをカットした。一方でエレナはうっとりとした表情でレオを見つめている。

 レオは小さい大きさで揚げられたハッシュブラウンや豆のトマト煮を食べ、昨夜の激しい運動で消費したカロリーを摂取する。食材の全てが転生前の世界と同じものではないが味は変わりなく彼は美味しくいただいた。

 昨夜は味気のないスープだけだったが、レオは今日の朝食を見てからディナーが楽しみになった。

 何よりも、エレナが一緒に食卓についてくれることも彼にとっては嬉しかったし、メイドが何でもかんでもやってくれると言うのが新鮮で最高だと感じている。

「キルマージュ夫人、おはようございます」

「ごきげんよう、セイディ。あら、レオにエレナ。おはよう」

 キルマージュ夫人、つまりはレオの実母であるディノア・キルマージュが食堂へと入ってきた。彼女はレオにそっくりの金髪碧目で40前後とは思えないほど美しい。

「おはようございます。ディノア様」

 エレナが挨拶をすると、ディノアは不満そうに口を尖らせる。

「エレナ、お母様と呼んでちょうだい」

「お、おはようございます。お、お母様」

「よろしい」

 満足げに微笑むとディノアは執事のエスコートのもと、席についた。それからレオの方をじっと心配そうに見つめる。

「昨夜のこと、使用人から聞きましたよ。レオ、体の方は?」

「問題ありません、母上」

「そう、ならいいのだけれど……エレナ。もう少し食べなさい」

 食事をやめようとしていたエレナに釘を刺してからディノアはレオへの質問を続ける。

「貴方に異能が目覚めた……というのは本当なのね」

「はい、昨日の演習中に治癒魔法を使用しネイト先生の傷を治しました。ただ、もう一度使えるかどうかはわかりません」

「研究所の人はなんと?」

「特に問題はない……と。あらぬ疑いもかけられましたが父上が研究所の人たちをおさめてくださいました。もちろん、僕自身もやましいことは何も」

「レオ。何か体に異変があればすぐに誰かを頼りなさい。貴方は我がキルマージュ家の跡取り息子なの。何よりも貴方が生きることが重要なの」

「心得ております」

「よろしい、セイディ。エレナにもう一つオムレットを作るようにシェフに伝えておいて。エレナ、貴女は痩せすぎよ。もう少し食べなさい」

 エレナは困ったように笑ったが、セイディに目配せをして追加のオムレットを頼んだ。

(孫の顔が早く見たいんだな、お母さんは)

「僕も追加でもらって良いかな」

「はい、伝えてまいりますね!」

 セイディが部屋を出る前に返事をして慌ただしく走っていく。ディノアの執事は彼女のためにサラダを小さく取り分け、バタールにスライスしたチーズを乗せた。

「エレナ、今日の午後仕立てに行きましょう」

「仕立てに?」

「えぇ、レオが異能に目覚めたと言うことはこの先、勇者になる可能性も高くこれからさまざまな公の場に出ることになるでしょう。そうなれば、貴女もレオの妾として共に出てもらうことになるわ」

 エレナが緊張してピンと背筋を伸ばした。

「で、でも私は……」

 エレナが「娼婦なのに」と言う前にディノアが

「自覚しなさい。貴女はキルマージュ家の人間なのよ。レオに正式な婚約者がいない以上、今は貴女がそのお役目を果たす必要があるの。今日から家庭教師をつけて勉学にも励んでもらいますからね」

 エレナは慎ましやかに「はい」と返事をしたがその表情がどこか嬉しそうだとレオは思った。

「貴方もですよ、レオ」

 突然、言葉の刃を向けられてレオはビクンと肩を震わせた。

「はい、母上」

「貴方にはキルマージュ家の時期当主として自覚を持った行動をしてもらわないと。勇者とまでは行かなくても、お父様と同じ地位までは最低でも」

「もちろんでございます」

(俺はこの世界では好きにやるって決めたんだ。目標はデカければでかいほど良い。勇者にでも騎士団長にでもなって、この世界から魔物を排除する。そんでヒーローになって)

 とレオが興奮していたら、エレナと視線がぶつかった。

「レオ様、エレナも応援しておりますから……その」


「追加のオムレットでーす! エレナ様のはキルマージュ夫人のリクエストでミートソース入りです」


 ディノアは口元をナプキンで拭いてから


「エレナには勉強だけでなく早く赤ん坊を産んでもらわないと」


 と食卓ではマナー違反になりそうな発言を堂々としてエレナとレオが真っ赤になった。


 



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