~~後編~~
【キャラクター】
・ユウキ
ヒーロー資格試験を同率最下位で通過した一人。
現在、ヒーロー組織「特異局」のとある支部所属。
何に対しても真っ直ぐな少女だが、頭でっかちになってしまう一面も。
・ヒロ
ヒーロー資格試験を同率最下位で通過した一人。
現在、ヒーロー組織「特異局」のとある支部所属。
常に落ち着き現状を正確に把握することができる。「切替」が口癖。
・由梨
常にオドオドしていて、小心者な性格。成人女性だが低身長なのがコンプレックス。
先輩にも関わらず、周りからは小動物的ポジションとして扱われているようだ。
とある特異局支部では、ナンバーツーとして活躍している。
・謎の男
30代後半ほどの男性。グレーのファーマルオーダーメイドスーツを着ている。
丸渕のメガネをかけた、知性的な印象を受ける人物。
変な男と被り。
・変な男
40歳前後の男性。第一印象はオッサン。近づくと匂う。
どこか掴みどころのない、飄々とした態度をしている。
謎の男と被り。
・ランダ
中性的な人物。どこか妖艶な雰囲気があり、性別問わず人を惹きつける。
会話による心理操作に長け、かつ、相手の心理状態を掴むのが特異。
・土蜘蛛
攻撃的な性格の男。所作や話し方においても、その性格が色濃く出ている。
首から下の全身にかけて刺青が入っている。
好きなものは、1に暴力、2に女。
【配役表】
────そして英雄は斯く吼える────
作:さもえどさん
比率;2:2:2
□ユウキ(♀)
〇ヒロ(不問)
△由梨(♀)
●謎の男/変な男(♂)
■ランダ(不問)
▲土蜘蛛(♂)
(名前の□や●などのマークで検索いただくと、兼ね役も一緒にマーキングできます)
【台本について】
・本作は、拙作声劇台本「そしてヴィランは斯く嗤う」の後日談になります。
知らなくても勿論楽しめるかと思いますが、よろしければ前作もお楽しみいただければと思います。
・本作は、雰囲気を楽しんでいただく為にルビを多数ふっております。
そのため、スマートフォンなど画面の小さいものですと、読みにくい可能性があります。
可能でございましたら、是非、パソコンやタブレットなどの端末でお読みいただければと思います。
・本作は、テキストサイトに転用は非推奨になります。
ルビを多用しているため、テキストサイトだとさらに読みづらくなっております。
・仲間内で楽しむのは勿論、配信サイトで公演したりしていただいても問題ありません。使用報告は義務ではありませんが、ツイッターのDM等で教えていただけると泣いて喜びますし、何卒、拝聴させていただければと思います(土下座)→ Twitter: @samoedosan
・台本上映の際は、営利、非営利を問わず、作者名と台本名、台本のURLの明記をお願い致します。
・性別転換やアドリブは、共演しただく方が不快に思わなければ大歓迎です。ぜひ皆様で、この台本をもっと面白く、楽しくして頂ければと思います。
・台本に関する著作権は放棄してません。が、盗作や自作発言等、著しいものでなければ大丈夫です。
~~~~シーン⑥~~~~
▲土蜘蛛:クソが。まんまとしてやられたな。
■ランダ:本当にね。あの男の考えそうなことさ。
▲土蜘蛛:食えねェ野郎だ。ま、仕事は果たした。後はどうぞお楽しみくださいってナ。
■ランダ:という割にここで居残り残業かい?
▲土蜘蛛:まァな。
■ランダ:どういう風の吹き回しなのかな。
▲土蜘蛛:単純な答え合わせだヨ。あの薄ら寒さ。確かめておこうッテな。
■ランダ:おや珍しい。
▲土蜘蛛:そう言うテメェはなんでここにいる?
■ランダ:そんなの、単純明快なことさ。
▲土蜘蛛:あぁ?
■ランダ:物語の終着点を、この目に焼き付けたい。ただ、それだけさ。
〇ヒロ :これは……!
□ユウキ:敵が……!
△由梨 :分裂した……!?
●謎の男:月並みで申し訳ないがね。本物はどれでしょう? お理解りになられますかな?
△由梨:な……っ!
●謎の男:それでは────、参りましょう。
□ユウキ:合わせろ、ヒロ!
〇ヒロ :そのつもり!
■ランダ:始まったね。
▲土蜘蛛:あぁ。
■ランダ:さぁ。見えるものと感じるもの。そこにあるもの、満ちているもの。
その綻びを、見つけられるかな?
▲土蜘蛛:この初撃、沈ンでくれるなよ? ガキ。
〇ヒロ(M):数は12。この中の一人が本物だとすれば、確率は12分の1……?
