表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/2

~~前編~~

【キャラクター】

・ユウキ

ヒーロー資格ライセンス試験を同率最下位で通過した一人。

現在、ヒーロー組織「特異局」のとある支部所属。

何に対しても真っ直ぐな少女だが、頭でっかちになってしまう一面も。


・ヒロ

ヒーロー資格ライセンス試験を同率最下位で通過した一人。

現在、ヒーロー組織「特異局」のとある支部所属。

常に落ち着き現状を正確に把握することができる。「切替スイッチ」が口癖。


・由梨

常にオドオドしていて、小心者な性格。成人女性だが低身長なのがコンプレックス。

先輩にも関わらず、周りからは小動物的ポジションとして扱われているようだ。

とある特異局支部では、ナンバーツーとして活躍している。


・謎の男

30代後半ほどの男性。グレーのファーマルオーダーメイドスーツを着ている。

丸渕のメガネをかけた、知性的な印象を受ける人物。

変な男と被り。


・変な男

40歳前後の男性。第一印象はオッサン。近づくと匂う。

どこか掴みどころのない、飄々とした態度をしている。

謎の男と被り。


・ランダ

中性的な人物。どこか妖艶な雰囲気があり、性別問わず人を惹きつける。

会話による心理操作に長け、かつ、相手の心理状態を掴むのが特異。


・土蜘蛛

攻撃的な性格の男。所作や話し方においても、その性格が色濃く出ている。

首から下の全身にかけて刺青が入っている。

好きなものは、1に暴力、2に女。


【配役表】


────そして英雄は斯く吼える────

作:さもえどさん

比率;2:2:2

□ユウキ(♀)

〇ヒロ(不問)

△由梨(♀)

●謎の男/変な男(♂)

■ランダ(不問)

▲土蜘蛛(♂)


(名前の□や●などのマークで検索いただくと、兼ね役も一緒にマーキングできます)



【台本について】


・本作は、拙作声劇台本「そしてヴィランは斯く嗤う」の後日談になります。

知らなくても勿論楽しめるかと思いますが、よろしければ前作もお楽しみいただければと思います。


・本作は、雰囲気を楽しんでいただく為にルビを多数ふっております。

そのため、スマートフォンなど画面の小さいものですと、読みにくい可能性があります。

可能でございましたら、是非、パソコンやタブレットなどの端末でお読みいただければと思います。


・本作は、テキストサイトに転用は非推奨になります。

ルビを多用しているため、テキストサイトだとさらに読みづらくなっております。


・仲間内で楽しむのは勿論、配信サイトで公演したりしていただいても問題ありません。使用報告は義務ではありませんが、ツイッターのDM等で教えていただけると泣いて喜びますし、何卒、拝聴させていただければと思います(土下座)→ X: @samoedosan


・台本上映の際は、営利、非営利を問わず、作者名と台本名、台本のURLの明記をお願い致します。


・性別転換やアドリブは、共演しただく方が不快に思わなければ大歓迎です。ぜひ皆様で、この台本をもっと面白く、楽しくして頂ければと思います。


・台本に関する著作権は放棄してません。が、盗作や自作発言等、著しいものでなければ大丈夫です。


  ~~~~シーン⓪~~~~




  薄暗い一室。コンクリート打ちっぱなしの殺風景な部屋。

  ウッドとレザーの一人掛けソファに、ひとりの男がゆったりと腰かけている。

  仮面で顔を隠した男だ。



●謎の男(N):突然ですが皆さん。“ヒーロー”とは何か、考えたことはありますか?

ヒーローとは。何をもってしてヒーローたらしめるのでしょう。

一説には、勇士や英雄の事を指し、勇者として人気を集めている人であると言われています。

であれば、どのような人間がヒーローになるのか。

その軌跡を、その末路を。私は見てみたい。彼らを真のヒーローたらしめているのは一体何なのか。

さぁ、それでは。渾身のヒーローショーを、始めてみるとしましょう────。




  ~~~~シーン①~~~~




  とあるテーマパーク。楽しげな音楽がスピーカーから流れている。

  轟音を立てて走るジェットコースターの音。



△由梨 :あのぉ~、お二人ともぉ……。ほんとに大人しくしててくださいねぇ……?

あくまで今日はおしのび! 秘密裏の作戦なんですから……!


□ユウキ:わぁーってるよ由梨サン。……ったく。初任務が修学旅行のオモリなんて華がねぇ。


〇ヒロ :ユウキ。文句言わない。任務は任務。しっかりやろう。


□ユウキ :でもさぁヒロ! オモリの相手はヒーロー校生徒だぜ!? なにかありゃテメーでなんとかすんだろ!?


△由梨 :こ、声が大きいですぅ……。まだ彼らは資格ライセンス未取得の生徒。

能力の行使は禁じられていますぅ。


〇ヒロ :それに、多分僕らの時もこうやって護衛してもらっていたんだ。

なら受け継いでいかなきゃ。切替スイッチだよ、切替スイッチ


□ユウキ:でた、ヒロの口癖~。つか、華がないっていえばここもだよなぁ。

なんで修学旅行がヒロイックランドなんだよ。


〇ヒロ :テーマパークってだけじゃなく、ヒーロー博物館のような側面もあるからね、ここ。


□ユウキ:博物館ねぇ。そんな華々はなばなしいもんじゃないけどな。なんだっけ、受付のオッサンが言ってた……。


△由梨 :夢の世界へようこそぉ。


□ユウキ:そうそれ。何が夢の世界だよ。蓋開けりゃこんな冴えねぇ仕事ばっかだ。

……しゃぁない。給料は貰ってるわけだし、やりますか!


