今こそ特典の夢リセット
オチャコは重要なことを思い出します。
「そうか、今こそ特典の夢リセットを使うのだわ! そうすれば、さっきの悪夢を無効にできるはず」
「できないよ。いっひひひ」
「ええーっ、どうして!」
「特典というのは真っ赤なウソだからさ。いひひひ」
オチャコは騙されていたのだと気づいて、すっかり頭にきます。
「こうなったら、最後の手段を使うしかないわ!」
「おや、なにをする気だろうね」
老婆を無視して、オチャコが言葉を発します。
「異次元の穴、開け!」
「まさか、魔法を使えるのかい??」
老婆の後ろに、大きな黒い穴ができました。
「武州ファーム茶幡にいる正義の牛よ、こちらにきなさい」
二頭の黒毛和牛が唐突に現れて、老婆を睨みます。
「ぎゃあーっ!!」
牛に怯えた老婆が後ずさりして、黒い穴に落ちたのです。
未使用のモオカードが床に落ちていたので、オチャコが拾って、テーブルの上に置きます。
「異次元の穴、閉じろ!」
二頭がオチャコの顔を見つめています。
「あなたたち、ご苦労さん」
「「もおぉ~」」
オチャコは静かに唱えます。
「正義の牛よ、武州ファーム茶幡へ帰りなさい」
二頭がふっと消えて、周囲が真っ暗闇に包まれます。
☆ ☆ ☆
気がつくと、オチャコは明るいリビングのソファーに寝そべっていました。
テーブルの上に、戻ってきたモオカードが置いてあります。
「悪夢を見る夢は終わったのだわ……」
オチャコが、安心に満ちた表情でつぶやきました。
壁の時計を見ると、午後六時になったところ。
「台風で動かない電車はどうなったかな?」
オチャコは、お父さんとお母さんが心配なので、テレビのニュースを調べることにしました。
天気予報を見たところ、関東地方は広い範囲で晴れて、穏やかなXmas Eveを過ごせるでしょうと伝えています。
「ああ、そうか! お母さんからの電話って、夢の中だったわ」
突如、玄関の扉の開く音が聞こえました。
「帰ってきた!」
オチャコが急ぎ駆けつけます。
玄関には、見覚えのある顔の老婆が二人います。
「きゃあ!」
「うふふ、お母さんよ」
「こっちはお父さん」
老婆の顔は、パーティーで使う変装グッズだったのです。
「もおぉ~、驚かさないで!!」
「ごめんね」
「メリークリスマス!」
パン、パ~ンと音が鳴りました。クラッカーのサプライズです。
「それはパーティーが始まってからにしてよね!」
「うふふふ」
「ごめん、悪かった」
二人が無事に帰ってくれたので、大目に見てあげようと思いました。
牛おじさんは命に別状がなく、数日で退院できるらしいです。
予定の時刻より少し早いけれど、お父さんとお母さんとオチャコの三人、水入らずで鴨しゃぶ鍋パーティーを始めます。