それとも、本物とダミーでは何か差異がある? でもとりあえず……!
●謎の男:はあッ!!
〇ヒロ :六天流、穹身。“逆落瞬歩”。
●謎の男:なっ、消えた!? ぐあぁっ!
〇ヒロ :まずはひとり。
●謎の男:まだまだ終わらんよッ!
〇ヒロ :知っている! 六天流、嵐身。枝垂桜”!
●謎の男:また消えた!? 今度は足元! ────ぐあッ!!
〇ヒロ :ふたりめッ!
■ランダ:……へぇ。やるねあの子。
▲土蜘蛛:はァン。だいぶ違和感の正体が理解ってきたゼ。なかなかに底の知れねェガキだ。
■ランダ:恐らくあの子の武器は、瞬発的な加速。一瞬で相手の死角まで潜り、
超接近間合から不可避の一撃を繰り出す。
▲土蜘蛛:それだけならマァ、1、2手ありゃ気付ける様なカンタンなカラクリだ。
だがアイツは、それだけの器ジャ収まらねェ。
■ランダ:12以上の“同一の目”を欺いた。これだけでも、驚異的なスキルだ。
▲土蜘蛛:ただ12人の死角を突くのとはワケが違ェ。それら全てが一個の目なンだからよ。
■ランダ:それぞれの距離や配置。常に目まぐるしく変化するそれらの状況を捕捉。
▲土蜘蛛:加えて、視界のアナを作り出す視線誘導技術。考えただけでも鳥肌モンだな。
こうやって俯瞰的に見なけりゃ、気付かねェ芸当だ。
■ランダ:しかし、だからこそ。彼には一歩届かない。
▲土蜘蛛:それこそ最悪の相性だッタ。それだけの話だ。
■ランダ:あの子はここで死ぬ運命だったんだね。
〇ヒロ :5人目ッ!!
●謎の男:ぐあぁああっ!
〇ヒロ :あと7人! 各個撃破でカタがつく!! イージーゲームすぎるなラスボス!
●謎の男:これはこれは……! 予想外に手ごわい。であれば畳み掛けるとしよう!
〇ヒロ(M):一気呵成の攻撃……! ここを捌ききれば!
敵は1人、残りは幻覚。どれが本物か理解らない以上、全ての攻撃を避ける必要はあるけど……。
これなら、やれるッ!!
●謎の男:────と、思っておいでなのでしょう?
〇ヒロ :は……?
〇ヒロ(M):後ろ……? いつの間に背後に立たれてた!? 向かってきている敵は7人、減ってないッ!!
まさか……! まさかッ!! “分身の中に本物がいる”ことそのものが嘘……ッ!!
●謎の男:絶望を、お見せしましょう。
〇ヒロ(M):必殺の間合い! 超接近での攻撃。こっちは体勢が整ってない! 回避は不可能……!
まずい、まずい、まずいまずい────ッ!!
●謎の男:まずは、ひとり。
間
〇ヒロ :────と、思っておいでなのでしょう?
●謎の男:なに……!?
□ユウキ:オイ。楽しそうだなぁ。オレを忘れてよ。
●謎の男:なッ!! いつの間に!!
□ユウキ:獄炎の拳骨!
●謎の男:くっ……! ぐあぁっ!
■ランダ:あの子猫ちゃん、なんで……?
▲土蜘蛛:撒き餌、だナ。
■ランダ:撒き餌? ……なるほど。
▲土蜘蛛:そう。この戦闘における主人公は男の方じゃなく、あの女だったってことさ。
■ランダ:視線を少年に集中させて、最大の隙を生ませ、そこを狩る……。
▲土蜘蛛:理解ってきたぜ、ガキどもの歪さがヨ。
●謎の男:くそ……ッ! “蜉蝣満る桃源郷”!
〇ヒロ :消えた……! どこに……!
●謎の男:狩り取るッ!!
〇ヒロ :足元……!?
□ユウキ:おらぁッ!!
●謎の男:チィッ!! なかなかに目障りですね! あなたはッ!!
□ユウキ:テメェもなッ! 獄炎の鉤爪!
●謎の男:だが単調! 受けるのも容易い!! “蜉蝣満る桃源郷”!
△由梨(N):ユウキの背後に、5人の分身が出現する。されど彼女は、意にも介さない。
本物だけを見据え、連撃を繰り出していく。
●謎の男:異能が効いていない……? いや、今までは術中にハマっていた。
だとすると、視覚情報ではない何か……!
□ユウキ:喰らえッ!!
●謎の男:ぐ……ッ! 体勢を崩され……!
□ユウキ:そこだッ!! 一刀・獄炎ッ!!