△由梨 :やるっきゃない状況にならないといいんですけどぉ……。

今回、不穏な手紙が各“特異局とくいきょく”に送られてきていますし……。


□ユウキ:なんだっけ。ジショーとか、ナンジーとか。


〇ヒロ :“英雄ヒーローを自称せし、勇敢ゆうかんなる者共へぐ。来る8月13日、なんじらをたたえしそのつどえ。”


△由梨 :“卵らを護る親鳥となりて、その勇士を供覧きょうらんさせよ。”

────内容はともかく、犯行声明としては意味不明ですねぇ。目的や要求も見えないですしぃ……。


□ユウキ:ま、大事のときは任せたぜ由梨サン! 我らがナンバーツー!


△由梨 :ひえぇ、やめてくださいぃ……! 私なんてただの守護要員シールダー……。

なんにもできないんですからぁ……。というか、こんな時になんでトップはいないんですぅ?

「ちょっくらぶらぶらしてくるぜ。居ない間は任せた。」って手紙置いたまま、もう一週間も音沙汰なし。

ありえないですよぉ……。


□ユウキ:何やってんだかなぁ……。


〇ヒロ :そういえば。所属してから今まで逢ったことないですけど、どんな人なんです?


△由梨 :あー……。なんていうか、テキトーな人、ですかねぇ……。良くも悪くも。


□ユウキ:なんだそりゃ。そんなんで勤まんのかぁ? ……ま、考えてもしゃーない。

散開さんかいして、怪しい奴いないかパトるか?


△由梨 :アトラクション内部は別局がやってくれているですぅ。なので、ウチは屋外をやりましょう。

私は定点で観測しておくので、ふたりはパーク内を散策してくださいぃ。


□ユウキ:はいよ、了解。


〇ヒロ :了解。


△由梨 :目立つのは控えたいので、く・れ・ぐ・れ・も! 騒ぎを起こさないようにぃ!

あと、生徒だけでなく念のため悪者ラスカルにも注意してくださいぃ。


〇ヒロ :ラスカル……。悪者、ね。


□ユウキ:了解。じゃぁ、行ってくる!



  間



△由梨 :はぁ……。不安でしかないですぅ……。

なんでリーダーは、資格ライセンス試験最下位のふたりを選んだんでしょう? 不思議ですねぇ……。

────あっ、屋台のおねーさーん! アイスクリーム8つ、お願いしますですぅ~!!



  場面はかわり、園内にあるとあるバー。

  営業時間外のため、閉まっているようだ。



■ランダ:やぁ土蜘蛛。調子はどうだい?


▲土蜘蛛:あぁ、上々だぜランダぁ……。争いの匂いが強くなってらァな。


■ランダ:続々と集まってきているねぇ。夢幻泡影むげんほうよう、あわあぶく。


▲土蜘蛛:ケカカ……! 上々、上々……!


■ランダ:土蜘蛛が嬉しそうでボクも嬉しいよ。……お、あそこに可憐な子猫ちゃん。可愛らしい顔だ。


▲土蜘蛛:相変わらずの好色家だなァ。


■ランダ:そうさ。ボクにとって愛は原動力だからね。……お、あそこには凛々しいジェントルマン。

引き締まった体だ……。そそられるね。


▲土蜘蛛:カカ。男も女も見境なしか。


■ランダ:あぁ。逆に君は、若い子猫ちゃんだけしか相手にしないそうだね。

さしずめ、ボクが大食漢だとしたら、君は美食家かな?


