夢の中で見る悪夢
キッチンに行って、土鍋の中に材料を入れます。蓋を載せて、ガスコンロの火を点けます。
この時、また「パンパンパン、おいしいパン」が聞こえました。
オチャコがリビングに戻ると、電話の音が止まります。
「ああ、切れちゃったね……」
がっかりしてキッチンに行くと、土鍋から薄黄色の煙が出ています。
「もう煮えた??」
蓋を開けると、唐突に白い動物が出てきました。
「きゃあ!」
「くっくう」
それは真っ白の鳩でした。
「ああ、びっくりした。あなた、急に飛び出しちゃ危ないわ」
「くるぅ」
白い鳩は飛び去ります。土鍋の中を見ると空になっていて、それが、パーティーで使う手品の道具だと気づきました。
鴨しゃぶ鍋を諦めてリビングに戻ると、クリームパンの包みが三個、テーブルの上に置いてあったのです。
「これでもいいわ」
オチャコは、クリームパンを完食します。それからソファーに寝そべって推理小説を読むのです。
★ ★ ★
気がつくと、殺伐とした荒野に倒れていました。
「ああっ、ここはどこかしら!?」
一メートルくらいの細長い石が立っています。
それは墓標でした。正面に「浅井家と茶幡家の墓」と書いてあります。石の横側を見たところ、オチャコのお父さんとお母さん、チャバタおばさん、牛おじさんの名前が並んでいるのです。
「ああ、四人は死んじゃったのね。あたし一人で、どうしよう……」
「そりゃ大サービスだからね。いひひひ」
後ろから声が聞こえました。
オチャコがふり返ると、モオカードを奪った老婆が立っています。
「あ、ずるいお婆さん!」
「ずるくないよ」
「もおぉ~、こんな夢すぐに終わらせてよ!」
「いいのかい?」
「もちろんだわ!」
「終わらせてやるよ。いっひひひ」
老婆が服のポケットからミニサイズの土鍋を取り出して、蓋を開きます。
すると、薄黄色の煙がもくもく出て、周囲を包むのです。
★ ★ ★
気がつくと、オチャコはリビングのソファーに寝そべっていました。
「あっ、あたし夢の中で眠っていたのか……」
「そうだよ」
すぐ近くで声が上がりました。
オチャコが身体を起こしたところ、テーブルを挟んだ向こう側のソファーに老婆が座っています。
「なんでいるのよ!」
「大サービスだからね。いひひ」
「そんなのサービスなんかじゃないわ!」
「夢ドリームパンを食べたね」
「あ、そうだった!!」
オチャコは、老婆が「それを食べてから見る夢の中で夢を見れば、あら不思議、なんと現実になるのだからね」と言ったことを思い出します。
「もしかして、目が醒めたら、お父さんとお母さん、チャバタおばさん、牛おじさんが、死んでしまっているの?」
「もう遅いよ。いひひ」
「そんなの嫌だわ!」
抗議しても、老婆は気味の悪い笑みを浮かべているだけです。