●謎の男:だが……ッ! まだ甘いッ!!
□ユウキ:なっ!? 避けられた!?
●謎の男:状況一転、隙だらけだッ!!
□ユウキ:しま────ツ!
〇ヒロ :六天流・嵐身。“御木砕”。
●謎の男:なにッ!? ぐあッ!!
△由梨 :やったっ! クリーンヒット!!
●謎の男:く……! またキミは、死角からの攻撃ですか……。しかしそれでは威力がまるで足りない……!
〇ヒロ :チッ! 急所外した……!
●謎の男:紙一重、針の穴を通すような攻撃をする!
しかし悪いね、一度仕切り直しにさせてもらおうッ!! ふッ!!
□ユウキ:くっ! 煙幕!?
●謎の男:少々君たちを過小評価していたようだ。
私の英雄知恵参集に、君たちの情報を記載しなかったことが悔やまれる。
本当に資格試験最下位かい?
□ユウキ:ちくしょう、煙の臭いで位置がわかんねぇ……ッ! どこに居やがる!
●謎の男:正直、この奥ノ手を使うのは気が引けますが……。
これは、事前準備を抜かった私への戒めとしましょう。
△由梨 :すでに勝ったような物言いを……!
■ランダ:ついに始まるんだね。終わりの始まりが。
▲土蜘蛛:あぁ。英雄の教示、しかと見届けよう。
■ランダ:これからは……。そうだね。さしずめ終焉狂乱遊戯といったところか。
英雄達よ。お手並み拝見といこうじゃないか。
~~~~シーン⑦~~~~
●謎の男:さぁ、英雄よ。我正しきと自称する異能の使い手どもよ!
その在り方を! 己が正義の道筋を! 魂があらんとする場所を!
私に! 民草に! 斯く示す時が来たのです!!
そのお手伝いを、僭越ながらこの私がさせていただこう!
□ユウキ:お断りだなッ! 面倒な予感がプンプンしやがる!
●謎の男:此度ばかりは聞く耳を彼方へ置いてきた! ではご狂乱いただこう……!
間
●謎の男:“蜉蝣満る桃源郷・魅惑の傀儡箱”。
△由梨(N):瞬間。氷山に亀裂が入るような緊張感が、一帯を支配する。
何が起こったのかは理解らない。けれど、そこに確かにある異変が、少しずつこの場を侵食しているのが分かる。
□ユウキ:なんだ、足音……?
△由梨 :あ、足音……?
□ユウキ:普通の足音じゃねぇ。ひどく不安定で、不規則な……。しかも、一人二人なんてもんじゃねぇぞ。
十、二十。もしかしたらもっとか……!?
〇ヒロ :煙幕、晴れる!
□ユウキ:来るぞ!!
△由梨(N):辺りを囲む、人、人、人。虚ろな瞳を向けて、ゆらゆら、ゆらゆら。
意思なく揺れる彼らの服装には、いくつかの規則性があった。
□ユウキ:あいつら……、あの制服は、ヒーロー校生徒じゃねぇのか?
△由梨 :それだけじゃないですぅ……! キャストさん達もいます!
□ユウキ:それに、別局のヒーロー達も。それでもプロかよ、だらしねぇなぁ。
○ヒロ :切替。のほほんとしている場合じゃないかも。
△由梨 :そうですぅ! 明らかに彼ら────。
●謎の男:ご明察ですなぁ。これが、私の異能。蜉蝣満る桃源郷の真の力。
さぁ。その選択は、果たして。あなた自身の選択ですかな?
△由梨 :どういう意味ですか!
●謎の男:お気になさらず。ただ、あなた方は魅せてくれればいい。
蹂躙せよ、支配人形ども!!
□ユウキ:押し寄せてくるぞヒロ! 数は!!
○ヒロ :85から95!
△由梨 :ヒーロー達はともかく、生徒とキャストさん達は一般人ですぅ!
〇ヒロ :理解ってます!
□ユウキ:全員無傷で敵だけぶっ飛ばす!
△由梨 :援護はやります! でも、あんまり期待しないでくださいぃ!
まだカロリーが吸収できてなくて……!
□ユウキ:ご心配無用! 自分のケツは自分で拭ける! 迎え撃つぞ、ヒロ!!
〇ヒロ :了解! 加速する!!
■ランダ(N):傀儡の群れが押し寄せる。圧倒的不利だ。
しかし、少年少女は怯まない。
□ユウキ:無双系ゾンビゲーってかッ!? いいねぇいいねぇ!
超難易度度合いがちょうどいいッ!!