▲土蜘蛛:カカ。物は言いようだ。いいぜェ若い女はよ。脂がノッていて柔らかい。


■ランダ:成程、文字通り肉食系というわけか。カニバリズムともいえるね。


▲土蜘蛛:抱くのも好きだぜェランダぁ? 今度、同衾どうきんでもしてやろうか


■ランダ:遠慮しておくよ土蜘蛛。ボクは美しく染めていくのが好きなんだ。

キミとは方向性が違うのさ。


▲土蜘蛛:カカカッ! お高くまっていやがる。──まぁいいさ。

今は、あそことは違ェ。せいぜい、お互い仲良くいこうぜェ。


■ランダ:ははは。お邪魔虫にならないよう、努力するとしよう。


▲土蜘蛛:よろしく頼まァな。んじゃまちょっくら暴れてくる。



  間



■ランダ:あそことは違う、ね……。ボクにとってはどこも変わらないよ。

あそこも、ここも、ね……。




  ~~~~シーン②~~~~




  丘の上に建てられた、展望台。観覧車が回る足元に、ふたりの少年少女がいる。



〇ヒロ :さて。しばらく巡回したものの。これと言って怪しいやつは見当たらないね。


□ユウキ:そりゃそうだろうぜ。こんな白昼堂々ぱっと見で怪しい奴いねぇだろ。


〇ヒロ :そう? 女の子も多いし、変な人もいそうなもんだけど。


□ユウキ:入園料払ってまでかぁ!? そんな奴いるわけ────。


●変な男:おっほぉ……! 若い女の子のおみ足!! 眼福、がんぷく……!

ぴっちぴちの太もも、ぱっつぱつのヒップ……! たまらねぇなぁ……ッ!!


□ユウキ:いたー。


●変な男:お……ッ!! おぉッ!! 見えそうで、見え……、見え……ッ!!


□ユウキ:コラてめーっ!! 何やってんだっ!!


●変な男:ぬぉっ!? びっくりしたぁ……。なんだ、お前らか。


□ユウキ:あぁっ!? 誰だよテメー!


●変な男:えぇっ!? って。あー……。いや、そうか。


〇ヒロ :……?


□ユウキ:ともかく、事情聴取だジジョーチョーシュ! 変質者は即! 逮捕!!


●変な男:げ。まじか……!


□ユウキ:さぁ、観念しろよ悪者ラスカルぅ。ここが年貢の納め時!


●変な男:ちょっ! いや待て!! 俺は────。


□ユウキ:問答無用ッ!! “獄炎のバーニングッ! 鉤爪クロー”ッ!!!!


●変な男:発火の異能!? どわっ! あぶねッ!!


□ユウキ:ちょこまかと! “一刀スラッシュ獄炎バーニング”!!


●変な男:今度は手刀しゅとうかよ!? あらよっ!!


□ユウキ:返しの攻撃も避けるかよッ!


●変な男:教科書通りの追撃なんか当たるか!


〇ヒロ :……なら、これは避けれますか?


●変な男:なッ! 背後!? いつの間に!!


〇ヒロ :六天流ろくてんりゅう嵐身らんしん。“御木砕みきくだき”。


●変な男:突き蹴り……ッ! 速えぇ! 避けられ────、ぐぁあッ!!


□ユウキ:クリーンヒットォ! やったなヒロ!!


〇ヒロ :いや、当たった感触が無い。これは……、かすみ……?


●変な男:いやぁ~、びっくりしたぁ。オジサンの腰に突き蹴りとか、下手したら半身植物よ?

最近の若者はおっそろしいねぇ。


□ユウキ:瞬間移動……? 残像か!?


●変な男:連撃で注意を逸らし、死角からの奇襲。咄嗟とっさの癖にいい連携じゃないの。

とはいえ、ここで目立っちゃうのはオッサン嫌なのよねぇ。


□ユウキ:そんなん知ったことか。いくぞヒロ、追撃だ!


●変な男:おっと残念! これ以上の騒ぎはゴメンっと!! 

悪いけど退散退散! “微睡はより深淵にディープハレーション”。


□ユウキ:体が消えて……! 待て……ッ!!

────クソッ! 逃げられちまった。


〇ヒロ :幻覚系の異能……? いや、これは────。


□ユウキ:逃げるってこたぁ、後ろめたいことがあるってこった! 追うぞ、ヒロ!!


〇ヒロ :うん。行こう。



  一方その頃、由梨は。



△由梨 :たっこやきー! わったあめー! やっきそばー! かれーらいすぅー!

ランド内のたっかいゴハンも、こういう時は経費でいけるからいいですよねぇ……!

……はむっ。れいふぉうっふぉいのもよひえふぅ(冷凍っぽいのも良きですぅ)。



  間



△由梨 :あ、あのぉ……。それで、いつまで隣のベンチに座ってるですかぁ……?


■ランダ:すまないね。食事の邪魔かい、子猫ちゃん。


△由梨 :そ、そう、ですねぇ……。その。あんまり見すぎと……いいますかぁ……。


■ランダ:失礼。子猫ちゃんの食べている姿は、どうにも癒しでね。可愛らしい子なら尚更さ。


△由梨 :は、はぁ……。


■ランダ:しかし、遊園地に子猫ちゃんひとりなんてどうしたんだい?

彼氏と喧嘩でもしちゃったのかな。


△由梨 :しょ、初対面の方に話すほどの事でも、ないのでぇ……。


■ランダ:はは、つれないなぁ。そう警戒しないでおくれ。おしゃべりに来ただけだよ。

────今は、ね。


△由梨 :……はぁ。……い、いとこの付き添いですぅ。単なる保護者ですよぉ……。


■ランダ:ふぅーん。そっか。……成程ね。



  間



■ランダ:────それで、本当は?


△由梨 :……えっ?


■ランダ:流れるような綺麗な嘘だ。……でも惜しい。

もう少し視線と口元の動きに気を付けたほうがいいかもしれないね。


△由梨 :な、なにを……。


■ランダ:それに、一般人を装うならそんなにお固くしてちゃだめだ。

そんなに隙がないと逆に奪いたくなる。……特にボクみたいな人間は、ね。


△由梨 :あなたは……、何者です……?


■ランダ:終焉の使者ワールドブレイカー。君たちの言う、悪者ラスカルさ。


△由梨 :……ッ!!


■ランダ:おっと! そう構えないで。さっきも言ったけれど今はおしゃべりに来ただけだよ。


△由梨 :い、今は……?


■ランダ:そう。今は。招待状を届けたくてね。我らが使役者オーナー純悪たる愚者テリブルフールへの招待状を、さ。


△由梨 :純悪たる愚者テリブルフール……?


■ランダ:ありていに言えば、宣戦布告さ。ボクら終焉の使者ワールドブレイカーから、キミたちへの。

しかも、使役者オーナーは選りすぐりの猛者もさをご所望なのさ。だから、ボクは子猫ちゃんを選んだ。

強く、凛々りりしく、それでいて可憐かれんな、ね。


△由梨 :それは……。と、とんだ節穴ですぅ。こんな無能ひっつかまえて……。


■ランダ:ふふ、謙遜けんそんかい? まぁそれもいいさ。

……“その時”が来たら逢いにおいで。合言葉は「夢のその先」。覚えておいてね。


△由梨 :その時、です?


■ランダ:すぐに理解わかる。それじゃ、いったんボクはここで。夢のその先で、また逢おう。


△由梨 :待って……ッ! ────きえ、た……?



  間



△由梨 :終焉の使者ワールドブレイカー純悪たる愚者テリブルフール、夢のその先……。



  間



△由梨 :さっむぅ……。




  ~~~~シーン③~~~~




  植木で作られた、人工的な迷路。2人の少年少女が疾走している。



□ユウキ:……くそっ!! どこ行きやがった……!