▲土蜘蛛(N):直進突破の爆炎少女。一撃で数人の意識を刈り取っていく。
とはいえ敵に対する手数が足りない。討ち漏らしの傀儡が襲い来る。
〇ヒロ :その間合いに入るには、通行手形不足です……よッ!!
■ランダ(N):だが、その強襲は届かない。疾走する少年が討っていく。
燃え盛る少女の周りを翔けるその様は、輝く星の衛星。
瞬く間に10、20と地に伏せた。
●謎の男:────やはり、お二人の核はあなたですねぇ、少年。
〇ヒロ :また……! いつの間に後ろに!
●謎の男:あなた方の定石を、破綻させましょう。
△由梨 :ヒロさんっ!!
□ユウキ:────なら、テメェの定石も破綻だな!!
獄炎の鉤爪ッ!!
●謎の男:な……ッ! チィッ!!
□ユウキ:こいつ、守備が速えぇ! いつでも回避や防御ができる体勢でいやがる!
●謎の男:恥ずかしながら、戦闘向きの異能ではないものでね……!
□ユウキ:逃げんなッ! ……クソ、どんどん後ろに退きやがる!
●謎の男:単調、一律、一本気! いくら一撃が重かろうとも、当たらなければ意味がないですなぁ?
□ユウキ:コイツ……ッ!! ぜってぇブッ殺すッ! 焔獄刺突弾!
●謎の男:体から火炎の短刀!?
□ユウキ:発射ッ!!
●謎の男:飛んでくる! 中距離攻撃か!! しかし狙いが……甘いッ!!
□ユウキ:叩き落すか! だが足は止まったなぁッ!?
●謎の男:急接近!? 接近戦型とは相性が悪い!
□ユウキ: 一刀・獄炎!!
●謎の男:おぉっと!! だが単純! 安易過ぎて欠伸がでますなぁ?
□ユウキ:クソが……ッ! 殺す、殺す……ッ!
●謎の男:おぉ怖い怖い。しかし良いのですか? 私にばかりかまけていても。
……オトモダチが独りぼっちですぞ?
□ユウキ:……ッ!!
■ランダ:嵌められたね。
▲土蜘蛛:あぁ。
■ランダ:爆炎の子猫ちゃんをひきつけ、もうひとりを孤立させる。
それが純悪たる愚者の狙い。
▲土蜘蛛:支配人形はマダ半数以上残ッテいる。小僧ひとりジャァ潰されて終わるな。
■ランダ:なんだ、あっけない。
▲土蜘蛛:いや、まだだ。
■ランダ:えっ。
▲土蜘蛛:ヤツらの歪は、マダ深ェはずだ。
■ランダ:……?
●謎の男:さぁ、再び示すのです。あなたの英雄を。
ここで私を打倒りにいくのか。オトモダチに加勢するか。
□ユウキ:────何理解りきったことを聞きやがる?
▲土蜘蛛(N):少女はさらに加速する。迷いなく、一直線に。倒すべき相手へ。
●謎の男:な、に……!?
□ユウキ:オレの敵は、テメェだ。クソ野郎。
●謎の男:く……ッ!
□ユウキ:獄炎の拳骨・剛烈弾。
▲土蜘蛛(N):瞬間。一閃の爆炎が、宙を薙いだ。
~~~~シーン⑧~~~~
■ランダ(N):一方その頃。少年は。
△由梨 :ヒロさんッ!! 一旦、退きましょう……! この数、あなたでは……ッ!
〇ヒロ :退きません。
△由梨 :ヒロさん!
〇ヒロ :兄ならきっと。こんな危機でも諦めない。
△由梨 :お兄さん……? た、たしか、幼い頃生き別れたっていう……。
〇ヒロ :再び兄と逢うまで、僕は死ねない。地を這ってでも生き延びる。
兄の覇道が正しかったと証明する。
△由梨 :敵が目の前に……!
〇ヒロ :…………切替。
△由梨 :ヒロさんッ!!
〇ヒロ :真実は光の傍に。
▲土蜘蛛(N):刹那。白く迸る閃光が放たれる。
手刀の様に見えるそれは、群がる支配人形を薙ぎ払った。
△由梨 :その光……、その異能は……?
〇ヒロ :隠しててすみません。これが、僕の異能。僕の異能は、光を物質化する能力。
半径1メートル以内の光しか物質化できないのが玉に瑕ですけど。
△由梨 :で、でも……、異能は、ひとりにつきひとつじゃ……。
〇ヒロ :六天流は、我が家に代々伝わる古武道。言うなれば虚勢です。
六天流が異能だと油断させ、一撃必殺を叩きこむ────つもりだったんですけど。
△由梨 :か、簡単に言ってますけど……! 異能だと思わせられるレベルまで武術を昇華させたんですか!?
〇ヒロ :夜とか光の無い所だと、ほとんど使い物にならない異能ですからね。
そんな弱点が理解りやすい異能、ホイホイ使えませんよ。
△由梨 :……。
〇ヒロ :さて。切り札は切ってしまった。こうなってしまえば、後は即興です。
鬼が出るか蛇が出るか。突き進むしかないでしょうッ!
間
□ユウキ:でやぁッ!!
●謎の男(M):……なんだ?
□ユウキ:ちょこまかと逃げやがって……! 一刀・獄炎!!
●謎の男(M):なんだ、この違和感は……!
□ユウキ:獄炎の拳骨!!
●謎の男:く……ッ! あなたが時間をかければかけるほど、オトモダチは窮地になる!
いいのですかな!? ここで私と遊んでいて!
□ユウキ:……そんなの、知ったことかよ。
●謎の男:何ッ!!?
□ユウキ:お前は悪者で、オレはヒーロー。ヒーローは悪者をぶっ飛ばし、悪者はヒーローにぶっ飛ばされる。
ただそんだけの単純な事だろうがよ。
●謎の男:貴様……!
□ユウキ:外野がどうとか知ったことか。悪者はオレが倒す。オレがヒーローであるために。
ヒーローとしてあり続けるために。その身体、その髄までヒーローとして燃え続けるために!!
●謎の男:貴様……、狂っている……ッ!!
□ユウキ:爆裂。
●謎の男:な────ッ!? 爆発を利用した瞬間移動!? しまった────ッ!
□ユウキ:剛炎のォ……ッ! 瞬爆獄炎拳────ッ!!!!
●謎の男:ぐ……ッ! ぐがぁぁああぁぁああぁぁッッ!!
間
●謎の男:(荒い呼吸)。
●謎の男(M):理解ったぞ……ッ! 理解ったぞ奴の異常性が……ッ!!
□ユウキ:立てよ悪者。まだ引導にゃ早ぇだろうが。
●謎の男(M):あの眼……! あの瞳!! 私を見ているようで見ていない、あの双眼!
奴の瞳に映っているのは、私ではない……! ただの敵ッ!! 倒すべきただの動く壁なのだ……ッ!!
□ユウキ:オレがオレであるために。誰かの支えであり続けるために。誰かの記憶に残り続けるために。
そのために。そのために。そのためにそのためにそのために────ッ!
間
□ユウキ:オレはお前を屠るぞ、悪者────。
間
●謎の男(M):────また、私は誰の目にも映らない。ここまで辿り着いても、まだ……ッ!
まだ私は、独りで、孤独で、煢然で薄淋しくて 寂寞で…ッ!!
これからも独りで、朽ちていくというのかッッ!!!!
────嫌だ。嫌だ嫌だ。嫌だ嫌だ嫌だ嫌だッ!!!!
●謎の男:私をッ!!!! 見ろぉぉおおぉぉおおぉぉッッ!!!! 英雄ッッッッ!!!!
□ユウキ:な────ッ!!? あれは、注射器!! しまった────ッ!!!!
間
〇ヒロ :その瞬間を、待っていました。
●謎の男:な……、にぃ……ッ!?
〇ヒロ :六天流・穹身。廻龍。
●謎の男:ぐぁッ!! くっ、注射器が……!
〇ヒロ :その脅威は理解ってます。勝利の欠片は、僕の手中にある。
□ユウキ:ナイス!! ヒロ!!
●謎の男:くそ……ッ! どんなに強力な異能だろうとも、こんな短時間で突破されるはずは……!
〇ヒロ :僕だけの力ならね。
●謎の男:なに……ッ!?
△由梨 :ふ、ふえぇぇええ……。1日2回のAround The World”はぁ……。
流石に空っぽ案件ですぅ……。だ、誰か……、燃料を……。燃料をぉ……。
●謎の男:守護要員ッ!!? あの大技を放てる贅肉を、まだ蓄えていたというのか────ッ!!?
〇ヒロ :あなたの切り札もここで切らした。仕舞としましょう。
●謎の男:幕引にはまだ早いさ! 英雄ッ!! 既知っているだろう!?
デッキに仕込まれた切り札は2枚であるとッ!!
△由梨 :な────!?
●謎の男:グ……、ンン……ッ!────クハァ……!!
□ユウキ:2本目、だと……!?
●謎の男:ククク……! アハハハッ!! あははははははッ!!!!
そちらの異能薬を使えなかったことはひどく惜しいですが、仕方がない!
こちらの異能も優秀ですからなぁ……!