〇ヒロ :追い付いたと思ったら、また消えて逃げられる。完全に遊ばれてる感じ。


●謎の男:あー。あー。テステス。聞こえるかな?


□ユウキ:インカムに誰か入ってきた。


〇ヒロ :聞きなれない声だけど……。────はい、聞こえます。


●謎の男:はじめまして、新人たち。といっても、私にとっては初めましてじゃないのだけれど。


□ユウキ:どこかで会ったことあるか?


●謎の男:知っている、が正しいかな。何せ私は、リーダーだからね。


□ユウキ:リーダーって、失踪中のトップか!? どこにいんだよ。


〇ヒロ :……? どこにいるか理解わからない?


□ユウキ:あぁ。近くにいない。ってより、むしろ……。


〇ヒロ :そっか。……それでリーダー。どうかしたんですか?


●謎の男:進捗確認だよ。どう? 敵は見つかったかい?


〇ヒロ :敵……?


□ユウキ:怪しい奴ならいた!


●謎の男:それはよかった。


〇ヒロ :あの。リーダーはなんで失踪したんですか?


●謎の男:失踪したわけじゃないよ。潜入捜査をしていたのさ。


〇ヒロ :潜入捜査?


●謎の男:そう。そして私は、遊園地全体を見渡せる場所にいる。

索敵と誘導。ようは君たちのサポートさ。


〇ヒロ :サポート、ねぇ……。


●謎の男:ともかく、論より証拠。その通路をまっすぐ進んでくれ。敵の所までナビゲートしよう。


□ユウキ:だとさ。どうする? ヒロ。


〇ヒロ :行ってみよう。 



  間



▲土蜘蛛:さァって……。ノッてやったはいいが、果たしてってナ。


□ユウキ:すげぇな。マジでいやがった。


●謎の男:そりゃいるさ。いてくれなきゃ困る。


▲土蜘蛛:……お? なんだテメェら。


□ユウキ:悪者ラスカルに名乗る名前はねぇ!


▲土蜘蛛:なるほどォ……。脂がノッてるねェ。男もいるが、マァ及第点ってとこだ。

若けェし肉付きがいい。肝が据わってるのもそそられる。


□ユウキ:いいねぇ、ぶっ飛ばしがいのある気色わりぃ目だ! 行くぞヒロ!!


〇ヒロ :了解!


▲土蜘蛛:迷わず2対1を選ぶか。……カカ。燃えるネェ。なら、先制攻撃と洒落こむかァ!!

────おらよッ!!


〇ヒロ :当たらない!


▲土蜘蛛:カカッ!! まァ避けるよなァッ!? ダが当てんのが目的じゃねェんだワ! 単珠たんじゅいちバク!!


〇ヒロ :な……ッ!? 爆発!? がはッ!!


▲土蜘蛛:カハハッ!! ほらほらァ! 助けねェと相方が死んじまうぜぇ!?


□ユウキ:────“一刀・獄炎スラッシュ・バーニング”。


▲土蜘蛛:ノールックかよ! うぉらッ!!


□ユウキ:玉ばらまきやがって! ここはパチンコ屋じゃねぇんだよ! “獄炎の鉤爪バーニング・クロー”!!


▲土蜘蛛:接近戦じゃ分が悪ィ!! 失せろッ! 単珠たんじゅ! さんはち!! バク!!


□ユウキ:爆風!? 邪魔くせぇッ!!


▲土蜘蛛:薙ぎ払ったッ!?


□ユウキ:とらえたッ! “獄炎の拳骨バーニング・メテオライトッ!!”


▲土蜘蛛:炎の拳ッ! 連珠れんじゅろく三、ケツ!!


□ユウキ:消えた!?


▲土蜘蛛:単珠たんじゅきゅうバク


□ユウキ:ぐぁッ……!!


▲土蜘蛛:アブねぇナァ……。


〇ヒロ :油断してる場合か。


▲土蜘蛛:後ろ!? いつの間にッ!


〇ヒロ :六天流ろくてんりゅう紅身こうしん。“腕廻衝かいなめぐり”。


▲土蜘蛛:ゴ……ァ……ッ!


□ユウキ:おらッ!! 追撃!!


▲土蜘蛛:連珠れんじゅろく十、ケツ


□ユウキ:また消えた……!


〇ヒロ :上だ。


□ユウキ:何……ッ!?


▲土蜘蛛:ンン……? ナルホドなぁ……。


□ユウキ:くそ、建物の上に……。これじゃ届かねぇ。


▲土蜘蛛:単調で大ぶりな攻撃。ちょこまかする割に威力の低い技ァ……。とはいえ、ナァ……。


□ユウキ:てめぇ! 降りて来いよ、コラァッ!!


〇ヒロ :口の端、火吹いてるよ、ユウキ。


▲土蜘蛛:どうにも、薄ら寒ィ……。べっとりと張り付く、この気持ち悪さはなんだァ……?


□ユウキ:銃もってねぇか?


〇ヒロ :あったら最初から使ってるよ。


▲土蜘蛛:まァいいや。「夢のその先」で、待っててやらァ。楽しみにしてるぜ?