□ユウキ:クソでけぇ力の奔流。来るぞ、ヒロ。
〇ヒロ :あぁ。
●謎の男:灰燼と化せッ!! “地獄の饗宴に華を宴を”ッ!!!!
▲土蜘蛛(N):四方八方。至る所で闇が蠢く。初めは靄のようだったソレラが、次第に形を帯びていく。
ソレラは、よたり、よたりと蠕動する、人型のナニカ達だ。
■ランダ(N):あらゆる部位が爛れ落ち、呻き声を漏らす。
臓物らしきモノが垂れ下がっている者もいる。
そしてソレラが一歩、一歩と動くたび、粘着性を伴った湿った音が嫌に耳に響いた。
〇ヒロ :数は……200? 300? 多すぎて数える気にもならないよ。
□ユウキ:一般人じゃないならやりやすい。それとヒロ、ラスボス倒すのはオレだ。邪魔すんなよ。
〇ヒロ :そっちこそ。奴は僕が倒す。兄に名が届くまで倒し続ける。サポートは任せたよ、強敵。
□ユウキ:ハッ!! おこぼれ拾いはテメェの仕事だろ、強敵。
●謎の男:ここを生きて切り抜けられるとでもッ!? 思いあがるなよ、英雄!!
行けッ!! プロミネント・インフェルノ! 愚か者どもを殺せッ!!
□ユウキ:薙ぎ払う!! 全力で行くぞ衛星!
〇ヒロ :仰せのままに、太陽。
□ユウキ:迸れ漲る血潮! その一切を烏有に帰す!!
“森羅万象燃え爆ぜる!! 湮滅皆無爆撃派”ッ!!!!
▲土蜘蛛(N):直径1メートルほどの火球。蓄えられた膨大なエネルギーが一気に放出する。
いくつもの亡者が飲み込まれ、爆ぜた。
■ランダ(N):しかし猛攻は止まらない。圧倒的不利、その物量差は、強力な異能があろうとも覆せず、ジリジリと押されていく。
●謎の男:くははははッッ!!!! 壊せ! 滅しろ!! 捻り潰せッ!!
四肢、魂、その須くを奪い尽くせッ!!!!
〇ヒロ :壊せるものなら壊してみせろ! 奪えるものなら奪ってみせろ!! 僕は悪者の全てを否定するッ!!
●謎の男:ぐ……ッ!? なんだ、この光は……ッ!!
〇ヒロ :悠久の時、突き進む一線! 天翔ける光芒、我が前に示せッ!!
“数多の真実は・光輝へ昇る”ッ!!
▲土蜘蛛:数十体の……、光の手!? あんなノ隠し持ってタのかよ!?
■ランダ:能ある何とやらってやつだねぇ。これは計算外だ。
▲土蜘蛛:どんどん亡者が減ッテ……! しかしマダ足りない……!
●謎の男:おのれ……ッ!! おのれおのれェッ!! 目障りな弱者が! 身の程を弁えろッ!
〇ヒロ :おまえこそ弁えろ悪者……! 策は詰んだ! 大人しく敗北っとけ……!
□ユウキ:ゾンビども焼き尽くしたら次はテメェの番だッ! 大人しくお座りしてろよ敗北者が!!
●謎の男:そもそも!! お前ら風情が英雄などと! 私は認めない!! 認められるものかッ!!
英雄の資格すら与えられないッ!!
□ユウキ:英雄の資格ぅ? なんだそれ。いらねぇよその概念。
●謎の男:なにぃッ!?
〇ヒロ :僕自身が────、
□ユウキ:オレ個人が────、
〇ヒロ :突き進んだ道こそが、僕を英雄たらしめる。
●謎の男:ならば、私はその一切合切を否定しよう!! 我が覇道を以て私を悪党たらしめよう!!
この身、この頭、この魂!! 我が全身全霊すべてによって!!
“蜉蝣満る桃源郷・強欲なる断罪”……ッ!!
△由梨 :ゾンビが分裂……!? どんどん増えてく!
□ユウキ:く……ッ! こんだけ多いと偽物か本物か嗅ぎ分けらんねぇ……!
●謎の男:やれ。プロミネント・インフェルノ。
□ユウキ:くそ……! どうするよヒロ!! なんか策はあるか!
〇ヒロ :そんなのあったら最初から使ってる……! ここを切り抜け、どうにかしてアイツに接近できればまだ……!!
□ユウキ:やっぱそれしかねぇよな……! ならやることは簡単!
────3分。3分だ! それでケリをつけるぞッ!!
△由梨(M):ユウキさんは、ずっと高火力で戦い続けている。燃料切れが近い……。
とはいえ、ヒロさんの異能で対処できたとしてもせいぜい50体が限界。敵の数はおおよそ500。
幻覚が多数とはいっても、1/3は殺傷能力ありです……!!