〇ヒロ :玉をばらまいて……! まずい!!


□ユウキ:ヒロ!!


▲土蜘蛛:単珠たんじゅぜんバク



  爆音が、木霊する。

  その音は、遠くに離れる由梨にも届いていた。



●変な男:爆音……? ────そうか。おっぱじめやがったか。なら俺も動かねぇとなぁ?


△由梨 :なんで。なんで、あなたがここにいるんですか……!


●変な男:調子はどうだ。……ま、ここにいるってことはそう言うことなんだろうが。


△由梨 :なんで……。


●変な男:なんでってそりゃぁ、手番が回わりゃコマ進めるだろ。

ただでさえ一回休み喰らってんだ。こっちはもうスキップ残ってねぇってコト。


△由梨 :なにを……。


●変な男:台パンして盤上引っ繰り返すのは俺の流儀に反するが……。こうなっちゃもうしょうがねぇ。


△由梨 :なにを言ってるんですか!


●変な男:わりぃ。なりふり構ってる暇無くなっちまったんだわ。


△由梨 :訳わかんない……! 訳わかんないですよッ!!


●変な男:まぁ……、その。なんだ。



  間



●変な男:すまんな。死んでくれ。


△由梨 :え……っ。



  間



△由梨 :ゴフッ……。


●変な男:恨んでくれて構わねぇ。俺もすぐそっち行くからよ。言いてぇことはそん時に、な。


△由梨 :ほん、とうに……、あなた、は……。いつも────(絶命)。



  間



●変な男:本当に、な。




  ~~~~シーン④~~~~




■ランダ:さぁ。盤上のコマは整った。プレイヤーたちは物語ストーリーを壊すことができるのか。

────なんて。ヤツの考えそうなことだね。


▲土蜘蛛:相変わらず黄昏たそがれてんなァ。こっちはひでぇ目にあったゼ。


■ランダ:おかえり、土蜘蛛。


▲土蜘蛛:おゥ。首尾はどうだ。


■ランダ:上々だよ。なかなかに痺れる子猫ちゃんを見つけてね。そういうキミはどうだったんだい?


▲土蜘蛛:まァ、それなりに。粋のいいガキが二匹。……ま、育ちゃァ面白そう程度だが。


■ランダ:おや、予想外。殺し尽くしてつまらなそうに帰ってくるとばかり思っていたよ。


▲土蜘蛛:カカ。言えてらァ。現実主義クソみたいなのはもォいいだロ。見飽きたよ。


■ランダ:だからこそ、ボク達は虚構ユメを選んだ。求めていた幻想きぼうが同じだから。


▲土蜘蛛:滾るねェ。そりゃそうか。虚構ユメってのは膨らんでいくモンだ。


■ランダ:またもや予想外だ。キミでも機微きび理解わかるんだね。


▲土蜘蛛:馬鹿にしてンのか。殺すぞ。


■ランダ:キミの心臓は苦そうだけど、お望みとあらば。


▲土蜘蛛:……カカ。面白れェ返事だ。


■ランダ:────さて。子猫ちゃんたちは来てくれるかな?


▲土蜘蛛:来てくれなきゃ興ざめダな。このままズブズブと深淵ドロに沈んでいくのも悪くはねェが。


■ランダ:おいで、英雄ヒーロー。ボク達は覚醒めざめた。次は、君たちの番だ。

もう欠片ピースは揃っているよ。おいで。ボク達の、たもとまで……。



  一方その頃、ある一角。

  立ち込める爆炎が、少しづつ晴れていった。



●謎の男:────やぁ、生きてるかい?


□ユウキ:げほげほっ!! ……ひぇ。ひでぇめにあったぜ。


〇ヒロ :ほんとに死ぬかと思った……。


●謎の男:驚いた。傷ひとつないなんて。


〇ヒロ :こんなんで死んでたらヒーローなんて勤まらないさ。


●謎の男:一発が手榴弾クラスの威力だよ? 簡単な事じゃない。


〇ヒロ :……たしかに。ちょうどそれぐらいの威力だったよ。


□ユウキ:……ヒロ?


〇ヒロ :とにかく広い所に行こう。


●謎の男:外に出るのかい? なら覚悟するといい。きっと驚くと思うよ。


□ユウキ:何の話?


●謎の男:すぐに理解わかるさ。


〇ヒロ :……行ってみよう。



  間



□ユウキ:はあ……っ!? 何だよコレ……ッ!!?


〇ヒロ :空一面の……オーロラ……!?


●謎の男:奴らが動き出したか。


〇ヒロ :やつら……?


●謎の男:いずれ理解わかる。


□ユウキ:ヒロ! あれ……!!


〇ヒロ :あれは……。学生たち? どこかに向かってるみたいだ。


□ユウキ:あいつら目が死んでねぇか。


〇ヒロ :たしかに様子がおかしい。一体何が起こってる?


●謎の男:饗宴きょうえんだよ。


〇ヒロ :饗宴きょうえん


●謎の男:終わりの始まりさ。ここはもう名もなき聖域サンクチュアリ昇華しょうかした。

君たちの協奏曲コンチェルトは、もはや幻想曲ファンタジア相成あいなったんだよ。


〇ヒロ :何を訳のわからないことを……。


●謎の男:さぁ……! 歌いなさいチャンター!! 踊りなさいバイラー!! その燦々さんさんと輝く生命いのち、そして闘志の炎を! 私にせつけるのですッッ!!


□ユウキ:ヒロ、こいつ……。


○ヒロ :あぁ。やっぱり、こいつはリーダーなんかじゃなかったってことさ。


●謎の男:おやおや。勘づかれておりましたか。流石は英雄ヒーロー。新米といえど優秀だ。


〇ヒロ :そりゃどうも。


●謎の男:さぁ、ここからどう巻き返していくのか見ものです。解答ピースは既に、あなた方の手の中にある。


〇ヒロ :あっそ。ま、確信は得られた。夢の世界へようこそ、だっけ。どうも親切なことで。


●謎の男:ほぉ……。だが、君たちは最後の一線を超えることができるかな?


〇ヒロ :それについては────、そうだね。ご期待に沿うことはできないと思う。


●謎の男:それは悲しいですなぁ。この窮地きゅうち怖気おじけづかれてしまうとは。


〇ヒロ :あぁ違うちがう。そうじゃないよ悪者ラスカルさん。


●謎の男:……?


〇ヒロ :あんたの思い通りに、事は運ばないってことさ。


●謎の男:……言いますなぁ。であれば。その真意見せつけていただきましょう。


〇ヒロ :はいはい勝手にしてて。……ユウキ。


□ユウキ:はいよ。


〇ヒロ :“自害だ”。


●謎の男:な────ッ!?


□ユウキ:……よくわからんが、いいのか?


〇ヒロ :それが最適解。


□ユウキ:ふーん。


●謎の男:トチ狂ったのかい、君たちは!? 敵を前に死ぬなんて! 助けるべき生徒たちはまだ残されている!!

彼らのために奮闘しなくていいのかいッ!?


□ユウキ:うるせーなぁ、ギャーギャーピーピーわめいてよぉ。ヒロが最適解だって言うんだ。だったらそうなんだろ。


●謎の男:盲目だ! それは信頼ではない、思考の放棄に他ならない!!


□ユウキ:なんとでも言っとけよゲロ野郎。少なくとも、あんたの言葉は薄っぺらくてかなわねぇ。


●謎の男:なにを────!?


□ユウキ:盤上にすらいねぇヤツが騒ぐなってこと。棋士プレーヤー気取ってんな、胸糞わりぃ。


●謎の男:な……ッ!?


□ユウキ:んじゃ、ヒロ。先行ってるぜ。


〇ヒロ :あぁ。


●謎の男:待────……ッ!! ……自爆とは、派手に散りますねぇ。


〇ヒロ :スマートじゃないのは確かだね。


●謎の男:しかし、どうして。


〇ヒロ :解答ピースは既にあなた方の手中にある、だっけ? デカすぎだよ、解答ピースが。


●謎の男:…………。


〇ヒロ :ま、顔洗って待っててよ。僕たちがあんたを────、殺しに行くからさ。


●謎の男:────ッ!! 



  間



●謎の男:……はてさて。英断か、はたまた蛮勇ばんゆうか。見ものですなぁ。




  ~~~~シーン⑤~~~~




  イベントドームの中。少年と少女が横たわっている。

  その横にちょこんと、女性が座っていた。



△由梨 :起きて……。起きてください……! おー! きー! てー!!


〇ヒロ :ん……。おはよう、由梨さん。


△由梨 :お、おはようじゃないですよぉ……。どうなっているんですかぁ、これ……。


〇ヒロ :説明は後です。ユウキは?


□ユウキ:いるぜ。


△由梨 :ほんっとうに色々説明いただきたいんですけどぉ。後回しにせざるを得ない状況なんですぅ。


〇ヒロ :というと?


△由梨 :ほら、あれ……。


■ランダ:やぁやぁ。元気に帰ってこれたかい、子猫ちゃん達。


▲土蜘蛛:見立てどォり、よく戻ってきた。


■ランダ:夢の中にいた方が良かったとも言えるけど。


〇ヒロ :……ふむ。どうしようか。彼らを倒してさっさと本丸に攻め込まなきゃなんだけど。


■ランダ:へぇ、どうしてそう思うのかな。


〇ヒロ :夢の世界に閉じ込めるメリットは二つ。時間稼ぎと、リスクの排除。

さらに、想定される副次的効果は、潤沢なリソースの確保。おおよその目的は推測できるよ。


■ランダ:ふふふふ。どうかなぁ?


□ユウキ:いずれにしろロクな話じゃなさそうだな。さっさと突っ切るぞ、ヒロ!


▲土蜘蛛:ケカカカカッッ!! ところがギッチョンそうはいかねェんだなァッ!?


■ランダ:残念だけれど、ここを通すわけにはいかないね。


□ユウキ:切りひらくぞ、ヒロ!


〇ヒロ :あぁ。


▲土蜘蛛:だから、やらせるかッてヨ!! いけ!! 単珠たんじゅ────。


△由梨 :────させません。“ShieldシールドRightライトBashバッシュ”。


▲土蜘蛛:なッ!!? 急に目の前に────! ぐあァァああァァッ!!


■ランダ:エスコート相手がガラ空きだねッ!


△由梨 :“ChainチェインLeftレフトAttractアトラクト”。


■ランダ:腰に、鎖……!? 投げ飛ばされ────、うわぁぁっ!


▲土蜘蛛:痛ェ痛ェ……。大型トラック並みの威力だ。ちょっとオイタが過ぎるナァ!?


□ユウキ:たたみ込む!


■ランダ:間合いには入らせないよ! “愛が心を切裂いてオブセッションカトラリー”! はぁっ!!