〇ヒロ :もっと僕に火力があれば……!!
●謎の男:ククク……! 服従せよ。さもなくば跪け。
ここまで私を手古摺らせた、せめてもの手向けです。あなたたちの異能は、私が有用に活用していきましょう。
〇ヒロ :……ッ!! ────そうか。そういうことか。最初から、勝ち筋はコレだったんだ……ッ!!
□ユウキ:ヒロ……? 待て、何を────ッ!!
〇ヒロ :勝利のパズルに足りない欠片は────。
●謎の男:異能薬……!? やめろ、それは────ッ!!
〇ヒロ :ぐ……ッ!!
△由梨(N):銀色の注射針が首筋に突き刺さる。プランジャーが一気に押し込まれた。
■ランダ:あーりゃりゃ。
▲土蜘蛛:終わったな、あいつ。
■ランダ:異能薬がもたらす力は、宿主を選ぶ。
▲土蜘蛛:身の丈にあわネェ力を望んで、全身ドロドロに溶けた奴モいたな。
■ランダ:あの力を飼いならせた終焉の使者は、純悪たる愚者だけ。
▲土蜘蛛:その覇道は、鬼が出るか、蛇が出るか……。
●謎の男:よくも……! よくもよくもよくもォッ!! 貴様ごときが、わが友を使うなァッ!!
殺しつくせェッ!! プロミネント・インフェルノォッッ!!!!
□ユウキ:ヒロ!!
△由梨 :ヒロさんッ!!
〇ヒロ :────“数多の真相は・暗黒へ堕ちて”。
△由梨 :……陰から、無数の手……? 影の、塊……?
●謎の男:影……? 違う。あれは闇だ……ッ! あの異能薬の効果は、闇を物質化する能力!
光と闇を同時に飼いならせるというのか……ッ!?
〇ヒロ :逆転だ……ッ! 失せろ“三下”……!
●謎の男:プロミネント・インフェルノォッッ!!!!
〇ヒロ :舞え。ハイドアファクト、ファインドアトゥルー!!
●謎の男:ぐ……! 徐々にこちらが削られて……! だがしかし、お嬢の護衛がお粗末ですなぁッ!!
□ユウキ:く……っ!!
△由梨 :あぁっ! 敵に囲まれてる!
〇ヒロ :護衛……? 知らね、その概念。
●謎の男:なに……っ!?
□ユウキ:迸れ! 漲る血潮ッ!! 纏いし焔で薙ぎ掃え!!
“黄金呪縛の獄炎龍”ッ!!
▲土蜘蛛:全身が炎に包まれて────!
■ランダ:焔の龍になった!?
〇ヒロ :いけ……!! 英雄ッ!!
△由梨 :いけ……! ユウキさん……!!
□ユウキ:うおおぉぉおおぉぉッッ!!!!
●謎の男:愚者を灰にしながら突っ込んでくる!? クソッ!!
だが、貴様の単純な攻撃ではッ!!
△由梨 :“Chain=Left:Attract”!
●謎の男:な────ッ!? 鎖!!? これでは、身動きが……ッ!!
△由梨 :ほんとにほんとの、燃料切れ、です……。あとは……、まかせ……、まし、た……。
〇ヒロ :由梨さん!!
□ユウキ:あぁ。その想い、確かに受け取ったッ!! ────これで、終わりだッ!!!!
●謎の男:変化を解いて、爆発的加速ッ!!? しまッ────!!
□ユウキ:“一刀”……ッ!!“獄炎”ッッ!!!!
●謎の男:グ……ッ!! ぐああぁぁああぁぁああぁぁッッ!!!!
間
□ユウキ(M):なんだ、これ……!
■ランダ:────チェック。
▲土蜘蛛:────メイト。
□ユウキ:なんでこんなに、手ごたえがない────ッ!!?
●謎の男:勝利を確信したその油断、死を以って知るがいい。
□ユウキ:な────ッ!!?
□ユウキ(M):いつの間に後ろに!? まさか……! さっきのアレは、幻影……ッ!?
●謎の男:────さようなら。英雄。
□ユウキ:クソ、が……ッ!!
間
〇ヒロ :“やっぱ、テメェならそう来るよな、三下……ッ!!”
●謎の男:なッ!!?
●謎の男(M):コイツ……! いつの間にここに……ッ!? いや、あの背中!! 光と闇の……、翼、だと────ッ!!?
〇ヒロ :終幕だ、悪者……ッ!
●謎の男:クソが……ッ! クソがぁぁああぁぁああぁぁッ!!
〇ヒロ :“真実と真相は・虚無を切裂く”────ッ!!
●謎の男:ぐああぁぁああぁぁああぁぁッッ!!!! ────カハッ!!
■ランダ(N):血潮をまき散らしながら、男の体は大地へと臥す。
光と闇から成る槍。それが通過した痕跡が、胸に残っている。
▲土蜘蛛(N):徐々に広がる赤黒い円弧。夕日が反射し、水面が煌めいた。
●謎の男(M):すべて、読み切られた……。計画も、奥の手も……。
この私が、策略に嵌り、思うがままに動かされたとでもいうのか……ッ!
今の私は……。なんと……、なんと……!
●謎の男:美しい瞳を、しているのでしょうなぁ……?
〇ヒロ :さよなら、悪者。
●謎の男(M):それでも。私の策は、私の認識は、確かに────。
●謎の男:これで私も、独りでは────。
〇ヒロ :“真実は光の傍に”。
間
△由梨(N):────そうして。この一連の事件は、幕を閉じた。
~~~~シーン⑨~~~~
▲土蜘蛛:あーあ。死んじまッタか。
■ランダ:ま、彼では「揺蕩う深淵の集合体」足り得なかったということさ。
▲土蜘蛛:策略に拘り過ぎタ。敗因はそれだけだッタろうよ。
■ランダ:たった一つの欠片が、生死を別つ、か。
ボク達は、もう変えられないんだね。この生き方を。
▲土蜘蛛:あの日。異能を手に入レタ時。そこでもう、決まったコトだ。
────サ、ズラかるぞランダ。鳥籠が開け放たれる。
■ランダ:そうだね。……さようなら、純悪たる愚者。君の事は嫌いじゃなかったよ。
●変な男:おぉっとぉ。そうは問屋が卸さねぇ、ってね。
▲土蜘蛛:あぁ……? なんだ、テメェ。
■ランダ:ウロチョロしていた溝鼠か。もうキミたちに用はないよ。ボクらの仕事は終わったからね。
●変な男:ハイそうですかサヨウナラとはならんのよなぁ。悪いけど、ここで捕まってくれや。
■ランダ:お好きにどうぞ! ボクらを好きにできるのなら、ねっ!! “愛が心を切裂いて”!!
●変な男:“我が御霊に従え・雫の精霊よ”。
■ランダ:なッ!? ボクの愛が、勝手に────、ぐあぁッ!!
▲土蜘蛛:“単珠、陸・捌・玖・拾────!
●変な男:あ、これいる? 美味いよん。
▲土蜘蛛:水の入った……、ペットボト────ッ!!
●変な男:“我が御霊に従え・結晶の精霊よ”。
▲土蜘蛛:氷柱ッ!? しま────、ぐああぁぁああぁぁッ!!
●変な男:急所は外してあるから、大人しくしててねん。つっても、動けないと思うケド。
■ランダ:この……! クソオジがぁッ!! “愛が心を”────!
●変な男:遅いなぁ。
■ランダ:がはっ……! く、そ……(気絶)。
●変な男:────さぁて、これで無力化終了、お仕事完了っと。
……はぁ、嫌だ嫌だ、大人の仕事ってのはよぉ。────連れてけ。
▲土蜘蛛:ク……ソ……、きさま……ッ!
●変な男:言う事聞いてりゃ扱い酷くならんだろうさ。知らんけど。
言う事聞かなきゃ────。ま、そうだねぇ……。
間
●変な男:せいぜい死んだほうがまし程度だろうさ。────それじゃ、幸運を。
△由梨(N):男は、懐から煙草を取り出し火をつける。一本の紫煙が、ゆらゆらと立ち上った。
●変な男:(煙草を吸い、吐く)。────ホント。嫌な仕事だねェ。大人っつぅのはよ。
~~~~シーン⓪~~~~
●謎の男(N):おやおや。私よ、死んでしまうとは情けない。────おっと失礼。
己の信ずる道を、真っ直ぐと突き進む。いいですなぁ、ヒーローは斯くあらねば。
……さてさて。それでは、今回はここまで。また熱い饗宴を楽しませてもらうとしましょう。
恥ずかしながら私、高見の見物をさせていただくのが何よりも好みなもので。
────あぁ後、最後に豆知識。「揺蕩う深淵の集合体」は、実は数年前に設立されたヴィラン組織だ。
一人の男に組織ごと乗っ取られてしまったらしい。前の組織は────、名前はダサすぎて忘れてしまった。
とにかく、新しい支配人はネーミングセンスがいいようだ。……なんてね。
────では。私はこのあたりで。また……。夢のその先で、お逢いしましょう……。
~~~~終演~~~~