□ユウキ:赤黒い剣……!?


△由梨 :“ShieldシールドRightライト”。


■ランダ:く……っ! やっぱり、防がれるよね!


▲土蜘蛛:中距離範囲をカバーしてくる守護要員シールダーァ……? ウゼェウゼェ!


□ユウキ:この匂い……。血か……!


■ランダ:そんなチープな言い方、やめてほしいなぁ! コレは、子猫ちゃん達がボクに捧げた愛さ!


△由梨 :愛……!? そんな身勝手な!


■ランダ:身勝手? 面白いことを言うね! 愛するには対価が必要さ。そうだろう!?


□ユウキ:なにを……っ!


■ランダ:ボクは対価を貰い愛されてきた! 昔も、今もッ!! 

物欲、肉欲、独占欲、支配欲、承認欲! それら胸に渦巻うずま総称そうしょうが愛だッ!!


△由梨 :剣が肥大化……!?


■ランダ:ボクはそれを満たす装置にすぎない! “幾多の愛の刃がオブセッションカトラリー奮い貫くヌメロン”ッ!!


△由梨 :砕けて分裂した!?


□ユウキ:あんな数来たら一溜ひとたまりもねぇぞ!


〇ヒロ :やられる前に刺す!


▲土蜘蛛:そこで遊んでろよオコチャマ!!


〇ヒロ :チッ、爆発……! 邪魔なッ!


■ランダ:愛の終着は永久とわちぎり! だからこそ、添い遂げすいつくしてあげるのさ!!

────“汝の御心はアイアン串刺したメイデン”。


□ユウキ:くそ────!


△由梨 :“ShieldシールドAroundアラウンドAegisイージス”ッ!!!!


■ランダ:な────ッ!?


△由梨 :あなたには悪いですけど。……そんなのは、愛なんかじゃない!


■ランダ:全て受け止められた!? そんな、幾つあると思ってる!?


△由梨 :モテモテで自己中なイケメン御曹司おんぞうしが、実は私にだけ優しくて……!

普段はめちゃくちゃ放任主義なくせに、たまに男の影が見えるとヤキモチ焼いて不機嫌になっちゃう!

────そういうのが、愛なんですッッ!!!!


■ランダ:世迷言を……ッ!


▲土蜘蛛:遊んでンならどいてろ好色家ァ!! 単珠たんじゅさんはち! バクッ!!


△由梨 :“ShieldシールドRightライト”。


▲土蜘蛛:チッ! 全身に目でもついてんのかよコイツ!


△由梨 :さ、殺気が漏れすぎです……! 不意打ちしたいなら、いっぺん死んで来てください!


▲土蜘蛛:カカカカッ!! 燃えるコト言ってくれるねェ!! だッたら、爆ぜ尽くしてやるよッ!!

連珠れんじゅッッ!! 全ッ! 空蝉うつせみィィッ!!!!


□ユウキ:分身……!? 一気に包囲網が!


▲土蜘蛛:消し飛べよ!! 単珠たんじゅぜんッ!! 轟爆裂ゴウバクレツ!!!!


■ランダ:く……ッ!! すべてのたまを爆発させる────!

なんて威力だ、ボクまで吹っ飛ばされそうだよ……!!


□ユウキ:由梨サン!!


▲土蜘蛛:カカカッ!! 爽ッッ快だなァ!!? どうよ!? 消し炭になッた気分はよォ!!?


△由梨 :────────“ChainチェインAroundアラウンド:Pashuparasutoraパシュパラストラ


▲土蜘蛛:な────ッ!? ぐぉぉおおぉぉッ!!??


■ランダ:そんな────ッ!? 


□ユウキ:分身が一瞬で消し飛ばされた!?


△由梨 :あ、あなた方に逆転の期はありません……! 投降してください……!


▲土蜘蛛:カ、カカカ……。だってよォ、ランダァ。


■ランダ:はぁ……。まったく計算外だよ。────いや、計算通りとも言えるね。


▲土蜘蛛:しょうがねェ。出し惜しみは無しッてこたァな。


△由梨 :注射器……? 一体何を────。


■ランダ:ヴィラン組織「揺蕩う深淵の集合体アンラ・マンユ」。その目的は、ボク達、終焉の使者ワールドブレイカーの選別。そして────。


▲土蜘蛛:(注射する)ン……、クハァ……!!


■ランダ:“苗床なえどこ”の培養ばいよう・増殖と、異能薬の量産化、だよ。


〇ヒロ :異能薬……?


■ランダ:キミたち英雄ヒーローは先天的な異能をとしているけれど、「揺蕩う深淵の集合体アンラ・マンユ」は違う。

後天的に異能を発生、管理できる社会を望んでいるのさ。


△由梨 :どういう、ことですか……!


■ランダ:ボク達は、過酷な人体実験を乗り越えた成れの果て。壺から放たれた毒蟲どくむしのひとりさ。

(注射する)く……、ふぅ……。


▲土蜘蛛:そんで、敗れたヤツらは死してなお、生き残った奴らに利用されるッてワケ。

────こんな風にな。“引導者からの贈呈グリムリーパーギフト”。


△由梨 :な……、土人形!? 別の異能が発現した!?


▲土蜘蛛:体組織を培養し、増殖させ、異能発現の髄液ずいえきを抽出。

そうして、異能薬の量産化も見えてきた。


■ランダ:どこまで行ってもモルモットなのはしゃくだけど。

とはいえ、降りかかる火の粉は払っていかないとね。“引導者からの贈呈グリムリーパーギフト”。


□ユウキ:よくわかんねぇけど、ロクでもない話だってのはなんとなく理解わかる!


〇ヒロ :六天流ろくてんりゅう嵐身らんしん。“御木砕みきくだき”!


▲土蜘蛛:カカカッ!! やッぱサクッと倒されちまうよなァ!? 

いいねいいねェッ! ならば蹂躙じゅうりんを! 粉砕ふんさいを!! 虐殺を!! 

滅ぼしつくしてやろうじャねェか!! 

引導者紡ぐグリムリーパーギフト茫漠なる化身ゴライアス”ッ!!!!


△由梨 :巨大な土人形が10体……! ご、5メートル以上ありそうですぅ……!


■ランダ:殲滅せんめつし! 撃滅げきめつし!! 討滅とうめつするっ!!!!

破壊の極致きょくちを見せてあげるよッ!!

引導者紡ぐグリムリーパーギフト災厄の奉呈カタストロフィ”ッ!!!!


△由梨 :次々と土人形が生成されて……! 20! 30!?


▲土蜘蛛:さァさァッ!! 饗宴開始ショータイムだ!! 叩き潰される準備はOKかァッ!!?


△由梨 :こ、これは……。骨が折れますです……!


□ユウキ:デカブツと雑魚がわらわら……!


〇ヒロ :く……っ!


■ランダ:それじゃぁ、踊ろうノース。子猫ちゃん。終焉しゅうえんを君に見せてあげるよ!!


▲土蜘蛛:滅殺めっさつしろッ!! 茫漠なる化身ゴライアスッ!!!!


■ランダ:饗宴の儀ショータイムだッ!! 災厄の奉呈カタストロフィッ!!!!



 間



△由梨 :お腹すくから、嫌だなぁ……。


▲土蜘蛛:ッ!?


□ユウキ:由梨サン!?


△由梨 :“時計ウサギのベルが鳴る。白いウサギの尾が揺れる。あなたはチェシャ猫、私はアリス。”


■ランダ:────ッ!!?


▲土蜘蛛:な、なンだ……? なんだヨ、このちから奔流ほんりゅうはッ!?


■ランダ:立ってるだけなのに、冷や汗が止まらない────ッ!


△由梨 :“あおイモムシは夢を見て、いかれ帽子屋うたうたう。”

“ハートの女王、お時間よ。ここは素敵な失楽園ワンダーランド。”


▲土蜘蛛:ク、ソ……が────!


■ランダ:は……、はは……。これは、手に負えない。


▲土蜘蛛:見渡す限りの盾……。千は超えてンだろ、これ……。


△由梨 :“ShieldシールドInfiniteインフィニティ


  間


△由梨 :Allオール Aroundアラウンド The Worldワールド”。


▲土蜘蛛:ランダァッッ!!!!


■ランダ:わかっているッ!!


△由梨 :Clockクロック



 間



▲土蜘蛛(N):数多もの隕石の様に、次々と盾が降り注ぐ。轟音とともに、一面が土煙に包まれた。


△由梨 :逃げられましたか……。


▲土蜘蛛(N):土煙が晴れると、そこには誰もいない。ゴーレムの残骸がそこらじゅうに残るだけだった。


△由梨 :はぁ……、お腹が、すき……まし、たぁ────。


〇ヒロ :おっと。


□ユウキ:由梨サンがガス欠するなんて何年ぶりだ? ──ほら、飲んで。


△由梨 :ん。高カロリー飲料……。ありがと……ですぅ。


□ユウキ:お疲れさん。後は任せてゆっくり休め。


△由梨 :そうします……。



 間



●謎の男:嗚呼ああ嗚呼ああ。なんと美しい。なんと輝かしいことでしょう……!

やはりあなたがた英雄ヒーローは、くあらねば。


□ユウキ:その声……!


〇ヒロ :インカムに入ってきた人。


●謎の男:ご明察です。しかし想定外でした。あなたたちのどちらかは死ぬ算段だったんですが……。

ま、一番の懸念材料を潰せただけでもよしとしましょう。


△由梨 :く……!


□ユウキ:誰だよ、テメェ。


●謎の男:本名はとうに捨てました。なので純悪たる愚者テリブルフールとでもお呼びください。


△由梨 :純悪たる愚者テリブルフール……!


●謎の男:おやおやご存じで? 恐悦至極きょうえつしごくですなぁ。


△由梨 :名前だけです、けど……。


●謎の男:ならばこの名、全国にとどろかせて見せましょう。

まずはその先駆けとして。3つのはなを散らすとしましょうか。



△由梨(M):瞬間。地の底から脊髄せきずいつたい、

脳をわし掴みされるような緊張感が、一帯を支配する。

身じろぎ一つさえ禁じられたかのような、有無を言わさぬ束縛感がそこにはあった。



□ユウキ:な、なんだこれ……!? 冷や汗が、止まらねぇ……。


●謎の男:混沌カオスを束ね、失楽しつらく深淵アビスから舞い降りた「揺蕩う深淵の集合体アンラ・マンユ」。

その一翼いちよくである純悪たる愚者テリブルフールの名のもとに。

貴公、英雄ヒーローの一対が最初の犠牲者に選ばれたことを、ここに祝福する。


〇ヒロ :……!


●謎の男:地獄よりはいずりいで愚者フールより。楽園エデンとばりを下すとしましょう。

────まずは、手始めに。“蜉蝣満る桃源郷エフェメラル・ユートピア”。




ーーーー後編に続くーーーー





評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